【穢れ(けがれ)】
好みの大きく分かれる特殊な性行為が含まれます、
閲覧の際はご注意ください。
一つでも苦手な性表現がある方はこちら↓を反転して下さい。
一部ネタバレでもあるのでご注意を。【獣姦】【失禁表現
※この物語はフィクションです。
実在する人物、思想、団体と一切の関係はありません。



この人間を殺さず捕らえたのは、
気紛れだった。
私は、
永久に続く生命に飽きていたのだ。
私は人間から不浄の王として恐れられていた。
人里離れた城に住む吸血鬼。
それが私だ。
人間は愚かにも私を浄化しようとやってきた聖職者だった。
未熟な人間に私は負けるはずも無かった。
一思いに殺さずに、
神を信じる愚かなこの人間を汚したい。
そう感じたのは、、
あまりにもこの男が純だったからだ。
神などいない現実を知らぬ愚かな人間ども。
異形の生物を正義の名の下に惨殺する人間ども。
人間は醜く、不快だ。
たとえ神が存在したとしても、
全ての人間に目が届くはずもなく、
まして欲に塗れた汚い人間を救うわけが無い。
人間にはなぜそれが分からないのか、
私は不思議で仕方なかった。
捕らえた人間は私を強く睨んでいた。
自身が正義で、不浄な私が悪だと決め付けているのだろう。
私は確かに吸血鬼だが、
自ら人を襲ったり悪意を示したことは一度も無い。
ただ戯れに、
このように私を襲ってきた人を弄ぶことはあったが。
襲撃者だった者たちは皆、
逆襲され殺されるよりもマシ、と私の戯れを受け入れた。
彼らもすでにこの城にはいなかった。
皆が、私を残し去ってしまったのだ。
もう、随分と昔の話だ。
鎖に繋がれながらも、
神に祈り私を侮辱する人間。
私は人間を穢すことにした。
衣服を破り、枷をつけ、
奴隷の烙印を焼き。
そしてレイプした。
人間は悲鳴を上げて泣き続けた。
神に仕えるこの人間は不浄の私に犯されるのが、
本当におぞましかったのだろう。
最中に何度も嘔吐し、気絶していた。
自害はしない。
それが神の教えだからだ。
私は人間が神を捨てるまで捕らえることにした。
毎日毎日、
人間を汚し神の救いなど訪れないことを説いた。
ただの暇つぶし、
そう捉えることもできるかもしれないが、
私は人間を穢す行為に愉悦を感じてしまっている。
今日も捕らえた人間を穢すため、
私は人間を監禁している部屋を訪れた。
人間は私を睨み、吠えた。
「近寄るな!この悪魔め!」
私が恐ろしいのだろう。
虚勢を張った叫びは掠れていた。
私は愉快だった。
神に仕えるこの人間を汚す喜びは、
いままで知ったどんな事よりも甘美だった。
男に慣れた女よりも、
男に男を教え込み穢す行為は淫らで、
私はその背徳を愉しむ。
「人間よ、何を怯えている。
低俗で不浄な私が憎いのならば、神にでも頼んで助けてもらったらどうだ?」
「……黙れ!黙れ黙れ!」
枷と疲労で満足に動けぬ人間が、
私から逃げるように地を這った。
足腰が立たないのだろう。
昨夜はさんざんに犯しつくしたからだ。
逃げる人間を私はじっくりと追い詰めた。
壁沿いに這う姿は哀れな子羊のようだった。
憐憫は感じない。
人間は醜く汚い生き物だと知っているからだ。
聖職者ぶっているこの人間も、
一皮向けばただの獣なのだと教え込みたかった。
鎖に繋がれた人間の顎を掴み、
強引にキスをする。
逃げる人間を押さえつけ舌を絡めると、
人間は意を決したように私の舌を噛み切った。
鮮血が私の口に広がるが、
それに構わず私の血を人間に流し込んだ。
噛み切られた私の舌を強引に咽に押し込み、
人間に無理やり飲み下させる
「……ぁ……!!……ぅ……」
私の舌はすぐに再生しまた口を嬲ることができる。
本来、吸血鬼である私の血肉は人間を同種族、
すなわち吸血鬼へと生まれ返らせることができるのだが、
さすがに聖職者であるこの人間には効果が無いようだった。
穢れた私の舌を飲まされたことがよほど耐えられなかったのか、
人間はひとしきり大きく暴れた。
目からは涙が零れ、
悲鳴は私の口へと消えていく。
さんざんに人間の口を味わった後、
私は人間の身体を解放した。
すぐさま、
人間は大きく咳き込み咽元を押さえて呻く。
鈍い粘膜の音が地面に響き、
人間の体内に落ちたはずの私の舌が床で転がっている。
それは時間の経過と共に風に消えていった。
「どうだ?穢れた私の舌を食べた感想は。
甘かったか?それとも苦しいだけだったのか?
肉食を禁じられていたお前には懐かしい味だったのだろう」
地に付し、呻いている人間を私は地面へと押さえつけた。
レイプするためだ。
昨夜穢したばかりの穴は赤く腫れていたが、
湿り気を帯びて柔らかそうだ。
まず指で、
穴を犯す。
「や……!やめろって、……っ!」
人間の身体の構造は簡単だ。
穴の中の腹側に存在する体内器官。
ソコを何度も指で押し広げ、嬲る。
睾丸の付け根を外から指で揉みこみながら、
私は人間の性器を口に含んだ。
この人間は女と寝たことも無かったのだろう。
人間の性器の色は薄く、未熟な朱色だった。
口に含んだ性器を牙で抑えながら、
舌で何度も筋を舐め上げた。
人間が汚らわしい快感に酔ってしまうように、
性器を、穴を、
内側からも外側からも煽る。
「ゃ…………っく……、
ひぃ……!ん……ん!」
人間は慣れない快感に耐えられないのだろう。
瞳一杯に涙を浮かべ、
私の動きに合わせて体が小刻みに痙攣している。
哀れな小動物のようだ。
痙攣させた脚の筋を撫でる。
滑らかな肌だ。
私は興奮していた。
人間を穢す喜びは、
かつて忘れてしまった命の鼓動を擬似させる。
中を穿つ指を引き抜くと、
人間は呻いた。
私はそれに構わず、
人間の体内に自身の猛りを押し込み、
犯す。
肉の感触が私の性器を包み込み、
濡れた腸壁が私を締め付けた。
人間の体内は暖かく、心地が良い。
穢れた私の性器に犯された人間は、何度も何度も悲鳴を上げ、
私を罵倒した。
神に祈り、
腕で抵抗し続ける。
だが、
私が人間の感じる場所を重点的に犯すと、人間は甘い声を上げ始めた。
可愛く啼くその唇を、
私は自身の唇で犯す。
人間の口内は蜜のように甘く、
私を夢中にさせる。
優しく髪を撫で、愛を囁く。
無論、愛しているわけではないが、
人間を穢すには最適な言葉だった。
初め犯したとき、不浄な私に愛を囁かれた人間の顔は、
今でも私を嗜虐の闇を煽る。
人間はもはや虚ろだった。
邪気を孕む私に犯されて、
女のように感じているのだろう。
強烈な快感に、身を震わせている。
犯す穴は大きく締まり、貪欲に自身の感じる場所に蠢き始める。
人間はとても淫らな生き物だった。
私を否定しながらも、脚を絡め初め、
唇は舌を求めて啼く。
人間を犯す快感に、
私もまた酔っていた。

行為が終わると、
人間は体裁も気にせず泣きじゃくっていた。
自身が感じ、私とのセックスに溺れた事が辛いのだろう。
私は愉快だった。
「泣くな、人間よ。私はお前を愛している。
これは神聖な愛の行為だったのだ、
愛は何者にも平等なのが神の教えなのだろう?」
泣いた身体を抱き寄せ、再度偽りの愛を囁いた。
清らかなこの人間をもっと穢すため、
不浄な私が深い愛情を装い、汚れた肢体を慰める。
「……っ……!」
穢れた私に愛されるというのは、
この人間にとって耐えられないことなのだろう。
私の残酷な愛の言葉に、
人間はますます泣く。
いままで穢れを知らなかった人間の、
汚れた体。
濡れた孔。
犯され満足に動かぬ脚腰。
私の唾液で赤く熟れた乳首。
もっともっとこの人間を落としたかった。
性に堕落させ、
私のモノにしたかった。
この寂びれた城に人間を捕らえ続けたかった。
私は永すぎる独りに、飽きていたのかもしれない。
かつて人間だった時の名残なのだろうか。
私は何かに焦がれていた。
何に焦がれているかは、
もはや人間ではない私には分からなかった。
私は泣きじゃくる人間の頭を撫で、
汚れを拭き取る。
人間は私の手が恐ろしいのか、
触れるたびに身体が跳ね、嗚咽を漏らす。
その脅える様に、もはや聖職者としての威厳は無い。
甘い嗜虐心が、胸を襲う。
清らかな人間を穢す快感。
私は悲痛に泣き続ける人間を、
もっと穢すことにした。
涙する顔を押さえつけ、
地面に零れた人間自身の白濁をすくい、口に注ぐ。
「ぐ……ぅ……、ぁ……!」
全身を揺すり抵抗し、
暴れる。
無駄な抵抗だったが、
私はその余興を愉しんだ。
救いなど訪れないのだと、
人間自身に自覚させる必要があった。
私の手で、
この清らかな人間を穢す。
自慰すらも満足にすることが無かったこの純な人間に、
もっと汚れを教え込むのだ。
その行為自体が私を久方ぶりに猛らせる。
人間は口に含んだ白濁をなかなか飲み込もうとせず、
暴れ続ける。
言う事の聞かぬ人間に焦れることは無い。
人間が自身の吐き出した汚れを飲み下すまで、
私は人間を拘束し続けた。
息苦しさと、
口中に残る粘膜の気持ち悪さに耐えられなくなったのか、
人間はよりいっそう強く暴れた。
その無様な様を愉しんだ。
だが次の瞬間、私はもっと愉快になった。
人間が私の指に噛み付いたのだ。
「……っ……、……っ…………!」
私の親指の甲を強く、強く、
人間は噛み付いたのだ。
嗚咽を漏らし、
涙で揺らす瞳に決意を込めて、
人間は私を噛み続ける。
口の端から漏れる荒い息。
まるで獣のようなその原始的な抵抗に、
私は込み上げる欲情と共に、苦笑した。
恐怖で震えるその全身と、
渾身の力を込めた犬歯の強さが、おおいにそそった。
私の親指の皮膚は人間の噛み付きに裂け、
人間の口を血で汚す。
飲み下さなかった白濁と、
私の血が混じり、
人間の、荒い呼吸を漏らす口の端から零れていた。
いつまで噛み付いているつもりなのか、
人間は私の手から離れようとしない。
おそらく、決死の抵抗なのだろう。
私は人間が満足するまで放って置くことにした。
「満足するまでそうしていれば良い。
私の血は美味いだろう?なあ、人間よ」
人間に私の血の味を意識させる。
すると、人間の様子が少し変化する。
息が乱れ、顔色が変貌する。
「ぁ……っ……!」
息を漏らし、人間が噛み付くのを止め私から離れようとする。
だが、私はそれを許さなかった。
人間の赤く汚れた口中、
その整った歯列をなぞり親指を根元まで突き入れる。
自然と、人間の舌は、
裂けた親指の甲に張り付く。
人間の動揺が手に取るように分かった。
人間は私の血液に酔っているのだ。
それはさながら、
エクスタシーの感覚と酷似しているのだと、私は知っていた。
人間の舌が私の傷口を舐め始める。
傷口に舌を押し当て、這う。
その粘膜の湿った音は、
淫靡だ。
「遠慮することは無い、
私の血が欲しければ吸えば良い。
聖職者であるお前ならば、
私の血で吸血鬼化することも無いのだからな。
存分に味わえ、清らかなる神の御子よ」
私はわざと、聖職者であるこの人間の急所を突く。
自身が、祝福された神の御子だと信じているこの人間には、
吸血鬼の血を欲する自身の様など、まさしく禁忌なのだ。
人間の瞳は動揺で揺れていた。
だが意思とは裏腹に、
自身の行為が止められないのだろう。
人間の舌が、私の指に喰らいつくように這う。
動く舌先に、人間は戸惑ったように私を見つめた。
救いを求めるように、縋るように、
人間は私の瞳を見つめ続ける。
人間は自身の行為を止めて欲しいのだろう、
あさましく吸血鬼の血を啜りしゃぶりつく、穢れた行為を。
這いつくばって貪る姿は、
私を大いに満足させた。
憎き人間が絶望していく姿に、
私の心は満たされていく。
だが私は救いはしない。
私は瞳を見つめ返し愛を囁き、
そしてその柔らかな髪を撫でた。
肌をなぞる粘膜。
迷う瞳。
震える身体。
快感に逆らえない人間の痴態に、
私もまた興奮していた。
人間の口に指を押し込んだままに、
私は人間の下肢を押さえつけた。
仰向けにさせ、今一度その淫らな表情を見つめ、
偽りの愛を囁き。
そして、
――犯す。
狭く魅力的な孔の感覚。
純な男を穢す興奮、そして喜び。
人間の嬌声を噛まれた指への振動で感じる。
人間を犯すと、
まるで私までも命を感じることができる。
人間は私に犯されながら指をしゃぶり続けている。
淫らに音を立てて、
口いっぱいに頬張っていた。
その愛らしいしぐさを眺めながら、
私は腰を揺すり、
腸内の肉を存分に味わう。
人間の若くしなやかな筋肉が、
私の腰の動きに連動し痙攣し始める。
自身の性器から吐き出される快感の先走りに、
人間の腹筋は扇情的に濡れている。
空いた手で、
揺れる人間の陰茎を扱き上げる。
すると人間はますます強く、堪えるように私の指に噛み付いた。
気持ちがよいのだろう。
「如何なものか、穢れた私とのセックスは。
気持ち良かろう?なあ人間よ」
人間は私の言葉に羞恥したのだろうか、
嗚咽を漏らせぬ代わりに、瞳孔を哀れなほどに揺らした。
人間は恥じているのだろう、
本来性器ではない孔を穿られながら、
快楽に逆らえず淫らに私の指をしゃぶる様を。
そしてその行為に悦楽で猛らせている自身を。
だが、人間は決して私の指を貪るのを、止められない。
その様を愉しみながら、
根元まで私の猛りを挿入する。
最奥まで犯され、
快感と悲痛に呻く哀れな人間の息遣いを確認し、再び、
私は一息に猛った陰茎を引き抜いた。
その衝撃に、人間はまた大きく目を潤ませる。
犯されていた人間の孔は、淫らな口を開いていた。
不意に消えた剛直の硬さを求める孔は、
粘膜の壁を女のように湿らせ、蠢いていた。
さきほど中に吐き出した私の白濁が、
犯された刺激で奥から招かれたのだろう。
「女のように孔を濡らすとは。
お前はずいぶん淫乱になったものだ、
なあ、神に仕える人間よ」
男の湿りを、私は嘲笑った。
すると人間はついに、
私の手をしゃぶりながら大きな嗚咽を漏らし始めた。
私に蔑まれ、悔しいのだろう。
だが、今もなお私の指を節操なくしゃぶり続け、
濡れた孔を蠢かす自身が恥ずかしいのだろう。
私は人間の羞恥を存分に楽しんだ後、
快感を求め続けて泣く孔を再び犯してやった。
最奥まで一突きで犯すと、
人間は果てた。
人間の精子は濃く、いかに快感を堪えていたか分かる。
前に触れずに、人間は吐精したのだ。
粘り気の強い白濁が、
いまだ猛ったままの陰茎の先からゆっくりと零れ落ち、
快感で痙攣し続ける腹を汚していく。
「お前は淫らで本当に可愛い。
そして憎いほどに清らかだ。
もっと穢してやろう、
お前がいままで知ることの無かった快楽を、
私はお前に与えることができるのだ」
もはや私の言葉は人間には届いていない。
ただ快楽に身を任せて、
人間は鳴いた。
堕ちていく人間の姿が、
私には嬉しかった。

疲れ果て眠ってしまった人間を寝室に運び、
私は人間の首と足に枷を付ける。
人間が逃げ出さないための保険だった。
私はこの人間を逃がすつもりも、手放すつもりも無かった。
いつまでも私に反抗し続ける人間。
知らなかった快楽に泣き、私のレイプに嬌声を上げる人間。
私は愉しんでいた。
他者と過ごす生活は、
懐かしく甘美だ。
だが虚しくもあった。
気に入ったこの人間は聖職者であり、
私の呪いはかからない。
決して吸血鬼にはならないのだ。
いつかはこの人間は老いて、私を置いていってしまう。
そうしたらまた、
私は独りに戻ってしまうのだ。
胸を襲った寒さに、
私は思わず眠る人間の髪を撫でた。
柔らかく暖かい感触だ。
かつての息子の記憶が、
ほのかに蘇る。
はるか昔に、
私がまだ人だった頃に息子は逝ってしまったが、
あの笑顔は穢れた吸血鬼になった今でも夢に見る。
偽りなく、幸せだった息子との思い出。
齧ったリンゴの甘さ、酸味。
たどたどしい口から零れた、共に歌った賛美歌。
そして、
息子を救わなかった神への怒りも同時に、
私は思い出すのだ。
静かになってしまった息子の冷たさ。
仰々しいだけの鎮魂歌。
死んだ息子へ辛らつだった、かつての妻。
神など存在しないと思い始めたのは、
いつからだったかわからない。
やりきれない想いが胸を鷲掴み、
私は苛立った。
ふと目に映ったのは、
人間がつけていた十字架だった。
服を剥ぎ、初めてこの人間を犯した時も、
決して放そうとしなかった神への思慕の象徴。
私は許せなかった。
私の手で悦楽に鳴いたこの人間が、神を信じ続けることを、
許せなかったのだ。
私は知っていた、
この十字を使い、毎晩私の目を盗み神へ祈っていることを。
いっそ壊してしまおう。
こんな偶像があるから、
いつまでもこの人間の清らかな心は消えないのだろう。
「!」
その、憎らしい十字架を剥ぎ取ろうと手にした時だ。
人間が気配を察して、目覚めたのだ。
私の手に浮かぶ十字架を確認すると、
人間は涙を浮かべ私に訴えた。
「返してくれ!お願いだ!
それだけは……っ、返せ!返せってば!」
人間は必死になって私から、十字架を奪い返そうとしていた。
その必死さが却って私の不快を買う。
私は哂った。
また、この人間を穢したくなったのだ。
神を信じ続ける愚かな人間に、
穢れた現実を教え込むことにした。
「どうしても返して欲しいのならば私を愉しませてみろ。
お前のその口で、
穢れた私のモノを咥え込んで奉仕する様がみてみたい。
そんなに神を慕うお前ならば、コレを守るためにできるのだろう?」
私は人間の眠るベットに上がり、
人間に命じる。
人間はもちろんソレを拒否した。
受動的に犯される事はできても、
能動的に私に奉仕する事が恐ろしいのだろうか。
再び目尻にまで浮かんだ涙を観察し、愉しむ。
もっとこの泣き顔を歪めてやろう。
手にした十字架に力を込め、
歪にゆがめて行く。
十字が原型を失い始め、
金属の軋む鈍い音が響く。
「待て!おい、待て…って!」
人間が、私にすがりついた。
救いを求め、泣き付いている。
私は一旦、十字架を破壊することを止めた。
本当はこんな意味を持たない金属の塊など、
瞬時に闇に溶かすことぐらい造作も無いのだが、
私は愉しんでいたのだ。
「――………っ、から」
人間が俯むき、呟いた。
小さい言葉だった。
羞恥と屈辱が言葉を小さくさせるのだろう。
私は聞こえぬフリをして、
また再び十字架の破壊を再開する。
「やめろ!
しゃぶる……、しゃぶるから!
だから、も……ぅ、お願いだから返してくれ!」
その言葉に私は笑わずにはいられなかった。
私はシーツの上で身体を楽にし、
人間の奉仕を待った。
わざと半身をはだけたままに、
人間に男の性を意識させる。
いままでの経験上、
人にとって穢れた私の身体は、意外にも魅力的に映るようだ。
男女の垣根を越え、人はみな私の裸体に顔を赤らめる。
それは一種の美徳、背徳への魅力なのだろう。
私の穢れた身体に身を預け、
夢見るように果てていった者すらいたほどだ。
「どうした、やはりできないのか?」
人間はやがて観念したのか、
たどたどしい動きで私の股間に顔を埋めた。
私の下肢をずらし、
まだ芯の通わぬ陰茎を手に取り、口に含み始める。
人間の奉仕は未熟で、なかなか私は達しないだろう。
だが、それで良いのだ。
少しづつ、穢れを教え込めばいいのだ。
時間はいくらでもある、
焦ることは無い。
いつまでも奉仕し続ける人間の無様で淫靡な姿を、
私は愉しみ続けた。
やがて、私をしゃぶっている内に、
人間は熱に浮かれたように顔を赤らめた。
腰が揺れ、息が乱れ、
陰茎を猛らせている。
先走る私の体液に蝕まれ、
興奮しているのだろう。
私はソレに気が付かぬフリをし、
ただ黙って人間の奉仕を受け続けた。
私がやっと果て、
人間の口中を汚すと、
人間はソレを飲み干し、自身も震えながら果てていた。
快楽を我慢できなかったのか、
人間は猛った性器をシーツに擦りつけ自慰していたのだ。
奉仕しながら興奮し、勝手に吐精したその淫乱な様に、
私は満足した。
人間がまた一つ穢れたからだ。
潰れかけた十字架を返してやると、
人間は自身の痴態を思い出したかのように恥じ、
嗚咽を漏らした。
そのくだらない偶像を胸に抱きしめ、
人間は嗚咽を漏らし続けた。
私はその身体を優しく抱きしめてやる。
そしてまた、
偽りの愛を囁き、腕の中へと誘う。
人間は嗚咽を漏らしたままだったが、
私に身を預けた。
肌と肌が触れ合う感触に、
人間はまた再び顔を赤く染める。
快楽を知ってしまった無垢な身体は、
私に性的魅力を感じずにはいられないのだろう。
人間はそれを必死で堪えるように顔を背けたが、
私はそれに構わず、優しく腕の中に抱き続ける。
だがやはり、
人間は疲れきっていたのだろう。
やがて寝息を立て始めた。
一度寝てしまった人間は自身に素直だった。
私に顔を押し当て、
肌の感触を愉しむように頭を擦り付けていた。
人間は私の胸の上に頭を預け、
抱き寄せられるのが好きなようだ。
私が人間を強く抱き寄せると、
本当に満足そうに私に甘え始めた。
少しづつ、
この清らかな人間は穢れていっているのだろうか。
その愛らしい様子に私は苦笑した。

人間が病気になったのは次の日のことだ。
発熱と咳が止まらないのだ。
病気にかかるはずもない私には、
薬の用意など無い。
私はしばし迷い、
人間の街に薬を買いに行くことにした。
発熱で赤くなった人間の頬にキスをし、
私はまた偽りの愛を囁く。
人間という穢れた器とともに、
人の感情を捨てた私だが、
この行為はかつて人間だった頃の感情を擬似的に体感させる。
自身に湧き上がる感情に、
私は苦笑した。
「薬を買いに街へ降りる、
お前はただ静かに寝ていろ。良いな?」
人間は私の言葉に何も答えなかった。
だが体力が衰えたこの身体で、
この城から抜け出せることは無いだろう。
厳重に人間を閉じ込め、
私は下界に降りる。
霧に身体を透かし、
森を越え、山を下り、かつて知ったる赤い街に辿り着く。
赤レンガを積み重ねた街。
戦争の街。
だからこの街は赤いのだ。
人の脚ならば何日もかかる道のりだが、
異形の私には一時間ともかからなかった。
城で独り暮らしていた間に、
時代は流れていたのだろう。
ここはすでに私が知る町並みではなくなっていた。
街の地形も大きく変化している。
私の知らぬ器具、街を彩るオブジェ。
ここにかつての思い出は、ない。
少しだけ、
切なさが胸をくすぐる。
ここは私が人間として暮らしていた時に住んでいた街だった。
かすかに残る街並みの跡を通り、
大通りに出る。
かつて幼き日に駆けた脆いレンガ通りはすでに無く、
露天商が賑わう、市場になっていた。
人間の歓喜のざわめきは不快だった。
ここで私は謀殺され、
その恨みと元から孕んでいた邪気が私を吸血鬼へと変化させた。
もう過去のことだ。
人間だった時の私を知る者はいないだろう。
早く薬を買い戻ろう。
ここは空気が冷たい。
私は人間という生き物が嫌いだった。
だが、困ったことに、
薬師や医者の場所が分からない。
私は仕方なく教会を訪れた。
吸血鬼である私が教会を恐れないのは、
私には神への信仰心が残っていないからだ。
信仰心の無い私には十字架や聖水など効かない。
ましてニンニクに弱いなどという迷信は、
笑いの種にすらならない偽りだった。
二度と訪れる事は無いと、
そう誓った場所。
かつて暮らした神聖な空間。
苔の生えた聖母の彫像は今でも残っているようだ。
幼い頃の記憶が蘇り、私は苦笑する。
あの頃は私も神などという愚かな存在を信じていた。
毎日のように神に祈り、
訪れる旅人を祝福した。
だが結局、
神は私を救ってはくれなかった。
懐かしい教会には一枚の肖像が飾ってある。
私が死んでから描かれたものだ。
街を救った偉大な聖職者。
そう描かれた絵画はあまりに滑稽だった。
自嘲が自然と、世界の皮肉を嘲笑った。
「何かお困りですかな?」
声を掛けてきたのは一人の聖職者だった。
聖職者は人間に化けた私を不信に思うことなく、
親切に私の問いに答えた。
私は街医者の場所を聞くと、
礼を言い教会を後にしようとする。
だが聖職者の呼びかけられ、私は振り返った。
この聖職者は一人の仲間を探しているという。
あの人間のことだ。
アレはもう私のものなのだ。
人間の街になど返すつもりは無い。
私は知らぬと冷たく返した。
そうですか…、と聖職者は悲しく項垂れる。
私は再度、聖職者に礼をすると教会を後にした。

教えられた通りの場所に街医者はいた。
独特の臭いが鼻を突き、不快だった。
病状を説明し、
薬を買うことにする。
だがまた一つ困ったことが起きた。
「アンタ、こんな古い紙幣じゃ困るよ。
いつの時代のモノだよこりゃ」
医者の困った顔に私はどうしたものかと考えた。
まさか通貨が変わっていたなどと考えたことも無かったのだ。
「冷やかしなら帰っておくれ。
医者だって商売なんだ、金の無い人間に恵んでやるものは無いよ」
「それは困る、病人が私の帰りを待っているのだ。
金はすぐにでも用意する、だから薬を譲ってくれまいか?」
「そんな事言われてもねー……。
ああ、そうだ。アンタのその装飾品と物々交換してもいいが、
どうするかね?」
医者は下卑た表情を見せ、
私の付けている銀の腕輪を指差した。
「仕方あるまい、早く薬を出してくれ」
腕輪を医者に手渡し、
私は催促する。
早く帰りたかった。
臭いに耐えられないのだ。
だが医者はまた黒い表情を見せ、哂った。
「はいよ、これが一日分だ。
けど、残念だねー。この腕輪だけじゃこれ以上は出せないよ。
これは高い薬だからね」
「それは困る、一日分では直らないかもしれないではないか」
「そんな事いわれてもね……。
あー、そうだ。その腰に携えた短刀は良い品みたいじゃないか、
それを頂ければあともう一日分は出せるけど、どうするかね?」
なるほど。
医者は私を金ズルにしようとしているのだ。
人間という生き物は本当に汚い生き物だ。
医者という命を扱う職業のこの男すら、
歪んで自己の事しか考えていないのだろう。
やはり人間など信用できぬ。
神がなぜ人間を救わぬのか良く分かる。
「!」
私は身に付けている全ての貴金属を医者に投げつけ、
その汚い首を掴み上げ語った。
「全てくれてやろう、醜き人間よ。
これだけの金属だ、
お前ごとき卑しき人間でも一生喰うに困らぬ額になるだろう。
薬は全て頂いていく、文句はあるまい」
医者の目を鋭く睨み、
薬を詰めた子袋を回収する。
いっそ殺してしまおうと考えたが、
止めた。
無駄な殺生は信念に反したからだ。
医者は私の投げつけた貴金属に埋もれたまま、
恐怖で震えていた。
私は医者を無視し、
この汚れた醜い場所を抜け出る。
こんな醜い街は一秒でも早く出たかったが、
帰る前に人間の食料を買う必要があった。
普段は森林の植物や焼いたパンを与えていたが、
体力の落ちた人間に栄養をつける必要があったからだ。
まず質屋に向かい、
金糸の刺繍が入ったマントを売り、現金を得た。
足元を見られ、ほとんど投売り同然の値段だったが、
食料を買う分には十分すぎるほどだった。
私はますます人間を嫌悪する。
市場に戻り、
様々な食材を買い揃える。
最後に、
人間が好きそうなみずみずしい林檎を紙袋に詰め、
私は城に帰ろうと市場を後にしようとした。
だが、ふとその時。
近くに邪気を孕んだ感情を感じ取った。
強い恨みの感情だった。
私は興味を引かれ、
その邪気の流れを追う。
ついた先には下卑た感情を振りまき続ける人間の集団と、
一匹の若い狼の姿が見えた。
狼の悲鳴が市場一帯に広がっていた。
人間どもが狼を捕らえなぶり殺しにしているのだろう。
狼を弄っているのは二人の若者だった。
見るに耐えない虐待に、
私は不快感を覚えた。
そして何より不快に感じたのは、
周りで見物している観衆も、
それを見世物のように愉しんでいる事だ。
「フゥゥゥグゥゥゥゥ!!」
狼の威嚇に、若者の一人は嘲笑った。
「生意気な獣だなぁ、おい。
お前ら狼は穢れた存在なんだよ!」
「止めろ、そのままでは死んでしまうではないか」
斧を振り下ろそうとする人間の肩を掴み、
私はこれ以上の虐待を制止した。
「なんだ、テメェ!
この糞狼の味方するってのかい?
いいか、コイツはなあ。ウチの商品を盗み食いしたんだ。
罪には当然罰が与えられる、それが神の教えだ」
「ならば、私がこの狼の盗んだ商品の代金を払おう。
それでこいつを解放してやってくれ」
私の言葉に若者は一瞬静まり、
そして大きな声で笑い始めた。
「アンタ、こんな穢れた獣に金を払うって言うのか!
無駄無駄、どうせこの狼もすぐに死んじまうよ」
観衆も、男の笑いに釣られ静かに笑い始めた。
本当は皆がみたいのだろう、
この狼が残酷に殺される様を。
人間の醜さは、ますます私を不快にさせる。
「金を受け取るのか、受け取らないのか。どちらなのだ?」
私の問いに、
若者は笑い声を上げたままに受け取ると応えた。
私は男に言われたままの金額を渡し、
弱った狼の元に歩む。
この狼は、もうすぐにでも死んでしまうだろう。
せめて故郷の土に埋めてやろうと思った。
最後に故郷を夢見る権利は、
獣といえども生ある命には、あるはずだ。
様々な虐待を受けた無残な痕。
残酷な所業。
人間は本当に、醜く不快だ。
哀れな身体に、
せめて止血ぐらいはしてやろうと、
私は清潔な布を探すが、あいにく持ち合わせは無い。
「おい誰か!清潔な布はないか!」
私の言葉に、
やはり観衆は影で笑ったままだった。
「誰でも良い!誰かいないのか!」
「無駄無駄、誰も、そんな死んじまう狼にやるやつなんていやしねえよ」
先ほどの若者が私の渡した紙幣を数えながら応えた。
人間は、どこまでも腐っていくのだろう。
神の教えとは何なのだ。
いったいどこまで私は、
人を深く憎むようになればいいのだろう。
「……誰でも良い、
用意できるものには今私の持つ金貨を全てやろう」
「!」
私の言葉に皆が狂気だった。
さきほどまで傍観者を決め込んでいた露天商までも、
手荷物を探り清潔な布を探し始める。
欲に群がる醜い人間ども。
やはり、人間の街になど来るべきではなかった。
人間は何一つ成長していない。
狼を大地に帰し、早くあの清らかな人間の待つ城に帰ろう。
人間が全てあの人間のように清らかな心を持っていれば、
こんな腐った世界にはならないのだろうが。
それは決してありえない話だ。
「どうぞ!コレを!」
初めに清潔な布を用意したのは赤子を抱いた婦人だった。
婦人は赤子を包む布を剥ぎ、
私に手渡しのだ。
私はソレを無言で受け取り、
金貨を全て渡す。
婦人は思わぬ収入に歓喜だち逃げるように帰路へ向かい、
後のものは金を取れる機会を逃し落胆している。
布を破り止血をするが、
狼はもはやほとんど反応はしなかった。
死に向かう狼を、
私が抱き上げようとした時だ。
不意に斧が落とされた。
「……ゥゥゥ」
斧は狼の腹を潰し、低い悲鳴が狼の口から零れる。
狼は恨み言を骸に残し、
死んでしまった。
斧を振り下ろしたのは先ほどの若者だった。
「おっと、悪いな。
手が滑ったぜ、まあどうせ死んじまってたんだ、悪く思うなよ」
若者は私の顔をニヤニヤと厭らしい目で見て、笑っていた。
観衆もまた、
狼の死と、私の姿を嘲笑っている。
おそらく初めから、
この人間は私が狼を連れて行く前に殺してしまい、
私の反応を愉しむつもりだったのだろう。
金を受け取れなかった嫉妬で、
観衆も狼に同情するものはいないようだ。
これが現実だった。
醜い人間の真実だ。
私を裏切り続けた人間。
救いを求めた私を見捨て続けた神。
そして虐殺されたこの狼をも、
救えなかった神。
その哀れな骸に、私は近親の念を抱いた。
神が救わぬならば、
私がこの恨みを晴らさせてやろう。
その権利はこの骸にはあるはずだ。
私は死んだ狼の骸を拾い上げ、
そして苦渋の涙を浮かべる狼に語りかける。
私はこの哀れな狼を救う事にした。
「狼よ、目を覚ますが良い。
その重い眼を開けても良いのだ」
「はん、アンタ気でも狂ったのかい?
死んだ狼に話しかけて、何になるって言うんだ」
若者の言葉に構わず、
私は再度骸に向かい語りかける。
「恨み深き哀れな獣よ、
恨みを晴らしたいのならば私の言葉に耳をかせ。
私の瞳を眼に移せ」
「何言ってるんだよアンタ、
そんな呪文みた…ぃ……っ…――!」
若者が言葉の途中で驚愕する。
死んだ狼が瞳を開いたのだ。
邪気が私の周りを包み、
風は止まり、太陽は陰っていく。
その時にはすでに私は人間の姿を捨てていた。
円を描いていた耳は尖り、
肌は元の色へと変わり移る。
悲鳴が市場を覆う。
「私の僕として、生まれ変わるが良い。
そして恨みを晴らせばよい。
私はその機会を与えてやろう」
開いた狼の瞳に語りかけ、
狼の恨みを増幅させ邪気を取り込む。
最後に、
私は自らの血を狼に分け与えた。
『グゥゥォォォォォォーーーーン』
狼の骸は蘇り、
復讐の遠吠えを上げる。
そしてすぐにした事は、
復讐だ。
狼は怯える若者の首筋を噛み切り、
腹を爪で引き裂いた。
呆気なく、
若者は事切れた。
「何を恐れている、愚かな人間ドモよ。
罪は罰せられなければならない、これが神の教えなのだろう?」
動かぬ死体を狼は切り刻み続けた。
私はただ黙り、
狼の復讐を見続ける。
私にはできなかった事だ。
恨みを晴らすために不浄のものとして蘇った私だが、
結局、何もできなかったのだ。
かつて信じた人間を殺すことはできなかった。
私を裏切った神父を民を。妻を。
誰一人、殺せなかった。
だがこの狼は違う。
この狼は自身の恨みに素直に従っていた。
私は、羨ましかった。
この復讐に、
観衆は悲鳴を上げて逃げ惑っている。
自身らが行った残虐な私刑は棚に上げ、
狼と私を悪魔だと罵っている者さえいる。
バラバラになった死体を最後に踏みちぎり、
狼はもう一人の若者へと視線を移した。
狼はこの若者も殺すつもりなのだろう。
「だ、誰か!……っ、助けてくれ!」
無論、若者の悲鳴に応えるものは誰一人いない。
生き残った若者もまた、
バラバラになるまで切り刻まれ、死んだ。
狼はふと周囲を見渡す、
観衆も殺すつもりなのだろう。
恐怖が空間を支配する。
獣の本気の殺意に、
皆が愕然としているのだろう。
だが私は狼を制止する。
「無駄な殺生は止めろ、もう復讐は果たしたはずだ。
私の前で罪の無い命を殺すな、不愉快だ」
私の言葉に、狼は従った。
狼は復讐心に満足したのか、
私の側にやってきた。
礼を言いたいのだろうか。
「哀れな狼よ、
森に帰るというのならそれもいいだろう。
山に帰るというのならそれもいいだろう。
だがお前はもはや闇の獣だ。仲間は誰もお前を歓迎しないだろう。
もし独りが寂しいのであれば私の瞳を強く覗き込め、
さすれば我が城へと、私はお前を歓迎しよう」
異形の魔物となった狼に私は語りかける。
もはやこの狼に仲間はいないのだ。
復讐だけを心に残したまま人を襲い続けるよりは、
私の城へ連れ帰ったほうがせめて心も安らぐだろう。
私の問いかけに、
狼は強く私の瞳を覗き込んだ。
「では、参るぞ
ああ、その袋を持ってくれ重くてかなわん」
私は人間のために買い込んだ食料の袋を狼に咥えさせ、
狼の身体ごと自身を霧へと透かす。
二度と、
人間の街になど来るまいと誓い。
私は汚れた故郷の地を後にした。

買い集めた食糧を手に、城に戻ると、
人間の姿は寝室から消えていた。
逃げていたのだ。
城自体は厳重に封じていたのだから、
外界に逃げることはできない。
言いつけを守らず、
どこかに隠れているのだろう。
私は落胆していた。
昨夜の眠りながら甘えたその愛らしさよりも、
神を信じ続ける清らかな人間の愚かさが、
思考を黒く支配する。
さきほど感じた人間への憎悪と疲れが重なり、
人間という生き物に対しての不信感がますます募った。
裏切られた、と。
そう感じてしまうのだ。
やりきれない感情が胸を包む。
私の感情が読み取れたのか、
狼は私の顔を心配そうに見つめていた。
やはり、穢れた異形な私を理解できるモノなど、
同じく異形の者にしかいないのだろう。
私はさっそく狼に人間の匂いを探るように命令する。
狼は快く従った。
狼は寝室を抜け廊下へと歩き出す、
私も後に続き、人間の行方を追った。
「人間よ隠れていないで出てくるが良い、薬を買ってきたのだ。
早く飲まないとますます病状を悪化させるだけだぞ」
私の呼びかけに人間は反応しない。
苛立ちが募った。
普段ならばこのような戯れも楽しむことができたが、
街での不快感に私の心は闇に染まっていたのだ。
狼が立ち止まったのは、
地下にある牢獄だった。
おそらくここに身を隠しているのだろう。
私は狼を制止させ、
中に、入る。
「滅せよ、神の敵よ!」
声高に響いた人間の声と共に、
私の身体は十字に結ばれた長剣で切断される。
無論、私に刃を向けたのはあの清らかな心の人間だ。
十字に結び、神の加護を受けた長剣で私を浄化するつもりだったのだろう。
だが、神を信じぬ私にはそれは意味を持たなかった。
吸血鬼が十字に弱いと言われていたのは、
生前の信仰心の影響なのだろう。
神を信じぬ私に、
神の奇跡など効かない。
まして異教徒の吸血鬼でもいるのならば尚更だろう。
人間どもは自身の信じる神を絶対視しすぎているのだ。
神とは所詮、その程度の存在でしかない。
私の身体は霧に透け、再び切断された身体は元に戻る。
「なぜ……滅びない」
人間は剣を私に向けたまま、
呟いた。
私に歯向かう愚かな人間。
その姿がさきほどの群衆と重なる。
私を忙殺し、綺麗事を重ねた教会。
命を預かる貪欲な医者。
他者を虐げる若者。
そして、それを影で楽しみながら傍観していた観衆。
私は落胆していた。
世界に。
神に。
そして人間に。
怒りと憎悪が巡り、
私の意志は具現化させ、空気を歪めた。
人間は慄いていた。
殺しはしない。
この綺麗事ばかり口から滑らせる人間を、
ますます穢し、闇の中に陥れてやりたくなった。
人間全てへの憎悪を込めて、
この清らかな人間を凝視する。
人間は私の憎悪が恐ろしいのだろう、
その瞳からさきほどまでの決意は消え、狼狽に揺れた。
背を向け逃げようとする人間に近づき、
徐々に、徐々にと人間を追い詰めていく。
人間は最後の虚勢とばかりにその剣で私に斬りかかってくる。
無論、無駄なことだった。
私はその剣を手で受け止め、
闇へと溶かす。
そしてその身体を掴み上げ、容赦なく牢へと放り込む。
地面に叩きつけられ動かぬ体。
元より病に臥していたのだ、
満足に身体が動かぬのも当然だろう。
そして病に臥した身体を奮い立たせ、
なお逆らおうとした人間に、
強く憤りを感じた。
鎖に繋ぎ、首輪をつけ、
下肢を剥いだ。
「人間よ、お前をもっと穢してやろう。
どんなに叫びを上げ、救いを求めたとしても、
神の救いが無いことを思い知るが良い」
地にねじ伏せた人間に語りかけ、
私は狼を呼ぶ。
人間は恐怖していたが、
今の私にはその恐怖すらも苛立たしい。
狼は私に従い、
カシャカシャと鈍い音を立て、地に爪を滑らせやってくる。
「この人間を犯せ。
そしてお前の恨みをこの愚かな人間に教え込んでやるのだ」
「!」
私の言葉に従い、
狼は人間に背後から圧し掛かった。
人間は狼が圧し掛かってきた事実に気付き、
目を大きく見開いた。
「ま、待てよ……!嘘だろ、おい!待てって…!」
人間の狼狽が面白いほどに伝わってきた。
人の原型を留めるこの穢れた私に犯されるより、
獣そのものの、この狼に犯されるのはまさに恐怖なのだろう。
人間と交わったことの無い狼は穴の位置を探し、
人間の腰を強く前足で押さえつける。
獲物が逃げないように、爪をかけ、
狼は少しずつ人間を犯す体制に入ろうとしている。
「やだ……よ、やだってば!
おい!とめろよ、とめてくれよ!」
もはや混乱の境地なのだろう。
人間は大きく暴れ、
私にすがる。
だが、
逃げようとする獲物を、狼は強く押さえつけた。
爪が人間の肌に食い込み、
鮮血を浮かべる。
獣との交尾は想像を絶する恐怖だろう。
もっと震え、もっと怯えさせよう。
私に逆らった、罰だ。
私を裏切り続けた人間への復讐だった。
「やだ、ほんとにやだって!
なんでもするから…!もう逆らったりしないから!」
人間が私に救いを求めて懇願した。
私はその懇願を愉しみ、
身体を抱き寄せてやる。
偽りの愛を囁き、
人間の心を揺さぶる。
うつ伏せになった人間の上半身を膝に乗せ、
人間が私にすがり易い様に調整してやる。
そして、
狼に向かい命令した。
「ひぃぃぃーーーぁぁぁぁぁぁ!!!!」
狼はその怒張を、人間の濡れた穴へと一息に根元まで押し込んだ。
人とは違う獣のペニスに、
人間は断続的に息を吐き悲鳴を上げ続ける。
若くして死んだこの狼は、肉を穿つ味を始めて知るのだろう。
人間の身体を夢中で犯していた。
獣の交尾は本能に忠実で、現実的だ。
狼の陰茎は大きく猛り、
人間の小さな孔を深く、そして限界まで広げ人間を苦しめている。
腰を大きく振り続ける狼の睾丸が、
人間の尻の腹を楽器のようにリズムよく叩き続ける。
逃げる腰を殊更に強く押さえつける前足。
その強靭な筋肉が人間を力強く犯し続ける。
「ヤダ!嫌だ、嫌だヤダヤダってば!!
止めさせて!止めさせて!」
人間は私の膝の上で懇願した。
体裁も気にせず泣きじゃくり、
私の服にしがみ付き、人間は狼に犯される衝撃を堪えている。
口から喚き散らした唾液が、
泡となって飛び交っていた。
恐怖に引き攣る人間の肉の筋。
開いた瞳孔。
穢されていく心。
だが私は人間の言葉を無視し、
獲物を犯し続ける狼に向かい話しかけた。
「どうだ狼よ、初めて知る肉欲の味は?
お前はこの快感も知らずに人間から虐殺されたのだ。
悔しかろう、人間が憎かろう?」
狼は私の問いかけに答える代わりに、
人間を穿つ力をますます激しくさせた。
「ぁぁが……!ん!やぁ……!」
獣のペニスは人間を大きく苦しめた。
聖職者であるこの人間には、穢れた獣に犯されることなど、
信じられないほどの地獄なのだろう。
穢されるという言葉の意味を、何よりも感じているのだろう。
狼は人間の孔を奥深くまで味わっている。
濡れた柔襞、肉の感触。
どれもが狼にとって新鮮で、素晴らしい快楽なのだろう。
狼の悦びの感情が、私にまで分かる。
興奮に濡れた狼の唾液。
狼は人間の身体を貪り続けた。
人間の肌と狼の純毛に包まれた下肢がぶつかり合い、
その度に、人間の孔から泡立った粘膜が零れた。
人間の歯は恐怖と苦痛で震え、
小刻みに打ち鳴らし、歯と歯がぶつかり合っている。
人間は痛みで顔面が蒼白としていた。
「やだ……、お願い。お願い……だから」
人間は私に強くしがみ付き、
いまだ懇願していた。
私にしか救いを求めることができないのだろう。
私はそれを鼻で笑い、一蹴した。
「そんなに救いを求めるくらいなら、
神にでも助けを求めればいい。
神が存在するのならば、
獣に穢されているお前を助けてくれるはずだろう?」
「……っ!」
だが、私は嬉しかった。
この人間はやっと、神ではなく私に救いを求めたのだ。
私は狼に語りかける。
「もっと腹側を意識して犯してやれ、
腹を中から擦りあげるように……、
そう、良い突き上げだ。お前は覚えがいいな」
「あ……ぁ!や!――なんで……っ!」
人間が狼のレイプに合わせ、
上擦った声を上げ始めた。
清らかなこの人間が穢れた狼に犯されて感じているのだ。
狼もまたこの行為に感じているのか、
口の端からさらに涎を垂らし、強く人間の腰に押し付けている。
人間は声を堪え、
私の腹に顔を擦りつけた。
快感をなんとか堪えているのだろう。
そしてそれを私に知られまいと隠しているのだ。
だが、
人間の猛った陰茎から流れている粘膜を見れば一目瞭然だった。
狼が人間の腹の中を穿つたびに、
その淫らな陰茎は震えた。
私の腹は、擦り付けている人間の口から零れる唾液に汚れる。
その唾液は興奮に粘つき、
強い粘着性を持ち、濃い。
性的に快楽を覚えている証拠だ。
「どうだ、穢れた獣に犯される気分は。
狼のペニスは私のモノより剛直で奥まで味わえよう?」
「嫌です、……どうか。お願い…ぃ…だから!」
「まあ、まだ存分に愉しめ、
ああ、そろそろ狼が種付けするようだ。
獣の精液は量が多く、しばらく埋め込み続けられるからな、
覚悟をしていたほうがいいぞ」
「やだ、やだ!それだけは!嫌です!
お願い!お願い!止めてください!中に出させないで!」
人間の悲鳴の懇願をよそに、
狼は最後に腰を引き寄せ、震える。
多量の粘膜の液体が注がれる音が、
静かな牢獄全体に反響する。
狼が人間の中に吐精したのだ。
「なんで、ヤダって……ったのに……、
ヒデェよ……!こんなのって、……っく……、ぃ……く」
人間は大きく嗚咽を漏らしながら私に恨み言を言う。
だが多量に注ぎ込まれ続ける精液の衝撃に耐えられないのか、
私に力強くしがみ付いていた。
狼の射精はまだ終わらない。
注ぎ込まれ続ける精液が雌の卵子に癒着するために、
狼は人間の孔に多量の射精をしながら、また深くまで穿つ。
濃い粘膜の液体を孔に注ぎ込まれながら、犯され続ける人間。
そしてその背徳に感じ、陰茎を猛らせる人間。
穢れた私にすがりつき、穢れた獣に犯される姿。
そこにはもはや、
聖職者だった人間の清らかさは感じられない。
狼の射精を含んだ抜き差しは終わらない。
性を始めて知った若い雄は、
一度だけでは終わらないだろう。
狼は再び、
人間の中に吐精し続けながら後足に力を込め、
犯す。
狼の筋の張った腿。
全身を押し込むように力を込める脚先。
爪と固い床とが擦れ合う音が、牢獄に響く。
「やだ……!もぉ、やだって!
ねぇ、もぉ……おなか、はいんない……!苦し……ぃ!」
私にすがりついた顔を埋め、
泣きながら人間は叫んだ。
だがやはり、
その陰茎は猛ったままだ。
むしろ、もうそろそろ限界なのだろうか。
人間の猛りは今にも爆発しそうだった。
「狼よ、
最奥まで犯し、中に大きく注いでやれ。
その人間は奥に種付けされると肉が締まり、中が濡れる。
ますます犯す悦びが増えようぞ」
私は狼に再び指示を出す。
「ヤダ!ヤダヤダ!」
抗議する人間を無視し、
狼は根元まで犯しきり、中の肉襞を掻き分ける音すら立てて、
中に種付けを開始した。
狼の陰茎が射精の衝撃で大きくなったのだろうか、
腹の中で膨らんだ猛りに押され、
人間の感じる壺が直接刺激されたようだ。
「あ……ぁ、……うそだ。……ぃあ……!」
人間は射精していた。
そして、腹を大きく押されたせいか、
それと同時に尿を漏らしていたのだ。
固い床に勢いよく水が滴る音が響き、
人間の尿が広がっていく。
その様は本当に獣のようだった。
その羞恥に耐えられないのか。
人間はますます強く私に抱きついた。
狼のレイプはいまだ終わらない。
人間は私にすがり続け、
痛みと恐怖、そして獣に犯される快感に耐えていた。
私はただ黙ってそれを愉しみ、
人間が穢されていく様を喜んだ。

狼が人間から離れたのは一時間過ぎたあたりか。
さすがに狼も疲れたのだろう、
私が用意した毛布の中で眠ってしまった。
街で虐殺され、蘇ったばかりなのだ。
だが、その寝顔は穏やかだった。
人間を無理やりに犯したことで、
狼の人間への恨みが少しだけ和らいだのだろう。
「……んく、……ぅ……っぐ…………っ」
狼が離れた後、
人間は泣きながら自身の孔に指を指しこみ、
狼の吐き出した多量の精を掻き出していた。
獣に精子を植付けられたのが本当に辛かったのだろう。
泣きじゃくりながらも、
孔の奥からいくらでも零れ出てくる白濁を、必死で排出している。
牢の床には孔から零れた粘膜が広がり、
その淫らな光景がますます人間を苦しめていた。
私は愉快だった。
人間を穢し、
また一歩この者が私のモノになった気がしたのだ。
泣き続ける人間の元に行くと、
私は中を掻き出している腕を掴み、指を引き抜く。
「………ぁ………」
狼狽し、恐怖する人間の頭を撫で、
私はまた偽りの愛を囁いた。
そして獣に犯され続け、
満足に膝立ちすることもできないほどに弱った体を、
犯す。
ずっと我慢していたのだ。
狼が犯している間、私はずっと堪えていたのだ。
人間が恥辱と屈辱に振るえ、最後に快感に震えていった様を。
私は嫌味なほどに優しく人間を扱う。
人間は私に逆らう気力は無いのか、
それともまた逆らい、狼に再度種付けされることを恐れているのか。
私に黙って犯された。
狼に犯されるのがよほど辛かったのだろう。
普段は暴れて嫌がるレイプを、
甘く感受していた。
腰を抱き寄せると小動物のように小さく震え、
だが私に強く抱きついた。
獣に犯された身体が人肌を求めているのだろう。
私は穢れた吸血鬼だが、
獣のレイプに冷えた人間の身体には、人のぬくもりをかすかに感じるようだ。
キスをねだるように、
人間は泣きながら、唇を私に寄せた。
私はそれに応え、
人間の唇を深く奪ってやる。
人間の身体を、獣に汚された全身を癒すように、
私はひたすら優しく人間を犯す。
そしてまた、再び愛の言葉を囁いた。
私の言葉に人間は頬を赤く染め、
視線を逸らした。
だが、
先ほどまでの、獣に穢された恐怖に怯えているのだろうか、
人間は私の腕の中へと自らの身を寄せた。
泣きじゃくり、
私の胸へ顔を埋め、まるで母にでもすがるかのように甘えている。
私は嬉しかった。
人間が私を求めているように思えたからだ。
しょせんそれが、
恐怖から逃れるための行為だとしても、
私は嬉しかったのだ。
人間が痛みを感じぬよう、慎重に人間の中を犯した。
私もまた、
人のぬくもりが心地よかった。
「私を独りにしないでくれ」
思わず漏れた言葉に、
人間は驚いて私の瞳を見返した。
何も考えずに漏れた言葉だ。
そこにはいつもの偽りの愛ではない、
真意が零れていたのだろうか。
私には分からなかった。
私の言葉に、
人間は何も応えなかった。
歪んだ独占欲が私を支配し、
私は人間を甘く抱き続けた。

翌日、
人間は当然の事ながら病状を悪化させた。
元から万全でなかった身体を狼に犯され、
その後私にも犯されたのだから当たり前の話だ。
私は人間をベットに寝かせ、
薬を飲ませてやる。
栄養を付けさせるため、
リンゴをすり潰し、熱で惚けている人間の口に流し込んでやる。
人間はソレをわずかに口に含み、
食べてくれた。
薬の影響か、また眠くなってきたのだろう、
人間は目蓋を閉じ寝息を立て始める。
相当疲れているのだろう。
私は人間の頭に濡れた布を押し当ててやり、
少しでも熱い体温を冷やしてやる。
人間はその冷たい布の感触が心地良いようだ。
生前に、数日だけ似たことをした事があった。
私を育ててくれた祖母を看病したときだ。
私を拾ってくれた優しい女性だった。
だが、その祖母も卑しい人間のせいで死んだ。
祖母は人間に騙されていたのだ。
幼かった私にはそんな事は分からなかったが、
今ならそれは理解できる。
祖母が持っていた土地の権利が欲しかったのだろう。
その土地には、立派な教会がたった。
幼かった私はそこで引き取られ、暮らした。
何も疑うことなく、
ただ神を信じた。
後に裏切られ続けるとも知らずに、盲信していた。
もう、昔の話だ。
人間と触れていると、
胸の奥に封印していた記憶が次々と蘇り続ける。
楽しい記憶もある。
街でみかけた祭事。
愛した妻。
無邪気な息子の笑顔。
だが、
その幸せのほとんどは、まやかしだった。
祖母の下、世間を知らずに育ち、
教会の狗として暮らしていた私はさぞかし騙しやすかったのだろう。
かつての記憶を思い出すのは、
懐かしくもあり、
辛くもある。
私は、
この世界に疲れていた。
かつてを夢想していた私をよそに、
人間は目を覚ましたようだ。
私の看病に、
人間は目を逸らしたままに礼を述べた。
その少しだけ戸惑った様子が愛しく思い、
私はその顎を引き寄せ接吻した。
人間はもはや私に逆らうつもりはないようだった。
よほど、
昨夜の陵辱は堪えたのだろう。
人間と交わすキスは、
やはり甘く。
心が安らいだ。
私は満足だった。
願わくば、この清らかな人間を吸血し、
同じ穢れた存在にしてしまいたかった。
だがいくら咬んでも穢しても、
神を強く信じるこの人間は吸血鬼になることは無い。
私は最近になって気がついてしまった。
それは忘れていた温もり。
本当に欲しいものは、
この人間の心なのだ、と。
だが穢れた私にはその術を持たない。
だからせめて、偽りの愛を囁き続けた。
人間は薬を飲み安静にしていたおかげか、
次第に症状が落ち着き始めたようだ。
ベットでの生活が退屈なのだろうか、
人間は私に話を聞くようになった。
ふと、
あの赤い街の話をしたのがきっかけだった。
この人間もあの街で育ったらしい。
そして、
あの忌まわしい教会で育ったようだ。
思わぬ共通点、
私は巡る因果の皮肉に苦笑した。
人間は私の過去に興味があるようだった。
それは退屈しのぎで、
私自身に興味をもっているわけではないのだろうが、
私はその些細な事が嬉しかった。
人間の病状が良くなるまで毎日過去の話をした。
穢れた不浄な存在になってから、
私はもう数える事を忘れるほどの年月を過ごしている、
話のタネがなくなることはなかった。
祖母のこと、かつて暮らした赤い街の思い出。
死んでからこの城を作り上げた時のこと。
夢魔と過ごした数年の思い出。
そして、人間だった時の悪しき記憶を。
今日は、
私が人間に殺されたときの話をした。
人間は私の話を聞き、
ただ静かに泣いた。
私は動揺していた。
人間が私のために泣いているのだ。
この清らかな人間が、
神に仕えるこの人間が穢れた私を思い泣くことなど、
信じられなかったのだ。
私は不可思議な感情に襲われ、
思わずその震える手を握ってしまう。
暖かい手だった。
人間はやはり黙ったままだったが、
私の手を強く握り返してくれる。
それが引き金となった。
ふと身体が自然に動き、
私は人間の身体を強くたしかに抱きしめてしまう。
そこにはいつものような打算は何一つ無かった。
人間の暖かな優しい身体はかつて失った私の感情を、
呼び起こした。
そして。
私はさらに動揺した。
穢れた存在のはずの私の瞳に涙が浮かんだのだ。
私は信じられなかった。
吸血鬼のこの私が泣くなど、
ありえないことなのだ。
込み上げてくる感情に耐えられず、
私は人間の身体をさらに強く抱きしめる。
心が落ち着き、
安らぎが私に訪れる。
人間は泣いた私に気がついていたようだが、
ただ黙ってそのままでいてくれた。
心が報われる感覚だった。
恨みを持って蘇った私は、
誰かに聞いて欲しかったのだ。
私の無念を。
恨みを。
人を信じた悲しみを。
私はそれから毎日、
人間に過去の話を続けた。
人間にもっと聞いて欲しかったのだ。
そして、救って欲しかったのだ。
私は人間に様々な時節を語る。
私を陥れた人間の醜さ、
故もなく襲い掛かってくるエクソシスト。
私はひっそりと暮らしていたかっただけなのだ、と。
人間はただ黙って、
私の話を聞いて泣いてくれる。
この清らかな人間が泣き悲しんでくれる度に、
私の心は救われていった。
孤独の辛さ。侘しさ。
そして神を信じていた頃の話を、
人間に語り続けた。
かつて教会に属し、人々に神の教えを説いていたこと。
人を愛し、妻子を持ったこと。
愛を知り、人生の素晴らしさを知ったことを。
そして私は語り続けた。
教会に裏切られ忙殺された恨みを。
息子を救わなかった神への絶望を。
死の悲しさを。
蘇った私を蔑み、
愛人と共に私を滅ぼそうとしたかつて愛した妻。
愛したものから裏切れ続けていた真実、
私を偽り続けていた妻への失望を。
人の醜さを。
人の残酷さを。
それでもまだ神を信じていた自身の愚かさを。
永く生きすぎ、
次第に人の闇を知りすぎていった事を。
そして、
ついに神への思慕を捨てたことを。
神に裏切られ続けた永い記憶を、
私は人間に語り続けた。
人間は私の話を全て聞いてくれた。
時に私が言葉を詰まらせるときには、
優しく語りかけてくれ、その身体をもって癒してくれた。
私は人間と身体を合わせることが、
幸せに感じるようになっていた。
私は人間の優しさに、清らかさに溺れていったのだ。
それはまさしく、
かつて信じていた神への思慕に似ていた。
私はこの人間に救いを求めていたのだ。
偽りではなく、
本当の愛が口から零れたのはいつの頃だっただろうか。
その時には人間の病はすっかり直りきり、
いまでは共に生活を営めるほどに回復していた。
私は毎日が幸せだった。
不浄な存在だった私が、
幸福を感じる生活。
私は感謝した。
この清らかな人間と私を巡り合わせてくれた運命を。
自身の恨みが消えていったことを。
もしかしたらこの運命を、
人々は神と呼んだのかもしれない。
あの哀れな狼も、
どことなく穏やかになっているように思える。
どうやら近くの森で仲間ができたようだ。
異形の存在になってしまった狼だったが、
必死で努力して仲間と認めてもらったのだろう。
私よりはるかに順応力のあった狼に、私は苦笑した。

穢れた存在の私にふさわしくない幸せな日々。
私に哀れみをかけてくれる人間。
たとえそれが憐憫でも良かったのだ。
だが、この幸せも終わる日が来る。
ある日人間が、
家族が心配だから一時帰郷したいと言い出したのだ。
おそらく、嘘だろう。
邪気が消えた私を残し、
人間は人の街へと帰るつもりなのだろう。
だが、私はそれを許した。
私の中で、
人への恨みが消えていたのだ。
この清らかな人間に、
私の心は癒されていたのだ。
人間は必ず帰ってくると言い残し、
山を下っていった。
これが、
人間との最後の別れになるだろう。
この世界に対しての恨みが薄れていった最近、
私の存在はだんだんと弱いモノとなっていたのだ。
霊の未練がはれ天へと成仏するように、
恨みを失った私はそのうち霧となって消えてしまうのだろう。
達観に近い感覚だろうか。
だが私は満足だった。
人間が去ったこの広い城は、
寂しく、私の存在意義はなくなり始める。
時間だけが過ぎていく。
幾月もたち、
再び人間がこの城に帰ってくることは無かった。
これで良いのだ。
もう私は十分に満たされた。
人間がこの城に来てから、二度目の春を迎えた頃だ。
人間がこの城を去ってから一年が過ぎた。
薄れていく私に、
狼は心配そうに見つめていた。
だが、そのすぐ側には1匹の雌の狼を連れている。
その雌の狼の腹は大きく膨れ、
この哀れだった狼の子を孕んでいるのだろう。
本当は私の元から離れて、
群れの仲間と共に生きたいのだろう。
だが、独り残る私が心配だと言ったところなのだろうか。
獣に心配される自身に、
私は苦笑した。
私はこの優しき狼を、
私の束縛から解放することにした。
元より、
力で従属させていたわけではない。
だが私に従っていたのは、
この狼なりの私への礼だったのだろう。
「もう良いのだ、哀れだった狼よ。
どうせ私はもうすぐ消えてしまう、早く群れの中に戻るが良い」
私の言葉に、
狼は戸惑っていたが、
外から仲間に呼ばれ私に背を向ける。
城には本当に、
私独りになってしまった。
独りに、
なってしまったのだ。
今更ながら感じる独りの冷たさに、
私は苦笑した。
愛など知らなければ良かった、
思い出さなければ良かった。
だが、
人間と過ごした甘く、優しい日々は幸せだった。
もう、未練は。
無い。
このまま私は消えてしまえるだろう。
もしも、
もしも人間がこの城に、戯れに訪れた時のためにと、
あの清らかな人間に最後の手紙をしたため様とした時だ。
大きな悲鳴と怒声が城に響き渡る。
狼の声だ。
私は不信に思い、
その場所へと急ぐ。
そこには一人の聖職者が雌の狼に刃を押し当てていた。
あの教会で医者の場所を教えてくれた男だった。
だがあの時の聖人ぶりは垣間見れず、
そこには卑しい欲に塗れた人間の表情が浮かんでいる。
おそらく、
あの時に私の正体に気が付いていたのだろうか。
私は子を授かっている狼を助けようと、
身を乗り出す。
あの哀れだった狼も、
聖職者を威嚇し、今にも飛び掛ろうとしている。
だが、聖職者はその狼の膨らんだ腹に刃を押し当てた。
脅しているのだろう。
「おっと、動かないでください。
この狼がどうなってもいいのですか?」
「止めるが良い、人よ。
その狼は子を授かっている、
神に仕えるお前が神から授かった命をねだやすというのか?」
「関係ない、
穢れた獣の子など、神の祝福を受けていないからね」
緊張は一瞬だった。
私は無防備のままに聖職者の前に身を晒す。
「もう……良い、分かった。
無益な殺生を犯すな、不愉快だ。
私の魂を滅したければ好きにしろ、
だからその狼を離してやってくれ」
「ふん、街で狼を救ったという噂は本当だったようですね。
まあ、私は貴方を滅されれば何だっていいんですがね」
聖職者は狼を手に押さえつけたまま、
私の前ににじり寄って来た。
やはり最後まで人間とは醜い生き物だ。
だが、
神への信仰心の無い私にはこの聖職者の浄化も効果が無いだろう。
斬りかかってきたところで、
消されたフリをしてやり過ごしてしまおう。
やはり十字の装飾を施された祝福の聖槍が、
私の胸を突き刺した。
『!』
瞬間、
何か生暖かいモノが私の全身を巡る。
ドス黒い血が、私の胸から零れ続けた。
痛みはない。
だがたしかに私は負傷していた。
何故だかはすぐにわからなかった。
だがあの清らかな人間を思い浮かべ、
答えが見つかる。
私はあの人間に癒されているうちに、
ほんの少しだけ残っていた神への思慕を思い出していたのだろう。
神を思い出した私に、十字を施された槍は致命傷だ。
身体が崩れていく。
血が空へと溶けていった。
私はこのまま滅ぶだろう。
元より、恨みが消えた魂に、
力は残っていなかったのだ。
皮肉な話だった。
私はあの清らかな人間に魂を救ってもらい、
そして人間を愛してしまったせいで滅ぶのだ。
本当に、
皮肉な話だ。
私は愚かな存在だった。
最後にまた、
あの人間と共に一時を過ごしたかった。
消え行く意識の中で、
思い出すのは世界への恨みではなく、
あの人間への思慕だった。
私は本当に、
愚かだった。



















意識が覚醒すると、
そこには聖職者の血塗られた死体が横たわっていた。
そして、
その先に、瞳一杯を涙で埋めたあの清らかな人間が、
私の裂けた身体を心配そうに見つめている。
その手には一振りの剣、
ソレは赤く人の血で染まっていた。
人間は私の元に帰ってきたのだ。
私の元に、
帰って来てくれたのだ。
自然と笑みが零れた。
だが、もう遅い。
私はこの滅びを免れることなどできないだろう。
「泣くな、人間よ。
どうせ元より、私は死んでいたのだ。
ただその惨めな魂が生へと執着させていたに過ぎない。
あるべき死へと、私は帰るだけなのだから」
「嫌です、……嫌だ!
どうして貴方が滅びなければならない!
私は知らない、
貴方ほど心が清らかな人間を、
貴方ほどに全ての命を愛していた魂を!」
人間は泣きながら、灰になっていく私の身体を、
抱き続けた。
私は嬉しかった。
人間が帰ってきてくれた事が、
嬉しかったのだ。
ただそれだけが、
あるべき死へと帰っていく私の魂への救いだった。
「神よ、
愚かで残酷な神よ。
私は貴方を恨んでいる、今でもそして、滅んでも。
だが、
最後に……。
最後にだけ。愛した人間に看取ってもらえたこと、
それだけは感謝しよう」
私は天へと語り、瞳を閉じた。
神が本当に存在するかどうか、
それは私には分からなかった。
だが最後に、
私の魂が報われたのは事実だ。
もはや映らぬ瞳には、
清らかな人間の顔がいくらでも想像できた。
きっと大泣きしているのだろう。
その無垢な瞳を揺らして、
私のために泣いてくれているのだろう。
私は人間の腕の中、
滅び行く死を享受した。
だが、
その滅びはいつまでも訪れなかった。
私の意識は再び覚醒する。
人間が私の零れる血を啜り、
そして伸びた犬歯で私の咽元に噛み付いていたのだ。
鋭い牙が私に深く、ささる。
滅び行く私の身体に、
人間の不浄な魂が入り込む。
それは私の失った邪気を取り戻していった。
滅びに向かっていた私の身体は浮き上がり、
空へと消えていった灰が再び、
私の身体へと集まっていった。
「私は、私は……。
たとえ神に背いても、貴方を失いたくない」
言葉と共に人間の爪先は伸び、耳は尖り、
そしてその瞳が闇の住人の者に変わった。
人間から、命の鼓動が消えた。
人間は、
私を救うために人間を捨てたのだ。
あれほど神を慕っていた人間が、
私を救うために、
吸血鬼へと身を堕としたのだ。
私は嬉しかった。
信じられなかった。
この不浄な私を救うために、
人間は全てを捨ててくれた。
その想像もできない事実に、
感謝せずにはいられなかった。
泣かずには、
いられなかった。
まだ満足に動けぬ身体。
だが私は我慢できなかった。
いまだ灰混じりな腕で、
抱き寄せた。
泣きながら私を思い、
身守り続ける愛しき者を、
強く、
強く。
抱き寄せた。
「――愛しています。
誰よりも、何よりも……――。
そして神よりも。
私は、貴方を信じています」
私はその言葉に何も応えられなかった。
感情が昂り、唇が動かないのだ。
ただ黙ったままに、
その暖かい温もりを、
ことさらに強く抱きしめた。

私の瞳から涙が消えることは無かった。



【終】
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