【指】





兄が両腕を骨折した。
やったのは俺だ。
もちろん、
兄は犯人が俺であることを知らない。
何も知らずに。
今、
目の前で狼狽している兄は愚かで可愛い。
俺は兄を愛している。
誰よりも、
何よりも愛している。
自虐的な暗い性格も、
人見知りな所も。
愛している。
だから折ったのだ。
兄のことになると俺は自分が抑えられない。
俺は正直、
毎日が楽しくて仕方なかった。
会社の休暇をとっている兄の世話を、
すべて俺が行っているからだ。
一人暮らしの兄を心配し、
母が俺に世話をするように言いつけ、
俺は仕方なく母に頼まれる形で世話をする。
そういう筋書きだった。
俺の思惑通りに事は進んだ。
母は兄が苦手だったからだ。
兄は俺が世話をすることに不安そうな顔をしていたが、
やはり両腕を骨折しては生活もままならないのだろう。
俺の顔を見ずに、
横を向いたまま兄はよろしく頼むと呟いた。
兄は俺の目を見て話さない、
俺と視線を合わせることができないのだ。
生活の全てを俺が世話をできるのはまさに理想だった。
食事もトイレも風呂も。
兄の生活の全てを俺は握っているのだ。
俺が両腕を折らせたのに、
それにも気付かずに兄は俺に感謝しているようだった。
何も知らない兄は毎日、
俺に不器用そうな顔で感謝を言ってくれる。
だが、
兄は俺に介護されるのが内心少し恐れているようだ。
兄は自分がゲイだということを隠したがっているのだ。
俺は兄がゲイなのだと知っていた。
兄は必死で隠し通しているつもりになっているが、
小さいころから兄ばかりみていた俺には筒抜けだった。
今日も、
兄は風呂に入ることを嫌がった。
俺の前で裸になるのが嫌なのだ。
昨日入ったのだから今日はもういいだろう?
と少しだけ焦りながら言った兄に、俺は小さく苦笑した。
だったらせめてタオルで拭いて綺麗にしてやると、
譲らない俺に、
兄はしぶしぶ従った。
俺は、兄の服を脱がすのが好きだった。
服の生地が兄の肌と擦れあう音も、
生地の下から伸びれてくる肌の白さも。
大好きだった。
俺に脱がされている間、
兄はいつもそわそわと落ち着かない様子でいる。
まるで怯えた小鹿のようだ。
その愛しい首を圧し折って殺すことも、
俺の自由だ。
狼狽する兄は愛しかった。
兄は明らかに俺に男の性を意識していた。
俺がそうなるように仕向けたのだ。
兄の好みに沿うように、
俺は昔から努力をしていた。
学生時代の時からだ。
兄はサーファーのような筋肉が好きだったようだ、
だから俺は中学時代からサーフィンと水泳で身体を鍛えた。
全ては兄のためだ。
兄のためならば、
俺はどんなに辛い努力だってする。
たとえそれがタブーでも、
俺は簡単に犯すことができる。
兄が、
俺の身体を見て顔を赤らめたあの記憶は、
今も俺を喜ばせた。
初めて兄が俺に性を意識した瞬間だったからだ。
県の水泳大会で俺が準優勝した時の記憶だ。
俺は中三で、兄は高一だった。
水泳大会の応援に兄が来ていた時だ。
忘れもしない、
海の記念日だった。
完全に兄のためだけにはじめた水泳だったが、
俺は県大会に出場することができたのだ。
俺は結局準優勝で終わったが、
準優勝までいけて嬉しかったと、俺は兄に抱きついたのだ。
スポーツ選手が仲間と喜びを分かち合うようなフリをして、
俺は兄に強く強く抱きついた。
濡れた身体のままで、
兄の好みになるように必死に努力した身体で、
俺は兄に抱きついた。
水で濡れたからだに抱きつかれた兄は、
濡れるから止めろと抗議した。
顔を赤らめて、
息を乱し。
兄は動転していた。
俺に男の性を意識したのだ。
その証拠に。
悪い、と言って俺が離れた後も、
兄は俺の身体をふとした拍子に盗み見るように見ていた。
弟の俺に欲情する兄。
その時の兄はとても罪悪感に満ちた顔をしていた。
だが明らかに感じる欲情は抑えられなかったのだろうか、
その日以来、兄は度々俺の裸を横目で盗み見る時があった。
俺が高一で兄が高二の時だ。
俺が風呂上がり、わざと薄着のままでいると、
兄はまた俺を意識して横目で見ていたのだ。
そして少しして、
またあの罪悪感に満ちた顔を見せる。
俺は優越感を覚えた。
大好きだった兄が俺の身体に性を感じているのだと思うと、
嬉しかったのだ。
それに兄の罪を感じている表情は、
俺の雄の性質を強く刺激した。
辱めてやりたい、
その頃からそう強く思うようになった。
俺はもっともっと兄のタイプになるように努力した。
学校でも兄はまじめだった、
きちりと学生服のネクタイを締め、ボタンの一つも乱すことなく、
兄はまさに模範生のような生徒だった。
だがその反面、兄のタイプは軟派な男のようだった。
俺は兄の好みに合うように、
髪を染め、
肌を焦がし、香水をつけ始めた。
外見は頭の悪い学生に見えるだろうが、
俺の思惑通りに話は進んだ。
兄はますます俺を意識するようになったようだ。
ふとしばらく、
過去を夢想していた俺の様子を兄は伺っていた。
兄は俺の指が好きなようだった。
俺は兄の身体を拭き始める。
兄は少し俯きながらも、
しかしとても心地よさそうに、
俺の奉仕をうけていた。
兄はなんだかんだいっても、
俺に身体を清めてもらうことが好きなようだった。
俺の指が兄の肌を掠めるたびに、
兄は顔をますます赤くする。
その様子にかわいい、とそう感じてしまう。
本当はこのまま押し倒して兄の欲情に応えてやりたかったが、
俺は我慢した。
兄の方から俺に乞うのを待っているのだ。
兄はやはり、
弟の俺に欲情してしまっている自分をとても恥じているようだ。
俺の方がその何倍も兄に欲情しているのを知らないのだろう。
母の言いつけで仕方なく介護していると、
いまだに勘違いしている。
兄は、
その俺に欲情している自分が許せないのだろう。
兄は普段からまじめな人間だった。
成績も優秀で素行も優良、
非の打ち所のない完璧な人間だ。
だが兄は少し愚かだった。
人の感情の機微に疎く、
空気が読めない。
俺はその兄の内心の葛藤が楽しくて仕方がない。
兄が葛藤に負けて、
快楽を乞うのを俺は今か今かと待ちわびる。
この閉鎖空間を俺は楽しんでいた。
兄は、両腕を骨折してから一度も射精をしていないようだった。
だから純粋に、
欲求がどんどん溜まっているのだろう、
普段以上に欲情している気がする。
俺はそれに気がつかないフリをして、それをじっくり観察していた。
ふとした拍子に兄の性感帯を煽ると、
兄は顔を唇をかみ締めて耐える。
塗れたタオルで身体をふき取ってやる時に、
わざと兄が感じる部分を重点的に撫でる。
兄の身体はとても敏感になっていた。
兄は、
身体を清める行為に感じている自身を恥じているようで、
必死に堪えている。
足の指先に力がこもり、
丸まり赤みを帯びる。
唇を噛み締めていた。
その姿はとても扇情的で俺は喜びを覚えた。
俺の雄としての本能を大きく刺激した。
俺は兄を追い詰めることに至上の喜びを感じる。
少しづつ、だが確実に。
兄が俺のものになっていくのを感じると、
俺の中の欲望は満たされていく。
兄をもっと可哀想にしてあげたい。
惨めに打ちひしがれる姿を見たかった。
そして俺だけをもっと愛させたい。
兄に見えないように、
口の端が歪むのが自分でも分かった。
兄は本当に可愛い。
俺だけの兄なのだ。
内股を拭くときに、俺の腕をわざと兄の素肌に擦り付ける。
肌と肌が触れ合う感覚に兄はもっと欲情した。
兄は俺と素肌があう度に小さく声を抑えていた。
思わず漏れる声を必死に我慢しているのだろう。
兄と目を合わせる。
兄は一瞬、惚けた顔を見せていた。
だが俺が見ていたことに気がつくと、
すぐに顔を背けた。
本当は肌のあう心地よい感覚に酔っていたのだろう。
兄の困った顔はとても可愛かった。
俺は内心の興奮を隠して、真顔のままに兄に訊ねた。
「どうした?どこかまだ痒いところでもあるのか?」
「…あ、いや…大丈夫だ」
兄はまだ少し頬を赤く染めている。
兄を自分のモノにしたくてたまらない。
欲情を抑えている兄は、本当は射精したくてたまらないのだろうか。
ギブスを巻いた両腕で、
猛った性器を隠していた。
気付かれないように観察すると、
兄はやはり勃起させていた。
腰をモゾモゾと動かし、浮ついた顔で狼狽している。
けれど俺はそれにまったく気がつかないフリをして、
拭き取りを再開する。
兄はその間、
ずっと俯いたままに俺の奉仕に顔を赤くしていた。

怒声が響いたのは翌日のことだ。
母が兄を罵倒しているのだ。
母に詰め寄られて、
兄は可哀想なくらい顔を青褪めて狼狽している。
まるで罪人のように、
兄の瞳は泳いでいた。
久しぶりに顔を見せた母に、
兄がゲイだということがばれたのだ。
兄が部屋の奥に必死に隠していたゲイ雑誌を、
母がモノを探すときに偶然見つけてしまったのだ。
もちろん、
兄が隠していたゲイ雑誌を、
わざと見つかりやすい場所に移していたのは、
俺だ。
母から兄を取り上げたかったのだ。
元からギクシャクしていた二人だ、
この一件ですぐに二人の関係は破綻するだろう。
親子の絆より俺の愛が勝っていることを、
兄に教えこみたかった。
母が兄を見捨てれば、
今の兄には俺しかいなくなる。
俺しか頼ることのできない兄が、
どんな顔をするか見てみたかったのだ。
兄を手に入れるためなら、
俺はどんな手段でも厭うつもりはない。
兄は俺だけのものなのだ。
母に詰め寄られる兄をみて、
また怒りに打ち震える母を見て、
俺は確信した。
母は兄を捨てるのだろう。
兄が何をいいわけしても、
母は兄を罵倒し続けている。
兄はずっと唇を噛み締めて、
罵倒を受け続けた。
その姿は本当に小さく映った。
兄はいたたまれないのだろう。
母に糾弾される事に反論できないのだろう。
一度俯いてしまった兄は、
その後、一度も面を上げなかった。
母が兄の頬を叩いた。
兄は軽く倒れ、
痛みに揺れている。
そして、
重い捨て台詞を吐き、
母は帰っていった。
けが人に暴力を振るう母は感情的な人間だ、
俺はとばっちりを受けないように母から隠れた。
中の様子をこっそり探る。
兄は肩を震わせて、
そしてしばらくして。
嗚咽が漏れた。
兄が泣くのを見るのは久々だった。
あの兄が泣いている事実に、
俺は震えた。
背筋に鋭い感覚が通り過ぎた。
快感だった、俺の背中が兄の様子にざわついたのだ。
俺が何度も夢見た表情だ。
興奮すら覚えた。
計画通りに進んだ達成感も手伝い、
俺は悦に浸る。
兄を陥れるのは昔から大好きだった。
兄はいつも、
俺が黒幕なのだと気付くことはない。
兄が盲目的に俺を愛していたからだ。
兄の泣く姿。
十分にその様子を観察した後。
「兄貴?いるんだろ、入るぞ」
俺は何も知らない顔をして、
兄の部屋に足を踏み入れる。
目に入ったのはやはり、兄の惨めな可愛い姿。
「っ…!」
急に開いた戸に、
兄は顔を引き攣らせた。
俺も驚いたフリをする。
泣く兄を見て驚き、
そして部屋の惨状に目を移す。
乱れた部屋。
母と兄の争った、
いや母が一方的に兄を責めた形跡だ。
部屋の中には、
母がさんざんに糾弾していたゲイ雑誌が散らばっていた。
母が兄に向かって雑誌を叩きつけたのだろうか。
あたり一面に、
隠し切れない証拠が散乱している。
兄がゲイだという証拠だ。
俺は呆然と部屋を眺めるフリをした。
ただ黙ったままに、
落ちた雑誌をみつめる。
雑誌の表紙はともかく、
中にはいかがわしい内容のページも映る。
兄がこういう雑誌をみていた事実。
俺は内心でほくそえんだ。
兄を犯したらどんな声で啼くのだろう。
俺は黙ったままに、
兄を見た。
兄は俺の視線に怯えている。
ゲイだとばれた事が怖いのだろう。
いままで必死で隠してきた事実を、
俺に知られたのが怖いのだろう。
ただでさえ母に罵倒された上、
俺にまで罵倒されるのだと恐怖しているのだろうか。
兄はいつも自分がゲイであることを隠していた。
それこそ四六時中、
兄は警戒して神経を張り詰めていたのだ。
周囲に同性愛者だと知れることは、
内向的な兄にとっては耐えられることではなかったのだろう。
いくら日本が同性愛に寛容だと言われているとはいえ、
実際の社会においてそれは当てはまらない。
閉鎖的な会社では尚更だ。
兄は俺にすがるような瞳をして項垂れていた。
だが決して視線が合うことはない。
きっと、兄の中にはいろいろな感情が巡っているのだろう。
母のことや自分の事。
自分の性癖を責めて、
追い詰められていく兄の心が手に取るように分かった。
母に見捨てられ、
友人もほとんどいない兄。
頼れるのはただ俺ひとりだけなのだ。
もし、
俺に見捨てられたらと、
心には恐怖が襲っているに違いない。
可哀想で、愛しい俺の兄だ。
沈黙を破ったのは俺のほうだった。
「兄貴、もしかしてホモだったの?」
俺の問いに、兄はますます顔を曇らせた。
しばらくまた沈黙が続き、
「…ごめん」
兄は謝った。
兄は自分がゲイだということに罪悪感を感じているのだ。
俺も兄に欲情していると、
救いを述べてやれば兄は簡単に立ち直れるのだろう。
だが、
俺はそんなもったいない事はしない。
兄にもっと俺に対して罪悪感を感じ、依存させたかったからだ。
俺は兄を独り占めしたいのだ。
こんなにかわいい兄を、
他所の男に渡すわけにはいかない。
幸い、兄は自分の外見が男にも女にも好かれている事に気がついていない。
兄はとても嗜虐心をそそるのだ。
苛めたくなる人間像といったところか。
兄は自分に劣等感を持っている。
しかもかなり強烈なコンプレックスだ。
高校時代に俺が植えつけた傷だ。
友人を使い、兄を誘惑させたのだ。
兄の好みのタイプを選び、
好みの髪型をさせ、誘惑させた。
兄は友人の誘いにまんまとひっかかり、
数日付き合い、
そして手酷く振られた。
やはりその事実を兄は知らないでいる。
あの時の、
兄の泣き顔はいまでも俺のお気に入りだった。
馬鹿な兄だが、
そこがまた俺の好みだった。
「なんで謝るんだよ、別に俺そんなの気にしないって」
俺の言葉に兄は驚いていた。
おそらく初めてなのだろう。
自分がゲイだと知って受け入れの言葉を貰うのが。
理知的な兄の顔に浮かんだ涙はおおいに俺をそそった。
夕刻の日差しが、
俺と兄の影を伸ばす。
兄の途切れ途切れの荒い呼吸が、
嗚咽が、
俺の耳を犯す。
「すこし驚いたけど、さ」
と、俺は苦笑して兄に笑いかけた。
兄は俺の好意的な反応にますます泣いた。
俺は兄を抱き起こした。
そして兄の泣き濡れた顔を、俺のシャツで拭いてやる。
兄は自分で涙を拭くこともままならないのだ。
兄は長い時間、俺の腕の中で泣き続けた。
普段なら理性が邪魔をし、そんな事は絶対にしないのだろうが、
母に責められ気が動転しているのだろう。
俺の中で泣き続ける兄はとても愛しい。
しばらくして、
気が落ち着いたのか。
兄が俺から離れた。
泣き濡れたせいで、
兄の眼は普段より充血し、少し膨らんでいた。
「ごめん」
兄が自嘲的に呟く。
唇を噛み締めて、
兄は自分がゲイなのだと語った。
かつて俺の友人と付き合っていたこと、
そして母に罵倒された事を俺に話す。
兄は誰かに聞いて欲しかったのだろう。
俺は黙って兄の話をきいてやる。
話は過去の事まで遡り、
兄の懺悔が続いた。
兄は愚かだ。
だがそこが魅力なのだ。
俺は話を聞きながら、
兄がまた一歩俺だけのモノになった事を喜んだ。
しばらく語りつくしたのか、
兄は喉が渇いているようだ。
俺は冷蔵庫から麦茶を取り出し、兄に飲ませる。
兄はそれを少しづつ飲む。
だが俺はわざと手を滑らせた。
麦茶は兄と俺の服を濡らし、
床に零れる。
「あ、悪い…、濡れちまったな」
「いや、大丈夫だ」
俺は濡れた自分の服を脱ぎ、
そして当然のように兄の服を脱がし始めた。
「あ、大丈夫だって、すぐに乾く!」
俺の行為を兄は制止した。
半裸の俺に服を脱がされるのが嫌なのだ。
だがその言葉を俺は却下する。
「何言ってんだよ、風邪引いちまうぞ」
兄の服を脱がせるのはもう慣れていた。
「だから、やめろって!」
「別に気にするなよ、
まさか兄弟にそういう気を起こしてるわけじゃないだろ?」
わざとだ。
わざと兄を傷つけた。
「……!」
俺の言葉に兄の心は大きく傷ついたようだ。
さきほどまでの表情は消え、凍り付いている。
まさに確信をつかれたのだろう。
俺は兄を追い詰めるために更に続ける。
驚いた表情を作り、兄を睨む。
「マジかよ……」
俺の言葉に兄は顔を歪めた。
一時の間を作った後。
みるみる内に涙がこぼれ始めて、
兄はまた項垂れた。
短い黄昏は終わり、
部屋はすっかり暗くなってしまった。
もう終わりだ、とそう思っているのだろう。
兄は初めて大声を出して泣き始めた。
嗚咽に混じり、兄の悲鳴に近い声が漏れる。
俺にその感情がばれることが、
何よりも恐れていたことなのだろう。
兄の心は脆かった。
怪我をしている事がその精神を、さらに不安定にさせるのだろうか。
兄が泣きじゃくる様子は、
魅力的だ。
これから兄は何度泣くのだろうか。
考えるだけで背筋がざわついた。
「泣くなよ、うるせぇな」
泣き続ける兄にむけて、
俺は少しだけ救いを述べてやる。
「悪かったよ、気がつかなくて。
だがいいか、俺にはその気なんてないからな、勘違いするなよ」
上着をかけ直してやる俺に、兄の身体がピクリと跳ねた。
兄は俺の言葉に嗚咽を漏らしながら頷いた。
散らばった雑誌を片付け、
兄を慰める。
兄はその間ずっと泣いていた。
やがて、
兄が呟いた。
「まだ俺の世話、見てくれるのか?」
か細い声だった。
「仕方ねえだろ。
他に頼れる知り合いなんていないんだろ」
「ほんとに、ごめん…」
兄は最後まで俺の目を見なかった。
兄の中でまた罪悪感が募ったのだろうか、
兄の表情はますます曇っていった。

その日から、
兄は俺の介護に顔をますます赤らめるようになった。
俺にゲイだと知られたせいなのだろうか、
兄は俺が触れるたびに欲情しているように思える。
今も同じ風呂に入り、
身体を洗ってやっているところだ。
俺の前に兄を座らせ、
身体を丁寧に洗う。
兄はその間、
ずっともぞもぞと落ち着かない様子だ。
「もしかしてさ、
兄貴、俺に扱いて欲しいとか思ってるの?」
「ば、何言ってるんだ!」
声では抗議しているが、
身体の反応は素直だった。
おそらく俺に手でされる情景を想像してしまったのだろう。
「だって兄貴さ。
両腕折れてから一度も出してないんじゃねえの?」
俺は続けて、至ってまじめな声で言う。
「夜寝てるときに出されると困るんだけど」
暗に夢精したら後が面倒だと、
兄を責める。
「だって、仕方ないだろ」
兄は顔を顰めた。
本当は俺にして欲しくて堪らないのだろうが、
兄は耐えているようだった。
その様子を見つめて、
俺は背後から兄の猛った性器を掴んだ。
兄が抗議の声をあげる前に、
俺は兄を制止する。
「して欲しいのか、して欲しくないのか。
どっちなんだ?」
「え…?」
俺の言葉に兄が動揺した。
だが俺の指の中で兄の雄は存在を主張して、
まだかまだかと強く脈打っていた。
「出したいならさっさと出しちまえよ。
いつまでも興奮されっぱなしだとこっちが困るんだよ」
「ごめん…」
兄はまた謝った。
「だから、どっちなんだよ?」
「して…、欲しい」
責める俺の言葉に、
兄は俯いたまま小さく声を漏らす。
その言葉に俺は満足した。
「いいか、こっち見るんじゃねえぞ。
目瞑って、誰か他の男でも想像してろ」
言って、
俺は兄の性器を絞った。
「ぁ………ぁ!」
茎を摩り、乱暴に扱いてやる。
兄の全身は痙攣したように揺れ、俺の腕の中で数度跳ねた。
おそらく、
兄の中ではもう何も考えられないほどの快感が襲っている筈だ。
兄はすぐに果ててしまった。
俺の手を兄の精子がたっぷりと汚した。
荒い呼吸をし、
兄は惚けたままの表情で俺の胸にもたれ掛かって来た。
その体重の心地よさに、
俺は思わず微笑んでしまう。
だがその表情を兄に見せるわけにはいかない。
兄はまだ惚けたままだ。
本当に気持ちよかったのだろう。
恍惚の表情で、
俺に身を預けたままだった。
「ったく、いつまでもたれかかってるんだよ。
重いっての」
「……!ご、ごめん」
兄はやっと我に返ったのか、
急いで俺から離れようとした。
だが勢いをつけたせいで前に転倒してしまいそうになる。
俺は急いで兄を抱きかかえる。
すると、
密着した体が兄の欲を煽ったのか、
また兄の生殖器が存在を主張し始めた。
「なんだよ、一回じゃ足りないってか」
そういって、
俺はまた背後から抱きしめるようにして、
兄の性器を愛撫する。
「や……、違うって!やめろ」
兄の抗議を俺は無視した。
「静かにしてろって、
発情した犬みたいに毎回おったてられたら、俺だって困るんだよ。
今ここで全部出し切れって」
俺の言葉を耳にしながら、
兄は俺の愛撫に反応しはじめた。
俺は兄を何度も果てさせた。
ずっと我慢し続けた兄の欲情は絶え間なく放出された。
そのうちに、
兄は誘惑に負けてしまったのか。
淫乱に俺の動きに併せて腰を蠢かし、
俺に身を預け続けた。

風呂からあがると、
兄はいたたまれない気分で仕方ないのか、
一度も俺の方を向かなかった。
どこかいじけた様子だった。
普段の理知的な表情の面影はみられない。
思えば普段は髪を上げていたのが、
この生活になってから、髪を下ろしている影響もあるのかもしれない。
風呂から上がって、
兄は一度も口を開かなかった。
きっとまた罪悪感に襲われているのだろう。
弟の俺に性処理をさせたことを、
悔やんでいるのだろう。
だがおそらくは、
それでも幸せを感じてしまった自身が恥ずかしいのだ。
兄はそういう人間だった。
そろそろ頃合か。
兄を犯してもいい時期だろう。
兄はもう俺から離れられないはずだ。
俺は冷蔵庫からアルコールを取り出し、
一気に煽る。
しばらく、
一人で飲み続けて、
兄の元に絡みにいく。
もちろん、
俺はそれほどに酔ってはいない。
だが兄の眼には、俺は泥酔しかかっているように思えるだろう。
兄は俺の様子に戸惑っているようだった。
兄は俺が酔うと記憶を失うと思っているのだ。
これは兄にとってチャンスなのだと、
思わせなくてはならない。
俺はそんな兄の顔をまじまじ見つめ、
「ったく、なんだよ自分だけスッキリした顔しやがって」
俺は兄を責めるように言い始めた。
俺の言葉に、
兄はまたゴメンと謝った。
「謝るくらいなら、兄貴がなんとかしてくれてもいんだぜ?
俺、兄貴のせいで外にも遊びにいけないんだし、な」
謝る兄の顔を見つめて、
俺は冗談交じりに溢す。
これは合図だ。
兄に興味を持っていると、兄に分からせる。
合図だった。
兄は簡単に落ちた。
「目、閉じててくれ……」
俺の目の前に跪いて、
俺のスウェットを口で下ろし始めた。
「おい、なんだよ!」
俺の言葉も構わずに、
兄は俺の下を脱がした。
飛び出た俺の陰茎を、兄は躊躇わず口に咥えこむ。
柔らかい感触が襲った。
「へぇ、上手いじゃん」
俺の言葉に兄は顔を赤くした。
だが俺のモノを咥えることが嬉しいのか、
兄は舌先で俺を愛撫し始めた。
まるで美味しいモノでもしゃぶる様に、
兄は咽の奥まで受け入れる。
俺はあまりの快感に声を漏らしてしまう。
想像以上だった。
兄の奉仕はとても気持ちが良い。
一生懸命に俺を気持ちよくさせようと、
努力する兄の健気な様子が俺をいっそう猛らせる。
しばらくして、
俺は我慢できずに兄の口の中に白濁を放つ。
兄は全てを飲み込んだ。
兄は少しだけ冷静に戻ったのか、
「ごめん」
俺を見て、
再び謝った。
俺はもう我慢ができなかった。
軽い酔いも手伝い、
俺の本能は目を輝かせた。
兄を組み敷き、責めるように兄を襲う。
もう止められなかった。
「兄貴さ、俺に欲情してるんだろ?
しゃぶってる最中マジでいい顔してたぜ、そんなにオレの欲しかったのか?」
「ごめん……」
「一々謝るんじゃねえよ!」
俺の怒声に、
兄が跳ねた。
だがその動きも俺は押さえつける。
兄を怒鳴りつけたのは初めてだ。
兄も俺の始めてみせる怒りに、
驚愕を隠せないようだった。
もっと追い詰めてやる。
もっと、もっと追い詰めて。
俺だけの、
俺のための兄を作り上げてやるのだ。
「前から嫌いだったんだよ、兄貴のそのすぐに謝る癖。
だいたい謝るぐらいなら俺に欲情してるんじゃねえよ、気持ち悪ぃな」
兄の顔色が見る見るうちに、歪む。
罪悪感の塊のような兄は、
今心の中で必死に詫び続けているのだろう。
「っ……!ごめん……」
「だから、一々謝るなっていってんだろ!」
兄の髪を掴み上げ、
目をまっすぐに見つめ怒鳴りつける。
兄はいたたまれない気分になっているのだろう。
だがそれとは裏腹に、
俺に言葉で責められることに欲情しているようにも思える。
兄はマゾヒストなのかもしれない。
「兄貴さ、
もしかして本気で俺のことが好きなの?
欲情してるだけじゃなくてさ、
一緒に同じ布団に眠ったりデートしたりとか、そういうメルヘンな発想してるわけ?」
「……ごめん」
謝る兄の顔はとても艶っぽい。
俺に組み敷かれていることで、
兄も性を感じてしまうのだろう。
「ならヤラせろよ、口でして貰うだけじゃ足りねえぐらい、
分かるだろ。
俺のこと好きならできるよな?」
「なに……言ってるんだ」
兄は怯えた様子を見せているが、
すぐに落ちるだろう。
本当は期待に満ちた感情でいっぱいの筈だ。
乱暴に兄を床に押さえつけた。
軽く暴れる兄の頬を、数発軽く叩いた。
「この淫乱……。何叩かれて喜ばせてるんだよ?」
「違うっ!」
そう。
兄は俺に頬を叩かれてさえも猛ったままだったのだ。
俺の好みに調教してやろうと思った。
俺の顔を見るだけで猛り、
淫らに股を開くように。
もう、
抑える必要はないのだ。
これは兄が望んでいることなのだ。
「俺に犯して欲しいんだろ?」
「……ちが……っ、………やめろ!」
逆らう兄を黙らせるために、
俺は兄の唇を奪った。
無理やりに口を開かせ、
奥までたっぷりと、口腔を犯す。
兄の口の中はまるで菓子のように甘かった。
甘くていつまでも齧り付いていたい。
逆らう気など起きないように、
俺は荒々しく兄の舌を嬲った。
兄は小さく息を乱し、
俺の舌の動きに酔っていた。
一旦離れて、
兄の様子を伺う。
兄は顔を赤く染め、
快感に酔っているようだ。
だが、俺が観察しているのに気がつくとすぐさまに、
顔を背けた。
罪悪感と快楽とで揺れる兄の表情。
そのなんともいえない表情は兄の魅力だ。
もっと狂わせてやろう。
兄が俺だけを感じられるように、
俺は兄に目隠しをした。
そして抗議の声が上がる前に、
口を塞ぎガムテープで覆う。
兄は恐怖で震えていたが、
まだ猛ったままだった。
兄はこんな行為にも興奮しているのだ。
目を塞ぎ、
口を塞ぎ、
そして最後に耳栓をした。
両腕は骨折していてもちろん満足に動けない。
兄はまるで俺のために用意された性道具にさえ思える。
大好きな兄の痴態に、
俺は満足した。
小刻みに身体を震わす兄の頭を撫でてやる。
優しく、
あやす様に。
しばらくして、
俺は兄の処女を嬲り始めた。
ローションをたっぷりと指に塗り、
奥へと指を侵入させる。
兄は小さく跳ねた。
俺の指の動きに合わせて、
塞いだ口から嗚咽が漏れる。
純粋に怖いのだろう。
怖がる兄の髪を再度撫でてやる。
兄が落ち着くように、
身体を撫でてやる。
兄をあやしながら、
俺は侵入させた指で中を拡張し続ける。
やがて兄の感じる場所を見つける。
兄は入り口から腹の内側へと指を擦らせるのが好きなようだ。
兄の呼吸は乱れ、
屹立した陰茎からは液が垂れ始めた。
兄が強く感じている証拠だ。
俺は兄の感じる場所をもっと探す。
指の数を増やし、
内部を蹂躙する体積を伸ばす。
指を引き抜きピストンさせながら、
指の隙間にローションを垂らし内部に浸透させる。
これからたっぷり一日をかけて犯すのだから、
よく解しておかなければならない。
俺は指で犯しながら、
兄の乳首を舐り始めた。
舌の先で転がすように、
兄の尖り始めた乳首を舐める。
兄が声を漏らすのを確認し、
さらに口の中に含みしゃぶる。
少し噛んでやると、
兄はまた跳ねた。
しばらく全身を嬲りながら、
俺は指で犯し続ける。
もうそろそろいいだろうか。
俺は兄の中から指を引き抜いた。
兄の処女は蠢きながら、指を求めてヒクついている。
俺は兄の内部を傷つけないように慎重に、
犯し始めた。
「……っく……」
兄の内部はよく解れていたが、
やはり少々キツイ。
指で確かめた兄の感じる場所を擦るように、
ゆっくりゆっくり犯した。
兄はすでに俺の動きに快楽を感じているようだ。
挿入のきつさよりも、
俺に犯されたことに感じているのだろうか。
兄の猛った竿は液を零し続けた。
やっと最奥まで犯した時には、
兄は俺の身体に脚を絡めかけていた。
射精させて欲しくてたまらないのだろうか。
兄は俺にねだるように唸り始めた。
兄が腰を揺らすたびに屹立が跳ねている。
先端から零れ続ける粘膜が兄の腹を汚す。
薄く白い、粘った液は兄が感じている証拠だ。
俺は嬉しかった。
このまま前に触らずにいかせてやることにした。
兄の感じるスポットを乱暴に犯す。
先端を使って捏ねる様に、
犯し続ける。
指で兄の乳首を嬲り、薄いが硬い筋肉を揉みこむ。
首筋を舐め、
咬み付く。
全て兄が感じる場所だ。
兄のために、
俺は奉仕し続けた。
兄の荒い呼吸が、
ガムテープ越しに伝わってくる。
俺はラストスパートをかけるえように、
乱暴に腰を叩きつけた。
乳首を強く捏ね上げたとたんに、
兄は達した。
兄の白濁が俺の腹を汚した。
俺はそれを手で掬い、
兄の口を塞ぐガムテープを剥ぎ、
口に注ぎ込む。
兄が吐き出すよりも早く、
俺はまた兄の口を塞ぐ。
兄は躊躇したあとそれを飲み下した。
飲んだのを確認すると、
俺はまた腰の動きを再開させる。
今度は兄の陰茎を扱くことにした。
まだ萎えたままの兄の雄を、
手で扱く。
良くすべるようにローションを垂らし、
揉みこむ。
兄はまたすぐに屹立させた。
そして俺の陰茎で兄の内部を犯し続ける。
何度も犯し続けると、
また兄が果てた。
吐き出した白濁を俺はまた掬い上げ、
兄に飲ませる。
これは調教の一環だ。
兄に教え込ませているのだ。
そのうちに兄は泣き出してしまったようだ。
だが目隠ししたそれでは表情までは読めない。
だが俺は犯し続ける。
兄を調教するために、
俺は犯し続けた。

行為を終えて、
気絶した兄をまた洗ってやっていると、
兄がやっと目を覚ました。
そして俺の顔を確認すると、
恐怖を感じたのだろうかうっすら涙を浮かべて俺を見ていた。
男に犯されるのが初めてだったからだろう。
兄は足腰も満足に動かせないようだ。
「兄貴が悪いんだぜ、俺を誘惑したのはアンタだ」
兄は何かを言おうと口を開くが、
思うように声がでないのだろうか。
その口からは言葉は出てこなかった。
何もいえずに俺を怯えた目で見つめている兄に、
俺は強引にキスをした。
兄は抵抗したが、あまりにも弱い。
あっさりと兄の唇を奪い、
征服する。
俺が支配者なのだと教え込ませるために、
たっぷりと舐った。
そして中に散々埋め込んだ俺の精子を掻き出す。
濡れた穴に指を乱雑に突っ込み、
中を穿る。
「ぁだ……!」
兄が泣きながら抗議した。
ギブスの巻きついた折れた腕で俺を押し返した。
当然、折れた手は痛むのだろうが、
それでも兄は俺を押し返そうと必死で腕を使う。
だが力弱いそんな抵抗なんて無意味だった。
俺は兄に見せ付けるように、
中から白濁を穿り続ける。
たっぷりと注いだ俺の白濁に、
兄は眼を背けた。
きっと兄はセックスをもっと綺麗なものだと考えていたのだろう。
純な兄の心には、
俺とのセックスは優しく綺麗なモノでありたいと願っていたのだろう。
だが、
俺はそんな兄の清い心を汚したくて堪らなかった。
兄の処女だった穴の中からは、
汚れた俺の子種が次々と溢れ出す。
中を満たしていたローションがお漏らしのように零れ始めた。
セックスとは兄の想像していた絵空事ではなく、
もっとドロドロと歪んだ、動物的で生理的な行為なのだと教え込むのだ。
兄の心を汚してやろうと思った。
大事な存在だからこそ、
汚すことが楽しいのだ。
まじめで純粋な兄だからこそ、
醜い現実に汚れていく姿が見たかった。
最奥まで指を伸ばし、
中を抉り続ける。
俺の指と処女だった穴との接点が、
淫らな音を立て部屋の中を卑猥に飾る。
粘膜が擦れあい泡立つ音だ。
兄はもう涙で顔を歪めていた。
「……ぃ……っく、っ………」
だがその啼き濡れた顔も可愛く、愛しい。
中からやっと粗相が零れなくなった。
床の上に広がる粘膜を、
俺は淡々と洗い流す。
兄は俺の腕の中で啼き続けた。

次の日から、
俺は本性を隠すのを止めた。
兄は俺の豹変振りに怯えているようだ。
長い我慢がようやく開放された。
俺は中学のときから願い続けていたのだ。
こうして兄を飼う生活を。
兄を愛する生活を。
いまやっと、全ての条件が揃ったのだ。
兄を救う人間はもういない。
父も母も、友人も。
兄には頼る他人がいないのだ。
俺が全てを排除した。
そして俺だけを愛させた。
まず兄に会社を自主退社させた。
当然兄は拒否したが、
逆らった罰として兄の大事にしていた時計を壊した。
死んだ父の形見だ。
俺は大嫌いな父だったが、
兄は父を好いていたようだ。
兄は大声を上げて俺を制した。
割れた時計を捨てようとする俺に、
兄が必死で抗議した。
折れた腕で時計を庇い、
許しを請い続ける。
俺は兄の髪を掴み上げ、
電話を持たせる。
兄は電話に向かい淡々と会社を退社すると告げた。
兄の会社も困惑していたが、
腕の病状が酷く回復の見込みが薄いと嘘をつかせると、
あっさりと承諾したようだ。
会社としても能力の低下した兄を雇い続ける余裕はないのだ。
俺の稼ぎだけでも十分生活できるから、心配するな。
と言う俺に。
兄は何も応えなかった。
ただ、折れた手で割れた時計を必死に抱き続けている。
「そんな割れた時計、兄貴にはいらないだろう?
俺が新しい時計買ってやるよ、明日一緒に買いに行こうか」
俺の言葉に、
兄は泣きそうな顔で首を横に振り続けた。
それほどにこの時計が大事なのだろうか。
俺は気に入らなかった。
兄に俺以外に大事なものなどいらないのだ。
俺は兄の腕を振り解いて時計を取り上げた。
折れた人間の手からモノを取り上げるなんて簡単だ。
「返せ!返してくれよ!」
「だから、
俺が新しい時計買ってやるっていってるだろ。
何が不満なんだよ?」
「頼むから、返してくれよ」
時計を掴む俺の指を、
兄は必死で剥がそうと折れた手で掴んでくる。
何度も、何度も。
兄は必死だった。
大事な大事なこの時計を粉々にしたら、
きっと兄はもっと可愛くなるだろう。
俺は兄の見ている前で、
時計を握りしめた。
強く握り、
時計は嫌な音を立て始める。
古い時計だ、
あと少し力をかけ続ければあっさり分解されるだろう。
「やめろよ!やめろ!」
兄は必死で腕を叩き続ける。
無駄な抵抗だった。
偽者の金属が軋む音が響き、
時計は完全に壊れた。
部品がちりじりになった時計を兄に返してやる。
もはや直る余地もなくなった時計を見て、
兄は力なく、崩れた。
「泣くなって、
兄貴にはこんな古臭い時計似合わなかったんだよ」
「………っ………」
兄はその日は泣いたままに、
夜を迎えた。

夜になっても泣いたままの兄を、
俺は床に押し倒した。
犯すためだ。
もう我慢する必要はないのだと、
兄の服を剥ぐ。
兄は必死で抵抗した。
きっと昨夜初めて犯された恐怖が襲っているのだろう。
そしてセックスがドロドロと汚れたものなのだと知って、
俺と肌を合わせるのが怖いのだろう。
いままでは、
あんなに気持ちよさそうに俺の指に酔っていたくせに。
兄は現金だ。
俺は兄を困らせてやることにした。
「なんだよ、兄貴は俺のこと好きなんだろ。
なのに俺に犯されるのが嫌だっての?」
俺の言葉に、
必死に床を這って逃げながら兄は吠えた。
「大嫌いだ!お前みたいな残酷なやつ、もう好きなんかじゃない!」
兄は嘘をついていた。
まだ本当は俺に惹かれていることを認めようとしていない。
だが俺はその言葉を帳面どおりに受け止めてやる。
「そっか。なら仕方ねぇな。
俺、もう帰るから。あとは自力で生活しろよ」
「え……、ま、待て」
呼び止める兄の言葉を無視し、
俺は躊躇わず部屋を出た。
今頃兄は焦っているだろう。
兄には俺以外に頼る当てがないのだ。
それを知っていて、
俺はこの状況を楽しんだ。
両腕が満足に動かない兄はどうするのだろうか。
裸のままで近所に助けを求める勇気は兄にはない。
おそらく俺に電話で助けを求めにくるはずだ。
だがしばらくはプライドが邪魔をしてそれを許さないだろう。
俺はじっくりと待つことにした。
電話がかかってきたのは二時間程度たってからだ。
電話に出た俺に、兄は何も言わなかった。
「どうしたんだよ、兄貴。
ション便でも漏らしたのか?」
わざと兄の心を抉る俺に、兄は嗚咽を漏らした。
兄は本当にすぐ泣くようになった。
「ごめん、謝るから……」
「謝るって、何を?」
突き放した俺の言葉に兄が息を呑んだのが分かる。
兄の頭の中には困惑で満ちているだろう。
本当に、
俺以外にもう頼る人間はいないのだ。
黙っている兄に、
俺は尋ねた。
「兄貴さ、どうやって電話かけてきたの。
ギブス巻いた手じゃ携帯のボタン押せなかったろ?」
「口で押したから……」
俺の問いに、兄は答えた。
兄が涙ながらに口と舌を使って必死に携帯を押す姿を想像し、
自然と笑みが零れる。
カメラでも仕掛けて置けばよかったと、
いまさらながらに後悔した。
「なるほどね。
じゃあいまは床に携帯置いて這いつくばって電話してるわけか」
「………そうだ」
兄は屈辱を感じるよりも何よりも、
俺がどうやったら帰ってきてくれるか思考し、
頭がいっぱいなのだろう。
「で、床に這いつくばってまで電話してきて何の用だよ?」
「だから……」
「だから?」
俺は兄を追い詰める。
冷めた俺の言葉に、
兄はとうとう会話できないほどに嗚咽を上げ始めてしまった。
そろそろいいかと、
俺は救いを述べる。
「要するに、俺に戻ってきて欲しいんだろ?」
「……、う…っ……ん……」
泣きじゃくりながら、
兄は肯定した。
「ならその時計はもう捨ててもいいな?」
「……う…ん……」
思惑通りに進んだ俺は嬉しかった。
兄をもっともっと俺好みに調教してやるのだ。
愛しい兄を、
大好きな兄を、
もっともっと可愛くしてやろう。
「良い子だ。じゃあ明日一緒に新しい時計買いに行けるな?」
「うん……」
兄が俺に屈服した。
俺は一度電話を切り、
兄の大好きなシュークリームをコンビニで買う。
兄はデパートなどで売っている高級スイーツよりも、
コンビニで買える程度の味が好きなのだ。
兄は甘いものが好きで、
きっと兄は喜ぶだろう。
俺は急ぎ兄の部屋に戻る。
兄は俺が帰ってきたことを確認すると、
またボロボロと泣き始めた。
泣き続ける兄を優しく慰め、
今日は大事に抱いてやる事にした。
今の弱った兄には飴が必要だろう。
兄を正常位で犯してやる。
中の粘膜を傷つけないように慎重に、
だが兄の感じるスポットを重点的に探る。
犯しながら兄の頭をずっと優しく撫で続ける。
触れるだけの優しいキスをして、
どれだけ兄を大事に愛しているのか教え込んだ。
「気持ち良いだろ?」
問う俺に、兄は潤んだ瞳で頷いた。
本当に気持ちよいのだろう。
兄は一度も抵抗することなく俺に抱かれた。
俺は兄の望む綺麗なセックスを徹底した。
兄は俺のセックスに溺れ始めた。
快感に瞳を揺らし、
俺を悩ましげに見る。
もっと続けて欲しいのだろう。
キスをねだる兄に今度は深く舌を絡ませる。
だが昨日みたいに犯すように舌を蹂躙はしない。
ただひたすらに優しく愛撫した。
兄はずっと溺れ続けながら、俺のセックスを受け入れていた。
行為が終わって、
俺は優しく兄の身体を清めてやる。
兄はその間、俺の指の動きをじっと見つめていた。
かつてと同じように、
俺の指が好きな兄はその行為が心地よいのだろう。
俺は兄がもっとリラックスできるように、
丁寧に、そして兄が喜ぶように優しく拭き続ける。
兄は次第に夢心地になっているようだ。
兄の身体を完全に綺麗にした時には、
兄の顔は惚けて緊張は完全に溶けていた。
俺に身を任せたままに、
半分眠りかけている。
疲れが出ているのだろう。
俺は兄が眠る前に買ってきたシューを口に入れてやる。
兄はとても嬉しそうな顔をして頬張った。
美味しいかと聞くと、
満足そうにうん、と頷く。
俺も満足だった。
兄は俺が与えた飴にすっかり酔っている。
だが甘やかせてばかりはいられない。
俺は床に落ちていた時計の破片を拾い上げ、
ゴミ箱に押し込む。
兄はその様子を複雑な表情で見ていた。
次に俺は兄の携帯を拾って、
二つに割った。
兄はさすがに動揺し始めていた。
心配そうに俺を見つめる兄。
「もう兄貴には必要ないよ、こんなもん」
俺は兄に語りかけた。
そしてただひたすらに優しく髪を撫でてやる。
兄はやはり俺の指で撫でられるのが大好きなようだ。
その泣きそうな表情も、
少しだけ和らいでいく。
なんて可愛い兄だろう。
俺だけの兄なのだ。
俺は兄の思い出を次々に捨て始めた。
兄が母に貰ったマフラー、
兄が父に貰った本立て。
そして兄がいつまでも未練たらしく持っている俺の友人の写真。
俺以外との思い出なんて、
兄には必要ないのだ。
兄は辛そうにそれを見つめていた。
だが俺に逆らう気力は起きないのだろう。
良い子にしていた兄を俺は褒めてやる。
俺が褒めて、また髪を撫でると兄は俺に身を預け始めた。
もう眠いのだろう。
俺は兄をベットに運んでやる。
一緒に布団に入り、
兄に腕枕をしてやる。
兄は俺の腕の中で心地よさそうだった。
俺に頭を摺り寄せて、ねだる。
俺に髪を撫でて欲しいのだろう。
俺は兄が満足するように、
兄のために、
兄が望むままに、
兄を甘やかした。

俺の思惑通りに現実は歩き出した。
はじめから俺に惚れていた兄は、
俺を受け入れ始めた。
兄が良い子でいるうちは、
俺は兄を甘やかし続ける。
兄が望むタイミングで頭を撫で、
兄が望むタイミングで接吻し、
兄が望むタイミングで抱いてやった。
兄はやはり綺麗なセックスが好きなようだ。
まるで無垢な兄に、
俺は満足した。
だが兄はいまだに過去に未練を持っていることを、
俺は知っていた。
やはりまじめな性格が、
囲われているこの生活を疑問視するのだろう。
それに、
兄は悪い子だった。
兄は俺に隠れて捨てたはずのゴミを回収していたのだ。
分解された時計や母の思い出を。
兄はこっそり持ち帰っていたのだ。
兄は俺には気付かれずにいたと思っている。
兄は必死で回収したのだろう。
口を使ってなんとかゴミを持ち帰る姿を想像すると、
俺は思わず笑ってしまう。
それほどに過去の思い出が大事なのだろうか。
俺がいるというのに。
過去にこだわる理由が分からなかった。
兄は、
本棚の裏に放り込むことで隠し切ったつもりになっている。
ふと、
俺は思いついた。
兄の見てる前でそれを発見してしまったらどう反応するのだろうか、と。
俺の中に、黒い興味が生まれた。
俺は部屋の掃除を始めた。
心配そうにする兄を見て、
俺は部屋の模様替えをすることを伝える。
兄は不安でたまらないのだろう。
俺にゴミを拾って帰ったことを知られるのが、
恐ろしいのだろう。
俺は買ってきたばかりの家具をどんどん部屋に入れていく。
兄が好きなモノトーンの家具だ。
そして兄が欲しがっていたパソコン、
電子辞書、寝具一式も用意する。
全て兄が喜ぶものばかりだ。
だが兄はそれを喜ばなかった。
本棚を移動させられ、
その後ろのゴミを見られたくないのだ。
見つかれば俺に激しく折檻されることを、兄は身をもって知っているのだ。
わざと嬉しくないの?と聞く俺に、
兄はあわてて嘘の笑顔を作り嬉しいと応えた。
俺はあえて本棚には触れずに、
家具をセッティングしていく。
兄は本棚に触れられないことに安心したようだ。
一通り整理し終わると、
兄は心底喜んでいた。
もうこれでしばらくは平気だと思ったのだろうか。
だが、
俺は最後に本棚を移動し始める。
それほどに重くない本棚は簡単に動いた。
そして、
俺が捨てさせたはずのゴミの数々を発見する。
俺は兄を睨んだ。
「なんだよ、これ。
ちゃんと捨てたはずだったろ?」
俺の問いに兄は青褪めた。
恐怖で身体が震え、謝罪しはじめた。
ごめんなさい、ごめんなさい、と。
兄は必死で俺に甘え機嫌を取ろうとしている。
だが俺は兄を突き飛ばした。
そしてゴミの数々を拾い上げる。
こんな意味のない思い出に何の価値があるというのだろうか。
気に入らなかった。
よく見れば俺が捨てた以外のモノも多く含まれている。
おそらく俺に捨てられる前に隠していたのだろう。
俺に内緒で、
兄はずっと隠していたのだ。
それはいただけない。
いい機会だと、
俺は兄を折檻することにした。
「俺に内緒で咥えて帰ったって事かよ」
「……ぁ……」
兄は俺の怒りを感じたようだ。
倒れたままの兄に圧し掛かった。
服を剥ぎ、
全裸にする。
これからお仕置きをするのだ。
俺は楽しくて仕方がない。
近頃は兄を甘やかしていたから、
鞭を与える機会をずっと探っていたのだ。
きっと兄は怯えて泣くだろう。
想像すると胸が高鳴った。
怯える兄の脚を掴み上げ胡坐を掻いた俺の腿の上に乗せる。
正面を向かせ、
このためだけに買った立てかけ鏡に脚を広げさせる。
「ぁだ……、許して……」
兄の言葉は掠れていた。
「そんなに大事なモノ隠したいなら、お腹の中に隠せばいい」
兄が隠していた思い出をひとつ一つ拾い上げ、
俺は兄の中に挿入し始める。
まずは父の形見の時計を中に押し込んだ。
「……ぁだ、やだ!」
「じゃあやめるか?
俺は可愛い良い子の兄貴が好きだったんだ。
内緒でゴミを拾ってきた兄貴は嫌いだぜ?
俺は、嫌いな兄貴を世話してやるつもりはないからな」
抵抗する兄を俺は黙らせた。
「良い子にしてられるな?」
問う俺に、兄は泣きながら頷いた。
黙って俺に従う兄に俺は少し満足した。
そして作業を再開する。
思い出を次々と兄の中押し込む。
大きくて入らないものは砕いて、
ゴムに包み挿入する。
母に貰ったマフラーも切り刻んで、一部をゴムに包んで押し込む。
他に兄の隠していた万年筆も、
古い携帯も割れた携帯も。
次々に中に押し込んだ。
兄はその度に嗚咽を抑えて耐えていた。
目を逸らそうとする兄を叱り、
全てを目に焼き付けさせる。
次第に兄のお腹はパンパンになってしまった。
それほどまでに多くのゴミを隠していたのだ。
自業自得だ。
綺麗なセックスばかり与えていた兄には、
こんな変態な行動は耐えられないのだろう。
羞恥と痛みを我慢しながら泣きはらしている。
異物を挿入されるのが初めてな兄には、
この恐怖は計り知れないものがあるはずだ。
無垢な兄を汚す快感に、
俺は酔った。
兄の泣き濡れた顔は久々で、やはり気持ちが良い。
俺はおそらく変態なのだろう。
兄を思うと歯止めが利かないのだ。
だが後悔するつもりはない。
だって、兄はこんなに喜ばせている。
兄は嫌がりながらも勃起させているのだ。
心は純粋な兄だが、性癖は違う。
兄は汚されることにも感じてしまうのだ。
全てを飲み込んだ兄を俺は褒めた。
またいつものように髪を優しく撫で、
あやす。
「もう俺に内緒で勝手なことはしないよな?」
俺の問いに兄は何度も何度も頷いた。
「口で言わなきゃ分かんねえよ」
「………ぁ、ごめんなさい。も…ぅ、内緒はしま…せん」
「よし、良い子だ」
俺は最大限に褒めてやる。
兄が大好きな俺の指で涙を拭き取ってやり、
優しくキスをしてやる。
そしてまた髪を優しく撫でる。
しばらくあやしてやると、
兄は少し落ち着いたようだ。
「じゃあ、そろそろ出してみようか。
手伝ってやるから、自分で中のゴミ出せるな?」
兄は弱弱しく頷いた。
俺に乗っかっている兄を背後から抱きしめ、
猛った陰茎を扱いてやる。
そして大きく広がった穴に手を添えて、
中のゴミを少し引っ張る。
「自分で力入れて出してみろ。
自分でやった悪いことは自分で始末しないと駄目だろ?」
俺の言葉に兄は従った。
「……ぅ……ん………ぅ!……ん、ん」
排泄するかのように、
兄はゴミを排出し始めた。
辺りに、粘膜質の音が響く。
お尻の穴から零れる音だ。
やはり以前のようにお漏らしをしている感覚が兄を襲うのだろう。
兄は眉を顰めていた。
汚いセックスを教え込むのは快感だった。
兄は本当に嫌なのだろう。
できることなら綺麗なセックス以外はしたくないのだろう。
だが、これはお仕置きなのだ。
無垢な兄に教え込む汚れた行為。
普段甘やかしていたからこそ得られる、俺だけの特権だ。
中に指を突っ込み、
内部をひっかかるゴミを出しやすいように指で直してやる。
わざと兄の感じる場所を刺激し、
前を扱く。
「ん、ん……ん!」
兄はまた排出再開し、
そしてゴミが感じる場所を通り過ぎた時に、
数度身体を痙攣させ、果てた。
俺の指を兄の白濁が汚す。
その指に広がる白濁を味見し、
濃厚さを確認するとそれを兄の口に咥えさせた。
兄の大好きな俺の指で、
兄の口の中を愛撫してやる。
「ぁぅ………、ぁ……っぅ」
兄は俺に言われる前に俺の指に絡みついた粘膜を舐め始めた。
「良い子だ、あと少しだから頑張れるよな」
褒めながら、
俺は兄の陰茎をまた扱いてやる。
兄はすっかり惚けていた。
俺に身を預け、
俺の命令を聞き、
淫らに股を広げ排出し続ける。
全てのゴミが出し終えて、
兄の前には中の粘膜で汚れた思い出が散乱していた。
俺は全てソレを処分して、
惚けたままの兄を優しく犯してやる。
兄が大好きな綺麗なセックスだ。
そして兄が大好きな俺の指。
良い子だと褒めながら頭をめいいっぱい撫でてやる。
兄は俺に抱かれながら眠ってしまった。
意識を失った兄は俺に頭を摺り寄せ、
懐いていた。
兄は俺に甘やかされるのが大好きなようだ。
俺は嬉しかった。
兄が俺だけを愛してくれる。
それだけで良かったのだ。

母が俺に電話をしてきたのは翌日の事だ。
兄を糾弾する内容だった。
俺はそれを鼻で笑った。
母はゲイだということを隠して死んだ父が憎かったのだ。
そして、
兄に父の面影を乗せていたのだろう。
愛憎を抑えきれないのだろうか。
二人で兄を追い出そうと、
母は俺に語る。
母は醜い女だった。
初めから同性愛者だった父と強引に婚約を結んだのは母だ。
俺は父が嫌いだったが、
母はもっと嫌いだった。
俺は兄と関係を持ったことを母に話す。
そしてもう母と関わるつもりはないと告げた。
母は愕然とし、
怒声を上げたがそんな事関係なかった。
いままでにさんざんに家族を乱してきた母に、
憐憫など生まれない。
全ての現況は母なのだ。
父が自殺したのも。
そしてソレが原因で家族が狂ってしまったのも。
母が父を追い詰めたのが全ての始まりだったのだ。
父が死ぬと、
母は兄を憎み俺に執着するようになった。
もう母に振り回されるのはごめんだ。
冷たく拒絶した俺に、
母は愕然としていた。
これで良いのだ。
兄以外に、
俺は何も要らない。
兄のために、兄を手に入れるために俺は狂ってしまったが、
それで良いのだ。
これは俺が望んだ事なのだから。

俺は幸せだった。
兄はすっかり俺に懐き、よく笑うようになった。
悪いこともしなくなった。
やはり兄は俺の指が大好きなようで、
すぐ髪を撫でて欲しいとねだる。
俺もねだられるのが嬉しく、
めいいっぱい甘やかす。
そして兄の大好きな綺麗なセックスをして、
腕枕をして一緒に眠る。
俺の腕の中で身体を摺り寄せて甘える兄に、
満足した。
俺はご褒美に兄の大好きなシュークリームを買うことにした。
兄をつれた病院の帰りだ。
兄の両腕はもうそろそろ直るようだった。
あと一週間程度安静にしていればリハビリに入れると聞き、
兄は喜んでいた。
俺も少し嬉しかった。
こんなに懐いた兄はもう俺から逃げないだろう。
兄は俺の指が大好きで、
俺の顔が大好きで、
俺の身体が大好きなのだ。
兄のために必死で努力した俺の外見が好きなのだ。
明日は兄と水族館にでも行こう。
兄は俺とデートのように外出するのが大好きなのだ。
兄のために、
兄が望むままに、
これからの人生を生きていこうと思った。
路地のコンビニに向かおうと、
人通りの少ない裏道に入ったときだ。
けたたましいエンジン音の後に、
車が一台突進してきた。
母の車だった。
母の車は兄を狙って一直線で飛び込んできた。
母は兄を殺すつもりだ。
兄は動転し逃げられないようだ。
俺は何も考えずに、
兄の前に身体を投げ出した。
「!」
刹那。
耳元に激しい衝撃が走り、
俺は地面に伏していた。
身体の感覚が無い。
車が俺の上に重なったまま、
母は悲鳴を上げて逃げていった。
兄を轢くつもりで、
俺を轢いてしまった事に怯えたのだろう。
最後まで母は家族を振り回したのだ。
兄の俺を呼ぶ声が遠く聞こえる。
指の感覚が薄い。
どうやら車に轢かれた時に骨が折れ、
潰れてしまったのだろうか。
幸い神経が途切れているせいで痛みは無い。
だが兄の大好きな指は元には戻らないだろう。
割れたサイドミラーに自身の顔が映った。
アスファルトに摩ったせいか、
顔の半分が爛れ、醜く歪んでいた。
兄の大好きだった顔なのに、
それは半分無くなってしまった。
俺は焦った。
兄は俺の指が好きなのだ。
兄は俺の顔が好きなのだ。
決して俺自身が好きなのではない。
身体も満足に動かない。
車の自重で次第に俺の身体は潰れ始めた。
兄の大好きだった身体も、
血で塗れ、筋肉が裂けなかなか元には戻らないだろう。
俺は一息つき、諦めた。
兄に好かれる要素が無くなった俺を、
兄はもう愛してくれないだろう。
俺を愛していない兄を強制的に囲う事はできない。
兄に愛されない自身は許せなかった。
「兄貴、聞こえるか?」
なんとか声を絞り出すと、
兄は小さく頷いた。
その瞳にはもう涙で溢れかえっている。
良かった、
やはり兄は無傷なようだ。
俺は微笑んだ。
そして車のオイルが漏れていることに気がつく。
もう少ししたらこの車は炎上するだろう。
兄を早く逃がさなければならない。
「ちょっと動けねえんだ。
悪いけど通りにいって救急車呼んで待ってろよ」
俺の言葉に兄は首を横に振った。
兄は俺のポケットからなんとか携帯を取り出して、
救急車を呼んだようだ。
だが、この場で待つつもりのようだ。
俺は迷った。
いっそこのまま兄と共に、
爆発で死んでしまうのもいいかもしれないと。
だがその考えはすぐに否定した。
兄には幸せに生きて欲しいからだ。
俺は兄にエンジンオイルが漏れていることを伝え、
逃げるように促す。
兄は事実を察して、
車を持ち上げようとした。
まだ直りかけの折れた手で、
必死に車を持ち上げようとし始めたのだ。
重い車がそんなに簡単に浮かぶはずがない。
だが兄は懸命に力をかけ続けた。
身体全体を使い、地面と自身の背面を使い、
そして折れた腕で。
火事場の馬鹿力の一種だろうか。
車体が少しだけ浮かび始めた。
だがそれは危険だ。
いつガソリンに引火するかもわからない。
俺のために、兄を巻き込みたくなかった。
「馬鹿、早く逃げろ!」
俺の叫びに、
兄は嫌だと言って車を持ち上げ続ける。
オイルが漏れた車はただでさえ危険だというのに、
兄は折れた手で俺を助けようとしているのだ。
神経が通った折れた腕で、車を持ち上げているのだ。
その痛みは想像もできないほどだろう。
「何やってるんだ、早く出てこい!」
兄の強い言葉に俺は必死で這い始める。
兄は俺が出てくるまで逃げないつもりだろう。
兄が死ぬのは嫌だった。
許せなかった。
俺は必死に這った。
兄の為に這った。
全身が軋み、
まるで動かない。
だが俺は這った。
肘でアスファルトを擦らせ、
少しづつ移動した。
車の重さで溜まっていた血液が解放され、全身を巡る。
傷口が熱く滾るのを感じた。
意識を失いそうだった。
だが俺は兄の事だけを考えて這い続ける。
車の下から抜け出すのはどれくらいの時間だったのだろうか。
兄はその間、
俺のために車を支え続けていたのだ。
俺は嬉しかった。
兄の救いが嬉しかった。
俺が抜け出したのを確認すると、
兄は車を下ろした。
そして俺を見つめる。
強い瞳だった。
場違いに、俺は愛しいと思ってしまった。
兄は黙ったままに、
だが強い決意を秘めた顔で、
俺を担いで表通りまで歩き始めた。
兄はきっと知らないのだろう。
兄の一番大好きな俺の指が潰れてしまったことを。
今の日本の技術でも、
元通りには決して直らない事を。
しばらくして、
路地裏で音が響く。
爆発音だ。
音は三流ドラマの演出のように滑稽な音だった。
だがそこに俺がいたら死んでいただろう。
兄は俺を降ろし、
俺を心配そうに見つめていた。
兄は泣いている。
きっと大好きな俺の顔が半分、
爛れてしまった事が悲しいのだろう。
その涙で歪んだ顔を慰めてやりたいのに、
俺の指はもう満足に動かない。
兄の大好きだった俺は、
もういないのだ。
残ったのはただ汚れた精神の醜い男だ。
俺は絶望した。
意識が遠くなった時には、
俺はもう現実を見ていられなかった。

目が覚めて、
俺は集中治療室にいるようだった。
やはり指には感覚は無い。
兄にあいたかった。
たったひと眼だけでいいのだ。
兄を確かめたかった。
兄に触れたかった。
兄に語りかけたかった。
泣き虫な兄はどうせまた泣いているだろう、
なにより兄を慰めたかった。
もう大丈夫だと、
優しく髪を撫でてやりたかった。
そうすればきっと兄も泣きやんで、
俺の指に酔って甘え出すだろう。
だが、
それはもう叶わない幻想だ。
兄はきっと俺を見捨ててしまう。
醜くなった自身を、兄は愛してくれないだろう。
俺は悲しかった。
兄がいなくなった俺には何も残らない。
幼いころから兄のためだけに生きてきた。
兄を俺のモノにすることだけを考え、生きてきたのだ。
俺の人生は兄の事だけなのだと、
いまさら実感した。
だが残念ながら兄は、
この部屋に入ってくることはできないようだ。
それほどに、
俺は重傷なのだろう。
兄に別れを言わなくてはならない。
兄の大好きだった俺の外見は、
全て無くなってしまったのだから。

次に目が覚めると、
今度は個室だった。
目の前では兄が心配そうに俺を見つめている。
その瞳はやはり涙で汚れていて、
俺は思わずいつものように慰めようと指を伸ばしていた。
だが、
兄の大好きだった指は包帯で覆われ、
かつての面影は残っていない。
俺は自嘲し、腕は止まる。
そして兄にさよならを告げる。
兄は困惑した表情で俺を見た。
俺は理由を語る。
兄の大好きだった指がもう満足に動かないこと。
兄の大好きだった俺の顔は半分無くなってしまった事。
もう兄を喜ばせることができないのだと。
言った俺に、
兄は俺の頬を打った。
驚いた俺に抱きつきながら、
兄は語った。
俺が居てさえくれれば、
たとえ動けなくなってしまっても、
一生寝たままになってしまっても。
俺を愛している、と。
兄は泣きながら俺に言い続けた。
俺は嬉しかった。
兄の告白を俺は聞き続けた。
俺は兄を抱きしめた。
兄は嬉しそうに俺に身を預けた。
包帯で何重にも巻かれた腕はほとんど動かなかったが、
強く抱きしめた。
兄は暖かく、心地よかった。
何もしゃべれなくなるほど号泣する兄の涙を、
兄の大好きだった指の残骸で拭ってやる。
兄は俺に頭を擦り付けて泣き続けた。
ずっと俺が起きるのを待ち続けていたのだろう。
兄は随分やせてしまった。
俺は兄に全てを語った。
かつての所業を。
兄の好みになるように必死に努力したこと。
友人を使い騙したこと。
母にゲイだとばれる要因を作ったこと。
全てを兄に話した。
兄は黙ったままに聞き続け、
それでもなお、俺に身体をすり寄せ続けた。
全てを知ってもなお、
まだ愛していると言ってくれる兄を、
さらに強く抱きしめた。
「こんな醜い俺のどこが好きなんだよ?」
俺は兄に問う。
意地の悪い問いだ。
やはり兄は何も応えられなかった。
ただ、
戸惑った顔で、俺の腕の中で心地よさそうに甘え続けている。
兄らしいと思い、
俺は思わず微笑んだ。
いつものように頭を撫でてやると、
兄は本当に気持ちよさそうにしていた。
醜い俺の指では、
感触が良いはず無い。
だが兄は確かに、
俺の腕の中でうっとりとしているのだ。
醜くなってしまった俺にすらも懐く兄の姿に、
俺は初めて、
兄の前で瞳を揺らした。


結局俺はいまだに寝たきりのままだ。
完治するまで数年かかるという。
兄の腕はもうすっかり治り、
俺の体を綺麗に拭き取ってくれていた。
母は精神を患っていたと、
病院に送られ安静の日々を送っているようだ。
母の暴挙を誘発したのは俺のせいだ。
必要以上に、母を責めるつもりはなかった。
それに、
今こうして養生できるのも母の送金のおかげなのだ。
兄が戸惑いながら教えてくれた。
金で解決する母は非道かもしれないが、
正直まだ働けない俺にとっては助かった。
きっと母なりの償いなのだろうか。
複雑だったが、
兄と生きていけるのならそれでいいのかもしれない。
兄はいまもまだ俺に懐いていた。
俺の指は治らないままだったが、
包帯を巻いたままの俺の指でも兄は喜んでくれる。
兄を抱きしめ、
頭を撫でてやる。
とても温かく、心が和む。
これが幸せなのだと、強く感じた。
兄もまた幸せそうに瞳を閉じる。
俺に身を預けたままに、
俺の心音を聞いていた。
心が落ち着くのだと兄は言う。
俺の上で眠りかけている兄に、
俺は意地悪く語りかける。
治ったらたっぷり犯してやる。
そう言うと、
兄は顔を赤くしていたが、
小さく頷いた。
俺の事が好きかと聞くと、
また兄は小さく頷いた。
俺は嬉しさのあまりに、
兄を喜ばせようと頭を撫でてやる。
すると兄が逆に、
俺に問いかけてきた。
答えの分かり切った問いだった。

俺は兄貴と一緒だと答え、
ことさら優しく頭を撫でた。
俺の答えに満足したのか、
兄は安心し切ったように眠り始めた。
その重みの心地よさに、
俺は思わず苦笑した。



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