【生贄ヴァージン】



本作には特殊な性表現が含まれております。
閲覧の際はご注意ください。


【1】役立たずな家政夫


醜い陽が沈み、
心地よい月明かりが照らし始める時刻。
焦げた匂いと共に、
私の一日が始まった。
昨日までは光沢を放っていたカーテン、
汚れた雑巾で拭かれたせいか今はくすんでみえる。
人間の家政婦を働かせてからというもの、
私の気が休まることはない。
先月、生贄にと捧げられた人間はなんとまあ不味そうな男で、
喰うことを諦め日々の雑務をさせることにしたのだが。
これが失敗だった。
「やってられっかよ!」
人間の怒声と共に、
調理場から響く破裂音。
あの短気な人間がまた癇癪を起こしたのだろう。
「貴様、また何かやらかしたな!」
調理場に行ってみると、
そこには原型を留めぬほど焼け曲がった鍋と、火打石が散乱していた。
三日前に直したばかりの窓は再び粉々。
自分でも顔の引きつけが分かるほどに、
私は苛立っていた。
鍋を使いものにならなくするのは、これで何度目だろうか。
「俺は悪くない」
人間は腕を組み、恐怖の対象であろうはずの悪魔の私を睨んだ。
「私にはお前が癇癪を起こして石を投げつけ、
窓を割ったようにしか思えないが?」
「家事なんて出来ないって俺は最初から言ったんだぞ!
それなのにこんな労働させやがって、
はやく俺を街に帰しやがれ!」
弱いくせに最近のコイツはよく吠える。
さすがに一月も共に生活をしていれば、
私にもなれてきたのだろうが。
「命だけは助けてくれ、
なんでも言うことを聞きますから食べないでくれと、
泣きながら縋られた記憶があるのだがな」
「長く生き過ぎてボケたんだろ」
ああ言えばこう言う。
私は深くため息をついた。
思えばあの時に殺すか食べるかしておけば良かった。
大の大人が顔を潤ませ懇願する姿に、
一時でも憐憫を浮かべたのが間違えだった。
こんなに使えないやつと知っていれば、
あんな契約をすることもなかったのに。
「いいか、私もお前を早くこの屋敷から追い出したいのだ。
毎日毎日屋敷中の調度品を汚し、壊し、
あまつさえ私の秘蔵の書まで燃してしまう始末。
愚かと名高いワーウルフでさえ、
もう少しまともに仕事をこなせるだろうに」
「だったら早く追い出してくれよ」
腕を組んだまま、口を尖らせ私を睨む人間。
「最初に約束してしまっただろう。
お前が一生懸命に家政婦として働けば屋敷から出してやると。
悪魔との約束はつまり契約だ。
悪魔である私は人間との契約を破棄できない。
お前が一生懸命に働いてくれなければ、
貴様の様な厄介者でさえ屋敷から追い出すことができぬ」
そう、
不本意にも私はこの人間と契約を結んでしまっているのだ。
まさかこの人間がここまで能無しだと、
思わなかったのだ。
毎日毎日モノを壊し、
騒々しく屋敷を荒らしまわる。
本人は掃除をしているつもりなのだろうが、
屋敷は荒れる一方。
これで苛立たなければ、
私は悪魔など辞めて天使にでもなっている。
「なんだよ! 俺は一生懸命働いてるだろ!
もう契約は完了だ、早く俺を屋敷から出しやがれ!」
「貴様の一生懸命というのは屋敷を破壊することか?
それとも火を起こしたまま昼寝し、
屋敷を燃そうとすることか?
そういえば、絨毯を切り裂いたのは昨日だったな」
真顔で近づいてやる。
沸々と湧き上がる怒り。
「……ぅ、そう怒るなよ」
この人間の腹立たしい所はここなのだ。
強気なくせに妙に怖がりで、
すぐに情けない声を上げる。
ここで許してしまう私も悪いのかもしれないが。
しばしきつく凝視し、
その怯えた顔を観察する。
冷や汗を垂らしながらも、
なんとか空気を誤魔化そうと引き攣った笑みを浮かべている人間。
「もう良い、
ともかく今日の食事は私が用意するから、
お前は何もするな何も触れるな何も壊すな。
大人しく座っていろ」
まさか悪魔の私が人間に食事を用意する日がこようとは思っても見なかった。
思えば最近はほぼ毎日私が食事の用意をしている。
もし実家の兄にこんな体たらくが知られてしまったら、
そう思うとため息は再び零れる。

「おー――! 美味そうじゃないか!」
人間は食事を用意するなり、
歓喜の声を上げた。
「馬鹿者! 主人より先に食事するなといつも教えているだろうが!」
「なんだよケチケチすんなって、
冷めたら味が半減しちまうだろ。
俺はせっかく作ってくれた料理を、一生懸命美味しく食べようとしてやってんだぞ」
まったく教養がない。
品がない、生活力もない。
この人間が一生懸命に働いてくれ日はいつになるのだか。
「なあパンだせよ、パン」
パンパンと騒がしくする人間に、
私の怒りは再び込み上げてくる。
「なあ聞こえないの?
パーン、パンパン。
どうせ偉大な悪魔様の力で簡単に出せるんだろ、
ケチケチするなよ!」
たしかに、
私にはパンを出すぐらい朝飯前だ。
けれどそれが主人にモノを頼む態度ではないというのは、
幼子でも理解できるだろうに。
もう説教するのも阿呆らしくなってきて、
指を鳴らし、人間の前にパンを出してやる。
サンキューとまるで友人に礼を言うかのように笑うと、
人間は私の出したパンを口にし始めた。
美味しそうにパンを齧る人間。
自然と零れるため息。
まったく、
私はあの時の自分を叱りつけたくてたまらない。
なんでこんな愚かな人間に情けをかけてしまったのか。
だいたい街の連中も街の連中だ。
生贄など必要としてないのに、向こうからわざわざ生贄を用意すると言い出し、
その末、こんな不味そうな人間を生贄として用意するのだから。
「しかしよ、酷いと思わないか。
俺なんにも悪いことしてないのに、悪魔の生贄されたんだぜ。
簡単な仕事だっていうから引き受けてやったのに、
蓋を開けてみれば悪魔の生贄!?
あの狸面した町長めが、帰ったらたっぷり金を搾り取ってやる」
湯気を漂わせるスープにパンを浸し、
それを指で弄びながら人間が吠える。
戯れに動かす指が皿を傾け、スープが零れていた。
行儀が悪いと何度注意しても直らぬ人間の癖。
私のため息は、
重い。
「騙されたお前が悪いのだな」
「なんだよ俺が悪いって言うのか!」
本当に騒がしい。
私は眉を押さえ、顔を振った。
「騒ぐな、頭に響く」
「へー、悪魔なのに頭痛持ちなんだ。
なさけねぇなー」
「誰のせいだと思っている!」
声を出して笑う人間に私の頭痛は増していく。
叩いた食卓が歪み、
ワインが零れた。
「――……どうか早く一生懸命に働いて、この屋敷から出て行ってくれ、
私は静かに暮らしたいのだ」
込み上げる怒りを抑え、私は眉を抑え呟く。
「分かってるよ。
っかしーな、俺一生懸命働いてるつもりなんだけどな」
「一生懸命働いてくれるのはいいが、
前にも言ったがあの壺だけは割るなよ」
「そんなに毎日言われなくなって分かってるよ。
あの汚い壺だろ。
あんな壺触ろうとも思わないから安心しろって」
本当に大丈夫なのだろうか。
まああの壺を割ったとして、
私が死ぬわけではないからいいのだが。
……――。
「おい、貴様。何故あの壺が汚いと知っているのだ?」
再び念を押そうと顔を上げたとき、
すでに人間は逃げ出していた。
逃げ足だけは一流なようだ。




【2】微かな取り得


ふとした不安から、
私は壺を寝室に運んだ。
もしかしたら人間が何か勘違いをし、
あの壺で何か企んでいるのではないか、
そんな気がしたのだ。
「動くな! この壺がどうなってもいいのか!」
そして予想通り、
私は頭痛と共に目を覚ます。
「主人の部屋に入るときはノックをしろと教えているだろう」
もはや癖となってしまったため息。
人間はいつの間にかこの部屋に侵入したようだ。
口の端をつり上げ、壺を片手に私に刃物を向けている。
見たところ調理用ナイフだったが、
そのナイフには芋の皮が張り付いていた。
調理場の器具をちゃんと洗っておけと命令したのだが、
その約束は果たされていないようだ。
「へっへーーん、アレだろ、アレ。
この壺はアンタの魂が封印されてるとかお約束な壺で、
これ割ったらアンタも死んじゃうんだろ?」
その想像力はどこからやってくるのだろう。
愚かで短絡的な考えに、
私の頭痛は増していく。
もはや怒りを通り越して浮かんでくる憐憫。
「好きにするが良い。
だが忠告しておくが、それは呪いの壺だ。
それを割ったらお前は呪われ、苦しみの後に朽ちていくことになるぞ」
「へん、負け惜しみを!
そう脅せば俺が大人しくなると思ってんだろ」
ナイフを揺らし私に向け、
勝ち誇ったように私を睨む。
「んじゃ、お望みどおり、
アンタには滅んでもらうぜ!」
人間が壺を床に強く叩きつけた。
壺は見事に砕け散り、
数秒の後、塵と化して消える。
やってしまった、か。
「さあ滅べ、いま滅べ!
これで俺も自由の身だぁぁぁぁ!
――――……って、あれ。滅びない?」
「だから言ったであろう、
壺は別に私の命でも、魂を封じた壺でもないと」
乾いた空気が広がる。
ナイフの切っ先に留まっていた芋の皮が床に落ち、
滑稽な音を立てた。
「え……じゃあ、あの壺は?」
「先刻言ったとおり、正真正銘の呪いの壺だ。
お前が割ってしまわないように配慮していたが、
私を滅ぼそうとしていたお前を助ける義理もないからな」
もう私は知らん、と。
そう告げ、私は再び眠ることにする。
シーツに身を滑らせその心地よさを味わう。
これで私はこの人間との契約を破棄できる。
人間が死んでしまえば、
契約は消えてしまうのだから。
明日からはやっと静かな暮らしに戻るだろう。
「俺、どうなっちゃうんだ?」
「確実に死んでしまうな、哀れなことだ」
背を向けていた私の前方に回り込み、
人間が私を軽く叩いた。
「嘘だよな?」
その顔からどんどん血の気が引いていく。
己がしてしまった過ちを今更自覚したのか、
人間には冷や汗が目立っていた。
「なんでそんなもん後生大事にもってやがるんだよ!」
「私は何度も忠告したはずだ、
あれは千年前に淫魔が作り出した呪いの壺、
呪われたアイテムだと言えどなかなか貴重なものだからな。
捨てずに取っておいたのだが、
人間よ、貴様の自業自得だ」
天井から黒い霧が吹き出し、
人間の体内を冒していく。
だんだんと呪いの効果がでてきたのか、
人間は床に倒れこんだ。
「なんだよぉ、コレ。
身体が……変ッ……!」
青白くさせていた顔に次第に紅が刺していく。
淫魔の呪いは快楽と同時に死をもたらす。
人間はこのまま悦楽に溺れながら朽ちてしまうだろう。
「安心しろ、
墓ぐらいは作ってやる」
「ヤダよ、ヤダヤダ!
俺まだ死にたくないってば!」
苦しみ、怯え、悶えていく人間。
情けない声を上げ、人間は私に助けを求め始めた。
さすがに、
少しは哀れにも思うが――。
「あの壺は淫魔の壺といって、
淫魔の強い思念を封じ込めた壺でな。
お前は一晩中喘ぎ苦しんだ後、そのまま自身の熱に焦がれてとけてしまうだろう。
呪われた身のお前は神の元には帰れず、
地獄行きだ」
人間の苦しむ様子は少しだけ、
魅力的だった。
この苦悶の顔は予想外に心を揺さぶる。
「助けろよ! アンタ悪魔なんだろ!
俺を助けやがれってば!」
だが反省の色は薄い。
もう少し、助けてやろうという気分にできないものだろうか。
「言っただろ、
私にお前を助ける義理はない。
だいたい貴様が悪いのだ、私の忠告を無視したのだから。
それに私が悪魔だからこそ、
下等な人間など助けるはずがないではないか」
冷たく見放し、
再びシーツに潜り込む。
すすり泣く声が、
部屋中に響き渡る。
「ごめんなさい! 謝るから! 謝るから助けろって!」
よほど反省したのか、
人間は私にしがみ付きその身体を震わせている。
反省したかと訊ねると、
人間はしおらしく頷く。
呪いはますます深くなっていくのか、
人間の身体から甘い香りが漂い始めていた。
雄を誘う雌の香りだ。
少しだけ、
その香りに鼻が反応してしまう。
「約束しろ、
呪いを解いてやったらきちんと働いて、
私に忠誠を誓う。
そして私に誠心誠意尽くすのだ、良いな?」
「誓う誓う、なんでも誓う」
「では契約だ、
呪いを解除してやる見返りに、
一生懸命に働き、私に忠誠を誓う。良いな」
さらに念を押し、
人間と契約を行う。
何度も何度も頷く人間。
さすがに肝にも届いただろう。
私は呪いを解いてやることにする。
いくら古代に作られた呪いといえども、
現代の解呪技術を施せば簡単に呪いも解けるだろう。
指を鳴らし、
影を通し、人間の身体に私の魔力を流し込む。
空間が歪み、
呪いによって狂った規則を元に戻す。
―――……。
私はもう一度指を鳴らし、
人間の体内に私の魔力を送り込む。
――……。
二度三度、
四度、五度。
指を鳴らし呪いを消し去ろうとするのだが。
「……駄目だった」
顔を逸らし、
私は呟く。
呪いを解呪する自信があったのだが、
久しく力を使っていなかったせいで成功しなかったようだ。
頬を伝う汗。
「はぁ!? あんな契約させといて、
……駄目だった――、だと!」
呪いに朽ちていく人間だが、
最後の気力を振り絞って私に吠えている。
「思ったより壺の呪いが強力だったようだ。
私の力ではどうにもならん。
それに本来解呪は神や天使の領分、
悪魔の私が呪いを解くことなど――むいていないのだ」
思わず零れてしまう言い訳。
呪いをかけるのは得意だが、
呪いを解くのは正直得意ではないのだ。
「ふざけんなよ!
御託はいいからなんとかしろ!
契約したんだから約束は守れよな!
もし助けなかったらお前が契約を守れなかったヘナチョコ悪魔だって、
地獄で言いふらして回るぞ!」
痛いところを突かれてしまった。
確かにこの人間と新たな契約を結んでしまった。
あまり気乗りはしないが、
正規の手段で呪いを解くしかないか。
この壺は意中の相手に呪いをかけ、
セックスか死かを相手に選ばせ、
無理やりにセックスに縺れ込むための壺なのだ。
つまり正規の解呪手段とは、
セックスをすればいい。
ふと、
私に好奇心が生まれる。
どうせなら普段の腹いせに散々に嬲ってやろう、か。
レイプするように犯し、
この生意気な面を泣かしてやりたくなった。
好奇心はますます膨らむ。
「分かった、これから正規の手段で貴様の呪いを解く儀式を行う。
何があっても泣くな、騒ぐな。
それが守れるのなら助けてやる」
「なんでもいいから早く!
おれ、まだ死にたくないんだってば!」
実に不服であるが、
契約をしてしまったからには仕方ない。
そう自分に言い聞かせ、
私は胸の高鳴りを抑えつつ人間を抱き上げる。
私は人間をベッドに運び、横たえ、そして、
人間の衣服を剥いでいく。
「な、なにすんだよ」
「いいから黙っていろ、
呪いを解きたいのだろう」
淫魔の呪いがよく効いているのだろう、
人間の乳首は小さく膨れ上がり、
甘い香りを発している。
下肢は桃の様に朱色に染まり、
性器を尖らせ息を乱していた。
私は驚いていた。
人間の淫らな様に、
私自身が想像以上に興奮していたからだ。
「前戯はせんぞ」
「はぁ? 前戯って――っうわ!」
人間の両脚を持ち上げ、
私は人間の秘所に自身の怒張を押し当てる。
「ちょ……――え?
なに、なにがどうしたんだよ」
「黙ってろと言っただろ、
騒ぐのならば儀式を中止するぞ」
そして、
一突きに人間を犯した。
「―――ッッ――ン、ンーーーーー!!!」
大声を出せれるのは好きじゃない、
だから私は人間の口を手で塞ぎ、
最奥へと怒張を進める。
まるでレイプだ、と。
そう錯覚してしまう。
口の端が緩み、笑みを作っていた。
私は悪魔だ、弱者を甚振るこの感覚が、
快感だとよく知っていた。
口を塞ぐ手の平に人間の絶叫が解け、息の水分が肌を濡らす。
人間の身体が釣り上げられた魚の様に、
小刻みに震えていた。
目を見開き、
私を睨み人間が暴れた。
だがその暴れもすぐに治まる。
何が起こったのか理解できないのだろうか、
しばらく呆然としたように天井を見つめ、
涙を流した。
あまりの痛みに、
声が出せなくなったのだろうか。
手を離してやっても人間は声を出さない。
ただ身体を痙攣させ、
私に縋り付いて来る。
本当は、無慈悲に身体を貫き続けるつもりだったのだが、
潤んだ瞳ですがりつかれたせいで、つい情けをかけてしまう。
人間の身体を抱き起こし、
座る私の腿の間に座らせた。
向かい合い、抱き合う形で私の腿の上に跨る人間。
勿論、まだ人間と私は繋がったままだ。
その顔からは血の気が引き、
哀れなほどに唇を震わせる。
人間は恐怖と痛みで歯が揺れるのか、
ガチガチ――と、上下の歯を打ち鳴らす。
そして耳元に小さく痛い、と泣き声が届いた。
気付くと、私の頬には深い笑みが浮かんでいた。
とても、
快感だったのだ。
この人間を犯すことが快感だった。
しばらく、
人間のすすり泣く声だけが部屋に響く。
人間と繋がっている秘所から、
蕩ける様な熱く甘い感覚が私の五感を支配する。
「……ァ……ッ、………!」
人間が小さく鳴いた。
欲情を煽る、
熱い吐息だった。
呪いの壺のせいだろう、
人間の身体は果実の様に甘く熟れていた。
欲に任せて乱暴に貪ってやりたかったが、
泣きながらしおらしく動かないでと訴える人間を思い、その欲を抑えた。
だが痛いといっている割に、
呪われた人間の身体は私の肌に吸い付いてくる。
触れ合う肌の感触が気持ちよいのか、
人間は次第に淫らに息を漏らし、
私の身体に自身の怒張を何度も擦り付けて来た。
呪いが欲を追い求めるのだろうか、
人間はだんだんと動きを速め始める。
「ゃぁ……うごかな……ぃで、って、いってる、のに」
「動いているのは私でない、貴様の方だ」
言われて、
やっと気が付いたのか、
人間は羞恥で顔を真っ赤に染めていた。
「――……ぁぁ……、ぅ………ッ!」
それでも呪いで浮かされた身体は自制できないのだろう、
私の腹に自身を擦り続け小さく痙攣していた。
腹に擦れる人間の屹立が、濃厚な粘膜を垂らしている。
だがそれは淫らな雌の匂いだった。
先走った粘膜の糸が私の肌と擦れ、
ジュクジュク――、
鳴き始めた。
音は人間の耳にまで届くのだろう。
人間が獣の様に屹立を擦りつけてくる度に、
音は次第に増していく。
粘度の濃い粘膜が交じり合い、量を増し、
音を大きくさせているのだろう。
私は人間の痴態を心地よく観察した。
雌の様に、雄である私を求め、
欲に負け、無様に性を貪る姿が壮観だったのだ。
人間が腰を蠢かす度に挿入の角度も変わる。
気持ちよい角度があるのだろうか、
人間は私の雄を一定の角度で咥え込むと、
腰で円を描き擦りつけ始めていた。
「……ッ!!」
腹に温かい感触。
人間は白濁を吐き出していた。
それは人間が私の身体で性を貪り、絶頂を迎えたという事だ。
悔しいが。私の腿の上で淫らに酔い、
吐精した人間を可愛く思えてしまう。
それほどに今の人間は庇護欲と嗜虐の欲を同時に誘う。
汗に濡れた人間の肌が照明に反射し、
私を誘う。
射精し、
少し落ち着いたであろう人間を宥めるため、
私は頭を撫でてやる。
「淫魔の壺の呪いを解くには時間をかけて、
淫らな夜を過ごさなければならない。
今のお前は呪いでとても敏感になっている、違うか?」
私の問いに、
人間は素直に頷いた。
その目蓋から滴が零れ、顔を崩し泣き濡れている。
普段生意気なその顔とは正反対な従順な人間。
私は益々興奮してしまう。
「そして雄としての私の身体を欲し、
発情期の雌猫の様にお前は良いにおいを放っている。
今のお前はとても魅力的で」
理性が壊れてしまいそうだ、と。
そう笑うと、人間が震えた。
「こんな、の、嫌だ――」
グズグズ鼻を鳴らしながら、
人間は拒絶した。
私に抱かれるのが嫌なのだろう。
「では止めるか?
まだ呪いは解けていない、貴様はその熱に浮かされたまま、
朽ちていくことになるのだぞ」
本当は、
このまま人間を放っておくことなどできるはずがない。
何しろいまの人間の身体はとても甘く、魅力的だ。
この誘惑から逃れられるほど、
私の理性は強くない。
死んでも良いのか?
そう聞くと、
人間は首を横に振った。
「ではお前の口から言ってみろ、
私は天使でも神でもない、悪魔なのだ。
お前を助けてやる義理などないのだからな」
それでも人間は言えないのだろうか、
代わりに人間は私の顔に近づき、
まるで犬の様に私の顔を舐め始めた。
淫魔に呪われた人間の身体には、
私の肌の感触すらも美味なのだろうか、
人間は恍惚な表情を浮かべて舐め続けている。
まるで甘えられているようだ、と。
私は欲を刺激される。
この人間がまさか私に甘え性を求めるようになるなど、
考えたこともなかった。
そんなに美味しいかと揶揄すると、
人間は小さく頷く。
味を訊ねると、小さく甘いと口を動かしていた。
その愛らしい人間の仕草に、
私は欲を刺激されその唇に噛み付く。
「……ぅ………、ッ……」
人間の口腔はいままで味わったことのないほどの美味。
私は更なる欲求を満たそうとその誘うような舌を探す。
舌を絡めると、
人間が小さく息を吐く。
その息は言葉では説明できないほどの快楽を私に与えた。
飴玉を転がすように、
その粘膜を舌で弄ぶ。
人間もキスの味がとても敏感になっているのか、
震えるように全身を揺すりながら、
そして再び射精していた。
半身の筋肉を定期的に震わせ、
臀部が締まる。
人間の射精にあわせ、秘所が蠢く。
快楽から、半開きになっている人間の口。
唾液が糸を引き、
人間が絶頂の興奮に欲情している様を証明する。
私は夢中になってその舌を味わい続けた。
普段罵詈雑言ばかりなこの舌。
その生意気な舌が私の舌に這いながら、
快感に打ち震え甘い息を漏らし続けているのだと思うと、
私の欲情は増すばかりだ。
もっと欲を満たそうと、
人間の身体を抱き寄せる。
触れる肌の熱さが、快楽を倍増させる。
我慢できず、
私は腰を蠢かせた。
「やぁ…………ッ、ぅぅ……――ッ!!」
突くたびに、
芳醇な香りが鼻を刺激する。
人間から零れ出る香りだ。
人間の口を犯しながら、
その下で内臓をも貪る。
柔らかな臀部を持ち上げ、
座る私の脛に降ろす。
何度も何度も、
深く深く。
私は人間の身体を味わった。
時間も忘れるほどに繰り返し、
人間を性の玩具として扱う。
尻を持ち上げ結合部が外れかける一瞬、
再び身体を落とすと、その内部の凹凸を深く味わえるのだ。
悪魔の雄で腹を大きく抉られているくせに、
人間の穴は貪欲にオスを貪っている。
性器と繋がった人間の排出器官。
だがその器官も、もはや性器と同じだ。
感じすぎて、
人間の理性はもう完全に飛んでいるのだろう。
久々の他者との楽しい行為に、
私の欲は尽きぬ。
四つん這いに這わせ、
背後から再び、
――抉る。
「――ッ!」
快感にシーツを擦る人間の腕、
その筋の凹凸が妙に艶かしい。
微かにくねらせる腰、
その括れの沿って伸びる背の筋。
その腰の括れは男でも女でも、性に揺れていれば卑猥だ。
腰に手を当て、
深く抉るため身体ごと怒張を押し込む。
背後から覆いかぶさり、
――抉る。
「――ぁ!! ……ぅ、ん……ぁぁぁ――ッ!!!」
背の汗が少し冷たい。
私も欲で身体が火照っているのだろう。
獣の様に覆いかぶさり性を、欲を満たす。
私も獣の様にこの人間の肉欲に飢えていた。
「……っ」
そう自覚すると、
息が漏れてしまった。
もう呪いのことなどどうでも良かった。
あの生意気な人間が従順に私に従い、
乱れ、喘ぎ、女の様に痙攣し続ける様が、
欲を刺激していたのだ。
人間の身体は想像以上に具合が良かった。
良い声で鳴き、
雄の欲情を誘う泣き顔で喘ぐ。
普段生意気であれば、
普段悪態をたれていればいるほどに、
雌のように私に犯され、理性を忘れ乱れる人間の姿は、卑猥で愛しい。
これもこの役立たずな人間の微かな取り得だろう、と、
私は哂った。
一晩中人間を好き勝手犯し、
人間の呪いもその頃にはとけていた。


【3】欲情を煽る欲


人間が目を覚ましたのは三日過ぎた時。
それまで人間はまるで死んだように眠っていた。
その愛らしい寝顔を何度も愛で、
抱き寄せ、愛撫した。
寝ながら人間は私の愛撫に応え、喘いでいた。
眠る人間を犯した時もあった。
眠りながらも私に貫かれ、喘ぎ達していた人間。
まるでこの人間が、性のために作られた人形に思えるほど、
この卑猥な身体は具合が良い。
呪いが解けた今も尚、
その身体は熟れ、甘い匂いを発している。
眠る身体にじっくりと雄を教え込んだからだろう、
今の人間はもはや雄を覚えてしまっている。
目が覚めたとしても、
雄を骨身にまで知ってしまった人間の身体は、
もはや雄の愛撫を甘んじて受け入れてしまうはずだ。
男を知らなかった身体を躾けるのは、
正直快感だった。
私の身体に抱きつき、
離そうとしない人間。
無意識に、いや意識が無いからこそ虚栄心が抜け、
身体が私を強く求めるのだろう。
悪魔とのセックスは人間に至上の至福を与えると言われているのだから、
当然かもしれない。
呪いはもう完全に解けている。
けれど私は人間にそれを教えたりはしない。
しばらくその愛らしい肌の感触を楽しんでいると、
人間がうめき声をあげ起き始めた。
初め、
ここがどこか理解できていないようだったが、
私の顔を見るとその頬を赤く染め、
そして次第に青く染める。
いままでの記憶が蘇っているのだろう。
嫌っている私に抱かれ喘ぎ狂った自身に、
青褪めているのだろうが。
その反応は実に私を楽しませる。
「もう、大丈夫なんだよな?」
人間が不安そうに私に尋ねた。
私は目を逸らし、
呟く。
「まだだ、少しは呪いも治まったが、
完全に呪いが解けたわけではない」
私は悪魔だ。
嘘をついた所で神の罰があたるわけでもない。
「うそ! なんでだよ!
あんな痛くて――恥ずかしい思いをしたんだぞ!」
「だからあれほどあの壺だけは割るなと忠告しただろうが」
ため息をつき、
私は人間の頭を撫でてやる。
「そんなこといったって、
もうやだからな! 俺、もうあんな痛いの嫌だからな!」
触れられた肌が熱く感じているのだろう、
人間は撫でる手を慌てて払った。
その熱は、私を覚えこませた人間の身体が、
私を欲しているせいだろう。
「ふむ、まあお前がそれを望むのならば良いだろう。
私だって好きでお前を抱いてやったわけじゃない、
死にたければ勝手に死ねばよい。
後で泣きついてきても、もう抱いてやらんぞ」
人間を冷たく見捨て、シーツの外へと放り出す。
私の嘘を見破り呪いの恐怖に打ち勝てれば、
人間はここから出て行ってしまうだろうが、
この小心者の人間にその勇気も知恵も無いだろう。
「待てよ、もしまだ呪いがとけてないとしたら、
俺ってどうなっちゃうんだよ」
「私の知ったことか。
ほらもう痛いのは嫌なのだろう、
早く私の寝室から出て行け」
「まって、まてってば!
俺死ぬのはいやなんだからな!」
再びベッドに潜り込んできた人間。
ベッドから人間を追い出そうと、
人間の身体を押す。
人間は必死に私に摑まり、
ベッドの中に留まっていた。
見捨てられるのが怖いのだろう。
「では、私に礼を言うべきではないのか?
私はしたくもないのに貴様を助けるために貴様を抱いてやったのだ」
「はぁ!ヤダよ、なんでアンタに礼なんかしないといけないんだよ」
いつまでも意地を張り続ける人間。
その反抗的な態度も、
今となっては可愛らしく思える。
その生意気な面をねじ伏せ、
辱めてやりたくなる。
従順すぎる相手を辱めるよりも、
反抗的な犬をねじ伏せる方が遥かに愉快だ。
「好きにすればよい。
だが私は助けてやったのに礼も言わない人間を、
また助けようとは思わないからな」
「畜生、足元みやがって後でみてろよ!」
そういいながら立ち上がろうとした人間だが、
また再びシーツへと沈む。
腰が立たなかったのだろう。
昨夜も眠る身体を思う存分に味わったのだ、
そうなるのも当然だろう。
「大丈夫か?」
そう手を差し伸べたとき、
人間の頬が赤く染まった。
半身を抱き上げベッドに戻してやると、
人間の身体からとても芳醇な香りが漂う。
雄を欲する体が欲情したのだろう。
眠る身体に愛撫を施し、
雄をじっくりと教え込んだのだ。
私の香りに欲情したとしても、
当然だ。
「あれ、なんか身体が変なんだ。
――、もしかして呪いが再発したのか!?」
「……そのようだな」
無論呪いはもう完全に解けている、
そんな事もないのだが。
せっかく面白くなってきたのだ、
私はそれを教えてやるつもりはない。
「どうしよう、どんどん熱くなってくる」
私に必死に掴まり、
人間は震えながら呟いた。
恐怖で、人間の目も震えていた。
来い、と。
一言囁き、人間を抱き寄せた。
人間は恐ろしさのあまり泣き始めてしまった。
なるほど、
なかなか愛らしいものだ。
どうしていままで気が付かなかったのだろうか、
この人間の隠れた才能を。
一ヶ月間もこの果実を見逃していたと思うと、
ずいぶん損をしていたものだ。
深く口付けをして人間を慰める。
その口腔は呪いが解けた今も、甘い。
口の中の柔らかく甘い舌。
だが人間の理性がそれを拒んでいた。
逃げる粘膜を追い、
抵抗する腕を掴み、シーツに人間を押さえ込む。
息を乱し、
涙を溜めた人間の大きな瞳が私を睨んだ。
「最後の問いだ、
呪いを解いて欲しいのなら詫びて、ひれ伏せ」
人間は屈辱に震えながらも、
呪いによる死が恐ろしいのか、細い声でごめんなさいと呟いた。
征服欲を満たされた私は猛った。
呪いの恐ろしさに観念したのか人間は従順だった。
昨夜の名残で赤く膨れ上がった人間の二つの突起、
情事の記憶を呼び起こし私は自身を抑えられなかった。
人間をシーツに縫い付けたまま、
その桃色の突起に噛み付く。
「……、―――っ!」
人間の身体がシーツの上で跳ね、
衣擦れの音を小刻みに奏でる。
突起に舌を這わせ、
全体を天に向うように舐めあげる。
「ん、ん――、やだ!」
「私に抱かれるのは嫌か?」
人間は首を横に振った。
それは嘘だろう。
身体はこんなにも私を欲している。
眠る身体に雄を教え込んだ時の記憶が蘇り、
私はほくそ笑んでしまう。
「女の様に乱れるのが嫌なのか?」
その問いに、人間は小さく頷く。
笑みが、自然と表情を支配する。
愛らしい。
可愛く思えるのだ。
甘い息を吐き、
私の下で乱れる人間。
その下肢はすでにそそり立ち、
存在を主張している。
切なそうに震えるその屹立、
腰が蠢き、私へと擦りつけ始めた。
そのはしたない様は自身でも気付いているのだろう、
人間の狼狽が私の欲を更にそそる。
女よりも淫らだ、
と言葉で人間を嬲る。
人間は鼻を鳴らして泣き始める。
けれど身体の底から湧き上がる欲に逆らえないのか、
人間は押さえつけられた身体を揺らし、踊るように乱れていた。
屹立には触れず、
その柔らかな袋を揉みしだくと、人間が息を吐いた。
気持ちよいのか、私の肩に顔を埋め、震えている。
人間の髪が私の頬を刺し、その感触に私は苦笑する。
抱きつく人間を降ろし、
仰向けで息を乱す人間の脚を開かせた。
足の裏を掴み、開帳する。
無防備に下肢を晒す人間。
以前にはこんな様を想像しても気色が悪いだけだったが今は違う。
左足を掴み上げ人間の肩まで押し付け、
開いた股に右手を滑らせる。
指を伸ばし、親指で秘所を解しながら空いた指で敏感な皮膚を刺激する。
人間の秘所は私の親指を飲み込み、
淫らに収縮を始めた。
穴は狭く、きつい。
この場所に昨夜私の膨張を迎え入れていたと思うと、
ますます欲は膨らんでいく。
親指を付け根まで差込、掻き回し、その独特な感触を楽しむ。
湿り気を帯びた秘所を弄ぶ事は、
想像以上に気分を昂らせる。
指に吸い付いてくる柔らかな肌。
女の尻とは違う感触もまた一興。
人間は何度も吐息を吐き、
目を細めて喘いだ。
そのあまりの可愛らしさに、
私は益々秘所を捏ね回した。
内側を嬲られるたびに跳ねる身体。
ますます昂らせる屹立。
甘い香り。
屹立した先端から蜜が零れ、
人間自身の腹を汚し、満たす。
穴の内部の突起を強く刺激してやる、
するとその刺激に反応し、屹立からの蜜は粘度を増し、
糸を吐く。
私は夢中になって人間への前戯を楽しんだ。
掴んだままの左足は快楽に震えその先を丸め、
苺よりも遥かに鮮やかなに実っている。
その愛らしい足先に噛み付き、
頬に含んだ。
人間の足先には性感帯があるのだ。
軽く牙を立て、舌でその切っ先を嬲る。
舌で押し込み、爪の付け根に牙を立て甘噛みする。
刺激により、更に丸めようとする親指の先に舌を絡め、
嬲り続けた。
人間の身体は敏感になっているのだろう。
人間が何度も大きく身体を跳ねさせ、
自身の腹を汚していた。
この人間は性の経験が浅いのか、
その反応は女よりも初心だ。
だがその心はともかく、
身体はすでに私の手で雌の悦びを施されている。
それでも構わず、
私は赤く実った足先を嬲り続ける。
人間にとって悪魔とのセックスは計り知れないほどの快感を与える。
それは男であるこの人間とて、
同じこと。
全身に痺れが走るのか、
人間は小さく暴れる。
だがその表情は恍惚に溺れていた。
何度も何度もその切っ先でシーツを擦る人間の右足。
今度はそちらを可愛がってやろうと、私は秘所を嬲る指を引き抜いた。
「ぁ――、……ァ、ッ―――……っ!」
そして、
右足を抱え、待ち侘びていた私の怒張で人間を貫く。
あの狭く小さかった穴が、私の昂りに合わせ膨らみ、
ヒクリヒクリ――、
絡み付いている。
その滑らかで湿った穴の中は温かく、
心地よい。
容赦せずに奥まで貫き、
その滑りを愉しむ。
腹を押し上げるように突き上げ、
引き抜き。
そして再び、入り口を切っ先で擦り上げる。
「おなか、へんだ……あつぃ、あつくてしにそう」
「それは貴様が感じているせいだろうな。
私に犯されて感じているのだ、分かるか?」
「ヤメロ……、って、おれ、男なんかにかんじたくない!」
「感じなければ呪いは解けんぞ?
死にたくなければ女の様に乱れ、私に身を任せることだ」
人間が唇を噛み、震えている。
やはり寝ている間に性を仕込んでおいて良かった。
人間は私に身体を揺すられ犯されるだけで、
絶頂に近いほどの快楽に悶えている。
悔しいのだろうか、
だがその悔しがる顔さえも愛らしい。
弱者が打ち震える姿は嗜虐心をそそる。
悪魔本来の残酷な心が、もっと苛めてやりたくなるのだろう。
犯しながら右足を掴み上げ、
その丸めた可愛い足先を口に含む。
もっと狂わせてやろうと、
人間がどうしても乱れてしまうツボを強く噛んだ。
人間の体内が、蠢いた。
「それ、ヤダァ……!」
存在を主張し続けていた屹立を軽く扱いてやると、
もはや人間は限界だったのか、再び吐精した。
白い白濁は数度目の射精だというのに、色濃く、
人間がよほど感じ入っているのか物語る。
ますます収縮を始める人間の体内。
私は思わず息を吐いた。
「……ッ」
最奥まで怒張を押し付け、
私もその温かい腹の中に吐精する。
けれど私の嗜虐心はまだ満たされない。
射精の余韻で口を痙攣させ続けている人間の屹立。
その切っ先の穴を、苛めてやりたくなった。
もっと辱めてやろう。
「呪いを解くためだ我慢しろよ」
そう耳元で慰め、
私は指を鳴らす。
「今からお前の膀胱に入り込んでいる邪気を払う。
コイツでお前の陰茎の中を洗うが、耐えるんだ。
いいな?」
呼び出したのは棒状の樹脂の塊。
この樹脂は私の意志で動き、
どんな隙間にでも入り込ませることが出来る。
「そ、そんなの入らねえぇよ……っ!」
「そんなに嫌なら止めるが、
呪いで膀胱から腐っていっても知らんぞ」
脅してやると、
人間は大声を上げて泣き始めてしまった。
しかしこれ位もいい薬だ。
込み上げる好奇心を隠しつつ、
至って冷静を装い、
人間の勃起に樹脂を埋め込み始める。
人間は足先までを緊張に震わせ、
息を吐く。
一つ、二つ。
人間の尿道の中に入り込んでいった樹脂は、その管の奥に奥にと入り込み、尿の溜まる器官まで進入する。
人間は自分の怒張に深々と飲み込まれていく樹脂に、怯えていた。
そろそろ頃合だろうか。
私は込み上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。
埋め込んだ樹脂は私の魔力で好きなように操作できる。
尿道の奥深くまで差し込んだ樹脂を躍らせてやれば、
どうなってしまうか。
「洗浄を開始するぞ」
「ぁぁぁ、ぁぁぁあああ! ん、んぅう――!!!」
人間が獣の様に叫び、
身体を躍らせた。
目は虚ろに震え、身体は私に救いを求めるように抱きついてくる。
「やぁ――、あぅぅ、ああ。おしっこもれ、るもれちゃぁ!」
全身を痙攣させ、
人間が悲鳴に近い喘ぎを上げ続ける。
尿道を直接刺激され、果てしない快楽と尿意に襲われているのだろう。
けれど尿道は完全に樹脂で塞がれており、その願いは決して達せられない。
樹脂に凹凸を作らせ、
さらに内部を嬲らせる。
凹凸を操作し、中を自由に駆け巡らせると、
樹脂を咥え込まされた人間の屹立が哀れなほどに揺れ始める。
「……っ! こわれ――ぅぅる、ぉわれちゃぅ!」
膀胱を押さえ、
全身を痙攣させ続ける人間。
だがその勃起はますます猛っている。
もっと楽しい事をしてやろう。
女の潮吹きの様に男にも潮吹きは存在する、
私は試してやりたくなった。
揺れる勃起の先端と亀頭を親指の腹で包み込み、
先端だけを何度も何度も擦り上げ刺激し続ける。
「――ッぃぐ! ――ッ……ゥグ!!!!!!」
新たに与えられた刺激に勃起は震え、
人間の喉から嗚咽交じりの悲鳴が飛ぶ。
規則的に何度も何度も素早く亀頭を擦り続け、
先端の感覚が摩擦によりなくなっても尚、刺激し続けた。
「――ッ!!!!!!!!」
明らかに、
人間の身体が異変を起こした。
潮を吹き始めたのだろう。
――だが、
その潮を吹くための尿道は完全に蓋をされている。
勢いよく噴出されるはずだった水分は、管の中で暴走しているだろう。
人間が嗚咽にならない嗚咽を上げ痙攣し続けても、
私は人間の雄の一部分だけを刺激し続けた。
おしっこ、おしっこと言いたいのだろう、
だが凄まじい衝動の波に人間の唇は満足に動いていない。
人間は泣き続ける。
雄の潮吹きは射精の感覚と類似しているらしい、
人間は激しい尿意と終わらない絶頂に、
もはや狂ってしまっているのではないかと、そう思う。
私の快楽は満たされていく。
弱者を甚振る楽しさに、
私は酔っていた。
尿を排出しようと下腹が何度も蠢くたび、
犯したままの穴は淫らに締め付ける。
内腿が狂ったように筋肉を収縮させ続け、
痙攣にあわせ足の先は揺れ動く。
哀れに排尿の動作だけを繰り返し、
樹脂に弄ばれる人間の様は最高だった。
口を開けっ放しで震え続ける身体を抱き寄せ、
人間を深く犯す。
人間の分際で主人である私を散々困らせてきたのだ、
その失態を取り戻すためにももっと楽しませてもらわなくてはならない。
無防備に泣きながら私に縋る姿には、さすがに少し憐憫の情も湧くが、それ以上に私を支配しているのは性欲だ。
人間をますます狂わせてやりたくなった。
私の下で狂わせてやりたいのだ。
悪魔として暮らしてきて、一番の欲求だ。
この樹脂を抜き差ししてしまったら、
人間はどんな反応をするだろう。
憐憫よりも、私は好奇心に負けた。
樹脂に指示を出し、
その狭い穴を犯させた。
「―――ッ!!!!!!」
想像を絶する感覚なのか、
人間は私に強く抱きつき、異常なほどに身体を痙攣させ続ける。
人間が何度も濡れた声で小さく息を吐き続ける。
壊れかけた玩具の様に、
不規則に身体を痙攣させる人間。
尿道を樹脂に犯され、涙のような粘膜を噴出し続ける人間の勃起。
その管を擦られることで益々尿意は増すのか、
人間はもはや失神寸前だった。
そろそろ許してやるか、と。
私は人間の中に飛沫を放つ。
いまだ樹脂はその穴を犯し続けたままだが、
樹脂を抜いてしまったら私の寝室で漏らされてしまう。
人間を抱き上げ、
屋敷の外へと運ぶ。
運ぶ途中も樹脂に犯され続ける人間は、
泣きながら私にしがみ付いている。
「ほら、樹脂を抜いてやる。
排尿を済ませるが良い」
樹の幹に用を足させようと両膝を抱え、
股を開かせる。
しかし人間は首を横に振り、
排尿を拒んだ。
「どうした?」
「……みないで、あっち――いけっ――……って」
あれほど乱れていたくせに、まだ羞恥心が残っていたのか、
人間はグジュグジュに泣き腫らした鼻声で訴えた。
私に排尿を見られたくないのだろう。
だが、
その羞恥心は私の欲望をそそるだけだ。
この樹脂の管を引き抜くだけで、
人間は強制的に排尿してしまうのだから。
「やだ……! ぁだ! あっ…ぃ、いけってば!」
舌足らずの声で抗議し続ける。
その甘く吐かれた息に誘われ、
その舌を齧る。
膝を抱え上げ、
一気に樹脂を引き抜いてやった。
「――ッ! ――――!!!!」
私の唇の中に飲まれていく人間の嗚咽。
私に舌を噛まれながら、
人間は勢いよく排尿しはじめた。
樹の幹に打ち注がれる尿が反響し、
静かな庭園に響き渡る。
唇を離し、
その震えるうなじを齧る。
齧るたびにその背は震え、敏感に反応する。
緊張で引き攣った首の筋を舐め上げると、
人間の怒張もまた痙攣しながら尿を排出する。
その情けない音が人間の心を抉るのだろうか、
人間は血がにじむほどに唇を噛み始めた。
まるで犬の世話をしているようだ、と。
人間の耳を齧り、揶揄する。
長い排尿が終わり、
辺りには再び沈黙が生まれる。
聞こえるのは、
すすり泣く嗚咽と、
滴る尿。
しばらく、人間は私に抱きつき嗚咽を上げ続けた。
私はその頭を優しく撫で、
よく耐えたと褒める。
あの生意気な人間の泣きながら縋りつく様が、
愛しく愛らしい。
もっと狂わせたい、
もっと私の印を刻んでやりたい。
私の心が確信した欲情、
この人間は私の所有物だ。
独占欲、あるいは他の何か、か。
ともあれ私の中でこの人間という存在に対し、
執着心が生まれているのは確かだ。
二度とこの屋敷から出したりはしない、
心が哂っていた。





【4】歪んだ支配と夢と檻



結局足腰の動かなくなってしまった人間を抱え、
私の作った料理で晩餐を迎える。
今日は人間が好きな馳走ばかりを用意した。
「一生懸命働くんじゃなかったのか?」
「……うるせえな!
仕方ないだろ、動けないんだから」
先ほどまでの情事の羞恥が消えないのか、
人間は目を逸らしながら吠えた。
私に抱きかかえられながら運ばれるのが不服なのか、
人間は私から目を逸らしている。
その顔は泣き濡れたせいか少し腫れ、
普段より何倍も幼く見える。
「騒ぐな、お前の遠吠えは頭に響く」
そう窘めると、人間は大人しく引き下がった。
人間の前に次々と料理を並べる。
「なんだ、今日はやけに豪勢だな!」
「貴様の最後の晩餐かもしれないからな、
食事ぐらいは好きなものを出してやったのだ」
憐憫の情を滲ませ、再び視線を逸らし、
私は呟いた。
「――ッ、どういう事だよ」
「言葉通りの意味だ。
お前にかかっている呪いは根強い、私の体液と魔力でなんとか生き永らえているが、
いつ再び死が襲ってくるか、私にも検討がつかない」
「なぁ、助けてくれるんだよな?」
私の嘘に、
人間は怯える。
「安心しろ、
不本意ながら私はお前の呪いを解くと契約をしてしまった。
お前が望む以上呪いを解くよう動かなくてはならない」
そう伝えながら、
私は人間の前まで歩む。
椅子に座る人間の前で屈み、
顔を掴む。
「これから毎日、
呪いを和らげるために食事の前に私の体液をお前の舌に染み込ませる」
「私の舌にお前の舌を這わせ、
その唾液を咀嚼すれば良い」
「ヤダよ!なんで男のアンタの舌なんか吸わなきゃいけないんだ!」
人間が顔を青くして吠えた。
その拒絶が私を楽しませる。
嫌がる相手を屈服させる、
その駆け引きが私を猛らすのだ。
「嫌ならば別に構わん。
だが今のお前は呪いで食感を失っている。
目の前の馳走もおそらく味を失っているはずだ」
言われて、
人間は目の前のプクリと太った鶏の腿を齧る。
香ばしい匂いが弾け、
肉汁が滴る。
だが、
「嘘……だろ」
人間は食卓に広がる馳走を食べてみては味の無い味を感じているのだろう。
無論、
淫魔の壺の呪いで食感がなくなることなどない、
人間の顔を掴んだときに一時的に舌の感覚を奪ったのだ。
「こうすれば一時的に直るはずだ」
人間の顎を掴み、
その甘い舌に私の舌を這わせる。
唾液を注ぎ、
嫌がる人間に咀嚼させた。
たっぷりとその感触を味わい、
人間を解放する。
人間は肩で息をし、吐息を吐いていた。
試してみろと、目で促す。
人間はおずおずと鶏を手にし、
一口。
目を輝かせる。
「どうだ、味が戻ったであろう?」
人間は悔しそうに頷いた。
「なんでアンタの……唾で、直るんだよ」
「淫魔の呪いの力を私の体液で中和したからだ、
悪魔の体液は魔力の塊のようなものだからな」
しばらく食事を続け、
人間は私の方を見つめた。
「どうした?」
「味が、また無くなっちまった」
泣きそうな顔で、
人間が私を見つめる。
この人間は食事が大好きなのだ、
その食事の味が薄れていくことが悲しいのだろう。
人間が私の唇を見つめる。
唾を飲み込む音が、
私にまで届いた。
自分から望むことが出来ないのだろう。
再び舌を絡ませてやると味が戻り始めたのか、
人間は私の舌を追いかけ始めた。
夢中になって私の舌にしゃぶりつく人間。
失った味が蘇り、恍惚状態なのだろう。
男を嫌う人間が、
馳走を味わうために嫌々ながらも私の舌を求め、
そして恍惚に堕ちていく姿。
夢中に私の舌を貪り、
そして不意に、男である私の舌にしゃぶり付く自身の痴態が思い浮かび、我に返るのか。
人間は羞恥で顔を染める。
普段の罵詈雑言はなりを潜め、
大人しく、しかし嫌々ながらに私の舌を求める。
その差異が私の欲を大いに満たす。
このまま押し倒し、
欲に任せて喰らってやりたかった。
犯しながら、生きたままその腹を貪ってやりたい。
愛らしいこの人間を、
いっそ喰ってしまいたかったのだ。
それは悪魔として当然の欲だった。
私は欲に囚われていた。
だが、
喰ってしまったらもう、その潤んだ身体を味わうことが出来ぬ。
せめてその舌の味だけで、今は我慢しよう。
もし人間が私から逃げ出そうとしたならば、
その時には容赦なく喰らってやるのだ。



人間が眠ったのを確認し、
私はその夢の中に入り込む。
夢の中に入り込むのは本来夢魔の技であるが、
要領さえ掴めば私にも可能だ。
夢の世界は曖昧としていて、広大な迷路だ。
人間を探し出すまでにはしばしの時間がかかった。
そして人間の姿を確認すると、
私はため息を吐く。
人間が私に土下座をさせている夢なのだ。
主人である私によくもまあこんな事をできるものだ。
私は指を鳴らし、
夢の世界を操る。
人間の近しい存在。
人間の記憶を探り、そして具現化させる。
父と兄で良いだろう。
これから起こるショーを想像すると、
私の欲はそそられ、胸が高鳴る。
「あれ、オヤジに兄貴。久しぶりだな!
どうだこの悪魔を見てくれよ俺の召使なんだぜ!」
「――……」
もう一度指を鳴らし、
夢の中の私を消し去る。
そして人間に首輪を嵌め、四つん這いに這わせる。
父と兄の幻影に意思を持たせて完成だ。
父が人間の顔を掴み、
その怒張を顔に押し当てる。
「なにすんだよ!」
「黙れこのメス犬が!」
「何言ってんだよ!テメェ自分の息子の顔も忘れたのか!」
父が人間の顔を叩き、
床にねじ伏せる。
顔を踏まれながら首輪を引かれ、
首を絞められた人間が呻く。
「下郎が何の冗談だ、
お前は奴隷市場で売られていたメス犬ではないか。
ワタシの息子は、ホレお前の後ろにいるそやつただ一人だ」
「きっと狂ってしまったんですね。このメス犬は」
床に伏せられ雌の様に腰を突き上げさせらている人間を、
欲を孕んだ声で罵倒し、兄が尻を掴んだ。
ベルトの止め具を解す金属の音。
兄は下肢の前を寛がせ、
もう十分に猛っている雄を人間の秘所に押し当てる。
「――ッ、ヤメロ! 何考えてんだよ、やめろったら!」
何をされるのか察したのか、
人間が悲鳴を上げた。
「ホラ、犬は黙って腰振ってろ、よ!」
「……――ッ!!!!!!!」
兄が人間の腰を掴み、
一気に犯した。
これはレイプだ。
なかなか良い眺めだ。
かつて人間の夢を操作して遊ぶ事が流行っていたことがあった、
私はそれをくだらない遊びだと嘲笑していたのだが。
気に入った人間を夢の中で自由に辱めると言うのは、
実に面白い。
兄に犯され、
人間は萎えていた。
血縁に犯され穢されるその心はどのようなモノなのか、
想像しただけで悪魔としての欲が滾る。
無論、ここは夢の中だ。
実際に親類に犯されているわけではないが、
今夢の中にいる人間にとって、ここは現実だ。
父が人間の頬を叩き、
その髪を掴み上げた。
「教えただろうメス犬。
人間様に犯してもらっている時はクゥクゥ啼くんだ」
「っざけんなよ!」
逆らう人間を揶揄するように、
兄が大きく腰を打ち付けた。
艶かしい水音。
腰を打ち付けられるたびに泡が弾ける音が響く。
「――ッ!」
「ワンコ、今日は随分反抗的だな」
獣の様に背後から犯される人間。
兄の屹立に添えられた草叢が、
人間の臀部に生々しく刺さっている。
雄に犯されている、
その草叢は人間にそんな感覚をより強く与えるのだろう。
その顔は屈辱に満ちている。
悪夢ならば覚めて欲しい、
そう思っているのだろうか。
けれどもはやこの夢は私の支配下にある、
私が許さない限り、
この夢の終わりはない。
この遊びは想像以上に楽しいかもしれない。
萎えたまま人間の陰茎。
兄に犯され腰が揺れるたびに切なく縮み、揺れていた。
それでも腹の内にある精子を乱暴に突き上げられるせいだろうか、
その哀れに縮んだ性器の先から粘膜が零れ出ている。
萎えた性器から伸びた粘膜の糸が、
木造の床に螺旋を描く。
透明な液が、
淫らに床を彩り、淫猥な眺めだ。
愛され家族として育んできた時間が長ければ長いほど、
その兄に犯されるこの悪夢は人間にとって残酷なものだろう。
私の嗜虐心は大いに満たされる。
「前の口がお留守だぞ、サボってないでちゃんと働け!
貴様のようなメス犬にいくら金をかけたと思ってるんだ!」
父が怯える人間の顔を掴み、
その口に怒張を突きこむ。
実の父の陰茎を無理やり頬張らされている人間。
その瞳には涙が浮かび始めていた。
あの生意気な口一杯に、
父親の醜い欲の塊が咥えさせられているのだ。
父が人間の顎を掴み、
欲を貪り始める。
「―ッ!!!! ―――ッ…ッ!!!!!!!」
声なき哀れな悲鳴。
喉の奥まで怒張で犯される度に、
人間の喉からかすかに空気が漏れる。
喉を突かれ、圧迫された空気が口の端から零れるのだろう。
その口からは零れる空気と共に、
滑りを帯びた父の先走りの粘膜も共に伝っていた。
「舌を使えと教えただろうが!
この役立たずが!」
首輪を引き、首を絞め始める父。
言われて人間が苦しさのあまり命令に従い、
舌を使い始めたようだ。
舌を使い始めたことで首の圧迫は弱められ、
人間は嗚咽を漏らしながら実の父の陰茎をしゃぶらされていた。
もはやその心はボロボロだろう。
獣の様に性の奉仕を要求する身内に、
人間は屈服していた。
這わされ、
父と兄の欲望を咥え込まされている人間。
人間の絶望が、私の欲を更に刺激する。
これは最高の美味だった。
この愛しい人間が汚されれば穢されるほどに、
私は満たされる。
まったく、今まで何と勿体無い時を過ごしていたのだろう。
この人間がここまで愛らしく、可愛い事に気付かなかった私は、
悪魔として失格だったのだろう。
それほどに今の人間は魅力的だ。
次第に、聞こえ漏れてくる吐息。
人間が、
兄に犯され感じ始めてきたのだ。
「なんだメス犬?
メスのクセに勃起させやがって」
「父さん仕方ないですよ、
メス犬だから犯されて勃起しているんでしょうから、
――ね!」
兄が言葉と共に何度も何度も腰を強く打ち付ける。
その度に人間の身体は跳ね、
肌と肌がぶつかり合い景気よく音を奏でる。
その勃起からは今度は太い粘膜が伸び、
床に小さな泉を作る。
ビジャビジャ、透き通った粘膜。
腰が揺れるたびに、
勃起が揺れ。
腿は跳ね返った勃起のせいで朝露を這わせている。
陰茎から零れ出る淫らな露を纏う腿。
これが夢の中でなかったならば、
そのまま齧りついてやりたかった。
人間の瞳が虚ろになっていく。
兄に犯され、
父に犯され。
心が折れてしまったのだろうか。
おそらく、勃起してしまったことがその精神を苦しめているのだろう。
「……、そろそろ射精するから……な。
ありがたくっ、飲み込めよ」
兄が人間の腰を強く引き寄せ、
身体を小さく震わせた。
武者震いと共に、
波々と注がれる実の兄の子種。
ふと、
私に悪戯心が起こる。
どうせ夢の中なのだ、
もっと陵辱してやっても良いか。
指を鳴らし、
夢を操作する。
次第に膨らんでいく人間の腹。
射精に合わせ、見る見るうちに膨らむ。
実の兄の子種が人間を孕ませたのだ。
「――ぁだ! うそだ……ッ、うそだうそだうそだ!!!」
現実にこの様な事は起こらない、
夢の中だからこそできる辱め。
大きく膨らんだ腹など見向きもせずに、
今度は父が人間を犯し始めた。
人間は暴れた。
死に物狂いで暴れていた。
実の兄に孕まされ、
そして実の父に孕まされたら、と。
人としての魂が必死で拒絶するのだろう。
助けて……――ッ、
と人間が嗚咽を上げ、名を叫んだ。
「……――」
私は指を鳴らし、
その夢を解除する。
心が死んでしまったら面白くない。
私は抵抗し、恥辱に満ちたその顔が好きなのだ。
人間の夢から抜け出し、
人間の寝室に姿を移す。
人間の瞳に、うっすらと涙が浮かんでいる。
少し、やり過ぎてしまったか。
しかし私は悪魔なのだ、
この程度で情けをかけてしまう自身の性格に、私は苦笑した。
仲間の悪魔ににいつも揶揄されるのだ、
お前は手緩いと。
兄にもっと悪魔としての気性を磨けと注意された事もあった、
そんな昔の事を思い出しても仕方ないか。
私は私なのだ。
他の悪魔のやり方にあわせるつもりも、
あわさせるつもりもない。
興が冷めた。
今日は私も寝よう。
寝室に戻り、
シーツに身体を滑らせる。
思い浮かぶのはあの淫らな痴態。
そして助けを求めて叫んだ名は、
私の名だった。
思わず、
顔が熱くなっていた。
欲情しているのだと認めたくはなかったが、
身体を擦るシーツの冷たさが、火照る肌を照明していた。
人間を起こし、
性を貪ってやろうか。
アレは私の所有物だ。
私が雄を教え、
雌としての快楽を教え込んだ、私だけの雌だ。
そう思うが、わざわざ起こすのはやはり可哀想か。
しばらく、悶々として夜を過ごしていたときだ。
「なあ、ちょっといいか?」
ドアをノックすることもせず入ってくる人間。
「主人の部屋に入るときはノックぐらいしろと教えただろ」
身体を起こし、
人間の方を振り返る。
「どうした、そんな顔をして」
その顔は哀れなほどに蒼白としている。
「怖い夢見たんだ、もしかしてこれも呪いのせいなのか!」
「そうだろうな、淫魔の呪いは夢の中にも影響を与えるはず」
人間が顔を崩し、
泣きはじめてしまった。
「どんな夢を見たのだ、言ってみろ」
「言えるわけねえよ! ……ッ、あんな夢!」
吠えた人間が、私を睨んだ。
「大事な事なのだ、
その夢の内容で呪いがどれくらい残っているのか少しは参考になるからな」
「兄貴とオヤジに……」
鼻を鳴らし、グズつく人間。
慰めるように頭を撫で、
その先を促す。
小さな声で、
――レイプされた。
と、人間が震えながら応えた。
「どうしよう! 俺寝るの怖いよ!
もしまたあんな夢見ちまったら、オレ……ッ!」
震え続ける身体。
本当に怖かったのだろう。
我ながら残酷な事をしたものだ。
悪魔としての私が、
心の中でほくそ笑む。
「それほどに心配なら方法が無いわけではないが――」
「本当か!」
「だが、おそらくお前は嫌がると思うぞ」
「あんな……夢――、見るよりかはマシだ、
なあ、方法があるなら教えてくれよ」
しばし考え、
私は人間の目をまっすぐに見つめ応えてやる。
「淫魔は人間の口から入り込み夢を操作する、
だから淫魔が入り込むよりも先に、
私の体液をお前の口から受け入れれば、
一種の結界となり淫魔の進入を防げるはずだ」
無論、嘘なのだが、
悪魔の私にそれを恥じる道徳心など必要ない。
意味が分からないのか、
人間は眉を顰める。
「つまり、食事のときみたいに、
アンタの唾液を飲み込めばいいのか?」
「いや、唾液では淫魔の進入は防げない、
唾液よりもより強い力を持つ体液でなければ」
人間はしばらく考え、
「アンタの生き血?」
「違う、精液だ」
人間は顔を赤くしたと思うと、
今度は青くした。
「ヤダ……って」
「だからお前は嫌がるだろうといっただろ。
それに私とて貴様のような生意気な人間に、
只で施してやる精液は無い」
「待てよ! そんな怖い顔すんなって!」
機嫌を損ねた私に気が付いたのか、
人間は慌てて私に縋りつく。
私はそれほど怖い顔をしていたのだろうか、
自覚は無かったが、人間に拒否され腹を立てたのは確かであった。
悪魔である私に、
そんな感情など生まれるはずが無い。
「私はもう寝るぞ、ほら、早く出て行け」
人間をベッドから追い出そうと、
押しのけ、再びシーツに潜り込む。
「怒るなよ、嫌じゃないからさ」
「……ならば、願え」
「お願いします」
仕方ないな、と。
私は再び身を起こす。
「早く出してくれよ」
そう急かす人間。
「……私に自慰をしろと言うのか?」
「だって、そうしないと精液でないだろ?」
「そんな気分ではない、望むのならばお前が起たせるのだな」
「はぁ!? 嫌だよ、そんなの!」
「そうは言うがお前、
お前の呪いを解くために、
私は汚らわしいお前を何度も抱いてやっているのだぞ」
「だからって、だって――!」
しばらく、
人間と私の沈黙は続く。
私は折れるつもりはなかった。
「もう良い、興も削げた。
出ないものは出ない、仕方ないだろう。
一人で悪夢に怯え眠っていろ、
私はもう寝るぞ、早く部屋から出て行くがいい」
「ヤダよ!待て待ってッてば!
オレあんな夢、もう見たくない!」
震えながら、
人間が私に抱きついた。
やるから、
と人間が小さな声で呟く。
「そこまで言うのならば仕方ない、
ただし、私は何もしないからな」
「分かってるよ、
絶対見るなよ」
そう言い、
何か思いついたのか人間は私の顔に何かを当てる。
それは布だった。
布で私の目を覆い、
視界をなくす。
これで見えないだろ!
と人間が勝ち誇ったような声を上げていた。
愚かな人間だ。
悪魔である私がこんな布で視界を遮られることは無い。
この程度の布など簡単に透視できる。
無論、それを教えてやる義理は無い。
人間が私の下肢をずらし、
陰茎を手に取る。
ぎこちない仕草で私を揉み込み、
起たせようとし始めたのだろう。
だがその未熟な技巧で、
私が猛る事は無い。
「不能なのか…、アンタ」
何分か格闘した後、
人間が悔しそうに呟いた。
「口に咥えてみろ」
言われるままに、
人間は口に咥えた。
そして息を漏らす。
悪魔の陰茎は人間にとって美味なのだ、
それをこの人間は知らなかったのだろう。
透視した視界に、
人間の恍惚とした表情が映る。
だらしなく涎を垂らし、
私の陰茎を舐め上げ始める人間。
その味に酔いしれているのか、
人間の瞳は潤み、頬は赤く染まり、
吐息は艶かしく響く。
ビュプリ、ピチャピチュジュクリ――と、
人間が私を貪り頬張る音が私を猛らせ始める。
猛り、膨らむ陰茎の大きさに、
人間は喉を鳴らしていた。
頬一杯に広がる怒張。
零れる唾液、
恍惚としたその蕩けた表情。
人間は私が見えていないと思って油断しているのだろう。
その表情は欲に溺れていた。
先端から零れる粘膜は、
人間にとって更なる美味と快楽を与える。
必死に先端を舐め上げ味わう人間。
快楽に我慢ができなくなったのか、
人間は自身の下肢もずらし、自分自身を扱き始めた。
見えていないからと、
大胆になっているのだろう。
私はつい笑みを浮かべてしまう。
自慰をしながら、
私の陰茎を貪り、しゃぶりつく人間の姿が楽しかったのだ。
なんとも可愛らしい、私の所有物。
人間の夢の中からずっと我慢をしていたのだ、
私も限界だった。
「出すぞ」
と人間に教え、その顎を掴んだ。
人間の口内に吐精する。
勢い良く弾けた飛沫が、
人間の口を一杯に満たす。
一滴残らずそれを飲み干した人間。
悪魔の精液は人間にとって美酒よりも勝る味らしい、
そしてそれは度の強い酒と同じ。
一度その味を知ってしまったら、
人間程度の意志力では簡単に酔ってしまうだろう。
人間は何度も何度も私の陰茎をむしゃぶり、
その先端を名残惜しそうに舐め取っていた。
どれくらいの時間がたっただろう。
人間はいまだに私の陰茎に喰らいついている。
母の乳房に縋る赤子のように、
人間は惚けたように私に顔を埋めたままなのだ。
「もういい加減離したらどうなのだ?」
そう言われ、やっと理性を取り戻したのか、
人間は慌てて私から離れた。
目隠しを外し、
人間を抱き寄せる。
人間は私の精液の熱さに酔い、朦朧としていた。
もはや酩酊状態なのだろう。
酔ったその姿も、
愛らしい。
このまま人間の理性を殺してしまおうか。
意識を殺し、
ただ赤子の様に私に縋る存在に変えてしまおうか。
そう思ってしまうほどに、
今の人間の表情は愛しい。
だがやはり、
心が死んでしまったら面白くないだろう。
「悪夢が怖いのだろう、
さあここで眠るが良い。
私と共に寝ればその悪夢もすぐに追い払うこともできよう」
人間が頷き、
私の側に寄って来る。
シーツに誘い、その火照った身体を抱き寄せる。
人間は身体を丸め、私の胸へと顔を押し付けた。
守るように人間を強く抱きしめ、
頭を撫でる。
人間が温かいと呟いた。
私も温かかった。





【5】打ち上げられた魚




今宵は満月。
身体は滾り、
悪魔としての本能が冴える。
もちろん、
この様な素晴らしい日には、人間に対する悪戯は欠かせないだろう。
「大変だ! 大変なんだよ!」
掃除を行っていた人間が何やら慌ててやってきたのは、
私が目を覚まして少し経ってから。
呪いが効いてきたのだろう。
「主人の部屋に入るときはノックをしろと教えているだろう」
湧き上がる欲情を抑え、私は人間に注意する。
私の注意など何処吹く風、人間は私の横たわるベッドに身を乗り出す。
「おかしいんだよ、息がだんだんできなくなってきたんだって!」
本当に慌てているのだろう、
人間は顔面を蒼白とさせ私に助けを求めている。
私が新たに呪いをかけたとは知らず私に縋りつく様は、
愚かだが愛らしい。
「ふむ、満月の影響で淫魔の呪いが強力になっているのだろう。
このままではそのうち呼吸は止まってしまうかもな」
「呼吸が止まるって、
俺息できなくなったら死んじゃうじゃねえか!」
「耳元で怒鳴るな、鬱陶しい。
だいたい貴様があの壺を割ったのが全ての始まりではないか」
「ぅ、今更そんなこと言っても仕方ないだろ」
睨む私に、
人間は口を尖らせた。
「俺を助けるって契約したんだから、
ちゃんとなんとかしてもらうからな!」
強がってはいるものの、人間の声は震えていた。
本当は恐怖から私に抱きつきたいのだろうが、
人間の見栄がそれを許さないようだ。
もっと怯え、私に縋らせたい、
そう思うのは私の欲だろう。
思えば久しく感じたことのないこの高揚と滾り。
私は自身で思っている以上に人間に対し、欲が生まれているのだろうか。
「満月の夜に増大する淫魔の呪いを中和する方法か、
あるにはあるがアレは中々疲れてしまうからな」
面倒だ、と。
縋り付いて来る人間を引き離し欠伸する。
「テメェ! 疲れるから、なんて理由で俺を見捨てる気かよ」
「そうは言うが、
悪魔の私が人間如き下等生物のためにどれほど力を使ってやったと思っている?
私のような心の広い悪魔でなかったら貴様、
とっくに喰われているか皮を剥ぎ取られ、なめし革にされ売買されている所だぞ」
「――ッ、なめし革って、冗談は止めろよ」
人間が声を引き攣らせ身体を退ける。
その怯えを、私は味わう。
ふと考え、
「そうか、私も少しはお前の事を気に入っている。
いっその事全身を剥いでなめし、新しい靴として新調し一生側に置いてやっても良いか」
満月で高揚した瞳が、
人間の怯えた顔を映す。
満月は私の悪魔としての本能を大いに刺激し続けるのだ。
人間の顔を掴み、爪を立て、
「冗談、だよな?」
「ああ、冗談だ」
相当恐ろしかったのだろうか、
人間はしばらく震えたままだった。
しかし、
私が本気ではないと知ると急に顔を赤くし怒り始めた。
「趣味の悪い冗談いってんじゃねえ!」
「冗談だが、本来ならそうされても文句の言えない立場なのだと理解しておけ」
壁まで逃げていた人間の首根っこを捕まえ、
その下肢を剥ぎ始める。
「おい、冗談だったんだろ」
なめし革にされてしまう事を怯えてか、
人間はまた震え始めた。
少し脅かしすぎたか。
しかしその怯えた様は魅力的だ。
「淫魔の呪いを中和するのだろう。
嫌ならば中止するが」
「そっちか、
俺てっきりなめされるのかと思って」
それほどに私が本気で言っていたと思ったのか。
もしかしたら私の中のどこかで、
それもまた愛しい人間を一生側における一つの方法なのだと、
そう本音が零れていたのかもしれない。
「お前が望むのなら、
私の肌着として一生愛してやっても良いぞ?」
「目が怖いって、アンタ。
そんな事は忘れて早く俺の呼吸を楽にしてくれよ!
なんかもっと息がし辛くなってきたんだって」
人間が拒否すればするほどに、
欲は増していくが、仕方がない。
先に呪いを中和することにしよう。
背後から抱きかかえ、肌を晒している秘所に指を伸ばし、
中を解す。
「呪いの中和は普段の通りセックスによって中和できる、
交わっている間はお前の呼吸も楽に出来るだろう、
ただ――」
「ただ、……んだよ?」
耳元で説明しながら、湿った穴の中を指で掻き回す。
毎日、悪魔である私の屹立を受け入れている愛らしい穴。
人間よりも一回りも大きな悪魔の陰茎に犯されている穴だったが、
そこはだらしなく伸びきってなどいない。
むしろ、いまだ狭く処女の様にしとやかだ。
けれどその心は違う。
人間は私の指を咥え込まされているだけで息を乱している。
それは苦痛の息ではなく、甘い女の喘ぎだ。
それを認めたくないのだろう、
人間は必死に声を堪えている。
「今宵は満月、
月が沈むまでずっと繋がったままに生活をする必要があるのだ。
今宵の間、交わっていれば良い。ただそれだけだ」
「交わっている必要って、
ようするに食事のときもトイレの時も、
今晩は何するにもアンタに犯されながらしなきゃならないってこと、かよ?」
「だから疲れると言っただろう。
あまりくだらない事を言って私を萎えさせるなよ、
きちんと呼吸がしたければな」
「――ッ……ん……」
そう宣言し、
人間の身体を背後から抱え、すでに猛っていた屹立を挿入する。
膝を抱き上げるようにかかえ、
私に背をもたれ掛ける体勢にしてやると、
人間が息を呑み眉を顰める。
けれど呼吸が楽になったのか、
安堵の息を漏らした。
「呼吸は楽になっただろう?」
「ぉ、おう……」
息が出来るようになり、
人間は落ち着いてきたようだ。
しかし落ち着いてきた事が問題だったようだ。
普段ならば人間を快楽の海に溺れさせ、理性も奪ってしまうのだが今日は違う。
今日は繋がっているにも関わらず、強い快楽を与える事はない、
そのせいで人間には強い理性が残っているだろう。
その理性がこの状況に困惑しているに違いない。
人間の瞳は定まらずキョロキョロしながら、
私の腕の中で静かにしている。
今日一日はずっとこのままなのだ。
人間がどのような反応をするか楽しみだった。
「この体制だが、辛くはないか?」
「ん、だいじょうぶ」
その声は緊張に震えていた。
普段とはまったく違った状況での行為に、人間は戸惑っていた。
狼狽していた。
その震えを、私は味わう。
少し体勢をずらす。
すると挿入の角度が変わり、人間の喉から甘い息が零れかかる。
「すまん」
「っ、だいじょうぶだから!」
挿入の角度が変わったことにより、
人間の体内を腹側に圧迫しはじめる。
少しずつ、少しずつ。
人間の自重が挿入の角度を変え、
その内部を押しこむ。
そこは人間が大好きな壺。
人間の目が微かに細まる。
「――ん……」
飲み込む唾液の音が私に届き、
その粘膜が喉に落ちる音を楽しむ。
感じているのだろう。
だが、性を楽しむ行為とはまったく違うこの行為に、感じてしまう自身を恥じ、
それを認めたくないのだろう。
「お前は可愛いな」
そう囁くと、
人間の内部が蠢いた。
「バ、バカ野郎! なんだよ急に!」
上を振り返り、私を睨む人間。
その顔は怒りと羞恥と快感で、赤く色づいている。
「私は思ったことを素直に言っただけだ」
「……――ッバッカ!」
真顔で答えると、
人間の内部はますます蠢き、私をきつく締め始める。
可愛いと言われ感じてしまうのか、
人間の肌は熱く熟れ、実り始める。
「なんだお前、可愛いと言われると女の様に感じるのか?」
「う、るさいッ!」
「可愛いお前を愛してしまいそうになりそうだ」
私は面白くなり、
耳元を齧り、囁いてやる。
「―――ッ!!!!!!!」
内部が強く締まったと思うと、
シーツに向かい、
ポタパタパタ――と、
人間が吐精してしまった。
人間は言葉に反応し射精してしまった。
息を乱し、震え、
人間はイってしまったのだ。
零れたばかりの精子は、生々しくシーツを濡らしている。
人間が感じ入った証拠。
人間が私で感じた証拠なのだ。
あまりの可愛らしさに、
私はその唇を奪った。
逃げる舌を執拗に追いかけ、舐る。
まだ精子の残っている屹立を何度も扱き上げ、
最後の一滴まで搾り取った。
急速に性を刺激してしまったせいか、絶頂を終えた人間の身体からは力が抜け、
私の腕の中に身体を沈めた。
息を乱し、しかし断続的に息を飲み込み落ち着こうとしているが、
その飲み込みきれなかった唾液が、口の端から零れ落ちている。
淫猥、
その言葉が似つかわしいか。
汗で濡れた肌が私の衣服に張り付く、絹越しに触れるその滑らかさ。
「そんなに可愛くしていると本当に愛してしまうぞ」
「――ッ」
そう囁くと、
人間の内部が微かに蠢く。
愛などとは、考えたことも無かった。
悪魔の私が人間を愛してしまうなどありえないからだ。
だが言葉にしてみるとそれは私の願望のようにさえ思える。
汗で額に張り付いている前髪を指でなぞり、
人間が落ち着くのを待った。
本当は、もう人間の理性も戻っている。
私はそう確信していた。
けれど人間は、羞恥に囚われ何を言ったらいいか、
どう行動を起こしたら良いのか、きっかけが掴めないのだろう。
人間の狼狽を楽しみ、私は静かにその髪を撫で続ける。
いつ人間が発言するか。
いつ人間が行動するか。
それが楽しみだった。
夜はまだまだ長い。
しばらくして、
先に動いたのは私だった。
悪戯をしたくなってしまったのだ。
戯れにその胸の突起をなぞり、
可愛がる。
もうずっと欲を抑えていたのか、その尖った突起を軽く揉み扱いただけで、
人間は艶かしい吐息を吐いていた。
「んだよ、急に――ッ、ヤメろって……――ッ!」
口では拒否しているものの、
その潤んだ顔は私の愛撫を欲しているとすぐ分かる。
その証拠に結合部は甘く弾け、女の様に愛液を漏らし始める。
人間の腸の内部が刺激を求めその粘膜を剥がし、内部を湿らせ潤すのだ。
それはこの人間が私の女になった証。
雄を求め蠢き始める内部。
胸の突起を軽く抓り、指の腹で捏ねる。
より尖ったのを確認し、人間の口の端から零れでる唾液で指を湿らせ、
再びその紅色を愛撫。
「良いではないか、退屈だったのだろう?」
何度も丹念に突起を捏ね、猛ったところを爪で弾く。
尖りきり、赤く腫れ上がった所を再び指の腹で捏ねまわす。
その度に突起はプクリと膨らみ、
淫らに濡れている。
「いてぇ……って、もぉ……はなせ!」
暴れた人間が体勢を崩し、
床に落ちかける。
その拍子に結合が解け、
人間の内部から私の雄が外れてしまう。
「――――ッ――――!!!」
完全に息が出来ないのか、
人間が慌てて私にすがり付いてきた。
「馬鹿者、呪いの事を忘れたのか!」
すぐに抱き上げ、
今度は向かい合うような体位で挿入してやる。
私の腿を跨ぎ怒張の上に座る人間。
深々と刺さった屹立はその甘さに震えていた。
「……ァ、ンタが悪い、だろ……ッ!」
挿入したことで息が自由にできるようになったのか、
人間は性急に呼吸をしている。
体勢を変えたことで、
挿入の角度は大きく変わる。
私の目の前には散々に育てた二つの紅色が実っており、
その誘惑に私は負けた。
人間の背に腕を回し、
肩を掴み抱き寄せる。
自然と私の眼前にその愛らしい二つの突起は姿を現し、
濡れた突起は私の愛撫を欲しているように思えた。
牙を立て噛み付き、舌先で嬲る。
「やだ……ったら!オレ、おんなじゃねえんだから!
そんなとこ、やだっ……て!」
言葉を無視し、
私は執拗にその突起を愛でる。
堪えるように人間が私の頭を掴み、髪を押さえ込んでいた。
腫れあがった乳首は微かな刺激でも反応してしまうのか、
ほんの少し舐め上げただけでも敏感に身体が跳ねる。
繋がったままの臀部では、
その刺激に合わせ筋肉が締まり、私をきつく締め付ける。
優しく何度も何度も突起を舐め上げ、
その度に跳ねる身体を楽しんだ。
人間の猛った雄からは粘膜が零れ始め、
私の腹までも湿らせている。
その粘膜の糸の熱さもまた快感だった。
規則的なリズムを作り舐め続け、
戯れにリズムを崩し牙で齧り上げる。
その度に人間の感度は増していく。
何度も擦り上げられている突起は真っ赤に染まり、
哀れなほどに尖っている。
左右どちらも丹念に愛撫し続けるのだが、
不思議と飽きは来ない。
むしろ欲はますます膨らんでいくばかりだ。
限界まで赤く染まりあがった乳首を優しく舐めることで、
人間は泣きながら快感に息を吐く。
「っひぐ……ぅぐ――ぇぐ、っく……ッ」
嗚咽が零れ始め、
人間の限界を悟る。
そろそろ許してやるか、と。
私はその甘い粒から口を離した。
愛らしく嗚咽を上げる人間の唇を無理やりに奪い、
深く深くキスをする。
その柔らかな唇を犯し、唾液を注ぎ込む。
しっかりと唾液を咀嚼したのを確認し、
顔を離した。
しばらく落ち着こうとするのだが、
人間は性を我慢できなくなってしまったようだ。
潤んだ瞳で私を欲するように見つめていた。
欲情を孕んだその瞳。
濡れ揺れる眼球は雄のくせに私を煽る。
開いた口から零れる唾液。
呼吸をする度に垂れる粘膜の糸。
猛らせ私に擦り続ける人間の屹立。
「もっと私が欲しいのか?」
「ちが……ぅ……ッ!」
否定しようとする言葉を察し、
怒張で揺さぶり遮った。
内壁も雌の様に熟れ上がり、熱い。
柔らかい腸壁は私の雄を甘んじて受け入れ続ける。
私が一から雄を教え込んだこの身体。
そして生意気なこの心。
全てが私を煽る。
腫れて膨れた乳首を再び指で弾く。
「ぁ、ぅぅ……ッ、……ぁだ……って!」
私の指から逃げようと身体を反らす人間。
けれど結合が解けてしまえば息ができぬ。
人間が私の愛撫から逃れることは、
絶対に出来ないのだ。











【6】躾




毎日が夢の様だった。
私は人間と過ごす淫らな日々を愉しんでいた。
そんなある日、事件は突然訪れる。
珍しく屋敷に人が訪ねてきたのだ。
来訪者は私の兄。
隣の国に用事があり、ついでに訪ねてきたのだという。
私は焦っていた。
悪魔である私が人間を囲っている事を知られてしまったらまずい。
それに私はこの人間と契約をしてしまっている。
人間如きと契約している事は家の恥じだと、
最悪、その場で兄に人間を食べられてしまうかもしれない。
兄は家名にうるさい男なのだ。
料理の腕を揮う名目で、
調理場に人間と共に駆け込む。
無論、
人間の存在は私の結界で隠しながらの移動だ。
正直、
兄に気付かれないかと冷や汗を流しながら移動だった。
幸い、
兄には人間の存在は気付かれていないはず。
私は人間に事情を説明し、
人間を調理場の戸棚に隠す。
「良いか、兄が帰る明日まで絶対にここから出てはならんぞ」
「なんで俺が隠れなきゃなんないんだよ?」
「だから説明しただろう、
本来悪魔である私が、人間を囲っているなど許されることではないのだ。
まして、下賎な人間の呪いを解くために契約したなど知られてしまったら……。
兄は私よりも人を喰う事を好む、
出てきて喰われても知らんぞ」
お前は美味そうだからな、と。
私はその指を軽く齧り、舐めた。
初め見たときはなんとも不味そうに思えたこの人間だが、
いまはその肌も皮膚も肉も骨も、
全てが美味しそうに思える。
「……分かった、絶対にでないから安心しろ」
怯えた人間に私は安心した。
いつもは言いつけを守らぬ人間だが、
今度ばかりは約束を守るだろう。
喰われる恐怖はどの生き物にも共通するのだから。
「――ん……ぅ、……ッ」
最後にその震える唇を奪い舌を吸う。
人間の怯えごとその味を味わい、
戸棚を閉じた。
私は急ぎ調理を済まし、
兄の待つ食卓に戻る。
持参していた書類から目を逸らし、
兄が私を捉える。
「急にすまないな、
本来ならば使い魔にでも、今日訪ねると知らせを遣わす所だったのだが、
不意にお前を思い出したものでな」
元気にしていたか、
と兄は無表情のまま呟いた。
「はい、兄上こそお元気でしたか」
敬語を使うのも何十年ぶりだろう。
兄は私が頭を下げる必要のある数少ない者の一人だ。
正直、億劫である。
兄は昔から苦手であった。
調理場から響く音。
「………」
人間が何かをやらかしたのだろう。
結界から絶対に出るなとあれほど言っておいたのに。
「人間の匂いがするな」
「兄上の勘違いではありませんか?」
冷や汗が、
背を伝う。
衣服に肌が纏わりつく感触。
これほど緊張したのは幾年ぶりだろう。
刹那、
兄の身体が霧となり立ち消え、人間の悲鳴が屋敷に響いた。
「これは今宵のメインディッシュかな」
「離せよ!この悪魔!」
人間を羽交い絞めにし、
兄は珍しく笑みを浮かべていた。
人間の指には鶏の骨が摑まれている。
食欲に負けたのだろう。
「兄上、人間を離してください、
ソレは私の所有物です」
「コレから強いお前の力を感じる、
お前この人間と何度も契ったのだな?」
「はなせって――ッ!!」
人間の身体が宙に浮き、
その首に兄の指が食い込んでいた。
人間が抵抗する度に兄は面白がり、
力を強める。
「ぅ………ぐぅぅ………!!
―――………。
――、……」
人間の抵抗が止み、
力が抜けていった。
「兄上!手をお放しください!」
「私に逆らうというのか?」
このままでは人間が殺されてしまう。
そう思うと血が滾った。
人間は私の所有物なのだ。
思わず、
身体が動いていた。
銀の剣を具現化し、人間を掴み上げる兄の腕に向かい放つ。
「コレはワタシのモノだ!
たとえアニとて容赦はせんゾ!!!!」
剣を避けた兄が私を睨んだ。
兄の腕から零れ落ちた人間を受け止め、
私は兄を威嚇する。
悪魔の遺伝子が私を唸らせる。
生えた翼で人間を包み、邪視は兄を捉える。
人間からイビルアイと恐れられる悪魔の瞳。
これは警告だった。
私の人間を殺そうとするならば、
兄は敵だ。
私から人間を離そうとするならば、
殺す。
しばらくし、
兄は大きな声を上げて笑い始めた。
「安心したぞ、お前の事を平和に溺れ、
腑抜けていたと思っていたがどうやら取り越し苦労だったようだな」
それほどの気迫があれば合格だ、と。
兄は実に楽しそうに笑っている。
「……――」
そこで初めて試されたのだと悟った。
兄は初めから私が人間を隠していたのだと、
知っていたのだろう。
銀を作り出した指が痛み始めた。
「悪魔のお前が銀など触るからだ、
まして銀を作り出すなど――。
それほどにこの人間が大事か?」
爛れた私の指に兄が触れ、
傷をなぞる。
その指を払い、
私は兄を再び睨んだ。
「兄上、申し訳ないが今宵はもうお帰りください」
「そう怒るな、
久々にお前の本気を見れて楽しかったぞ」
兄が霧となって消えようとしたその時、
人間が目を覚まし、呟いた。
「あれ、あのクサレ悪魔は帰ったのか?」
「……――」
何故、あと十秒、
いや五秒が待てなかったのだろうか。
霧となって消えかけていた兄が再び姿を現す。
その頬には笑みが浮かんでいた。
それにも気が付かず、
人間は続ける。
「クソ、思いっきり首絞めやがって、
今度会ったら十字架責めのニンニク責めの塩責めしてやるからな!」
「人間よ、
悪魔の我らに十字架はまあともかく、
ニンニクも塩も効きはしないぞ?」
遅かったか。
兄が再び霧から生まれ出る。
私は深くため息をついた。
人間が兄の声に固まる。
哀れなほどに恐怖に引き攣ったその顔。
「お前がこの生意気な人間をどのように囲おうが自由だ、
だが、少し躾が足りないようだな。
どうだろう、私に彼の躾をさせてはくれないか?」
私のほうを振り向き、
兄が無表情のままに呟く。
「……絶対に殺さないでくださいよ」
分かっているよ、と兄が哂った。
「え、なんだよ。アンタまだ帰ってなかったのか?」
人間が愛想笑いを浮かべ、
兄から目を逸らした。
「じょ、冗談だぜ?」
その声はこの異様な空気を誤魔化そうと努力していたが、
怯えを孕んでおり、悪魔である兄の嗜虐欲を刺激するだろう。
「喜べ弟に甘やかされている人間よ、
貴様に悪魔の私が厳しく躾をしてやる。
私は弟ほど甘くは無い、覚悟するが良い」
「イヤだって、触るな!
おい、見てないで助けてくれよ!」
私の方を見て慌てて救いを求める人間。
だがもう遅い。
私は深くため息をついた。
人間の怯えは兄の欲を大いに刺激してしまった、
兄も人間を弄ぶまで引き下がらないだろう。
兄はそういう性格だった。
それに兄は、
私の気に入るモノにはすぐ悪戯をしたがるのだ。
「そもそもお前が私の言いつけを破り出てきたのが悪い。
少し兄にその性格を直してもらうのだな」
「そんなぁ!」
人間の悲鳴は心地よく響いていた。


「――ぅ……、――……っ」
限界まで脚を開かされ鎖に吊るされている人間。
口にも拘束具を嵌められ、
間接が動かぬように鋼で固定されている四肢。
兄が許しを与えない限り、
この鋼が外れることは無い。
その無様な様は淫猥なオブジェにしか思えない。
股の間には大人ほどの背丈のある蟲が這い、
開かれた秘所に大きな怒張が埋め込まれている。
「ほら今度は蟲の陰茎だ、
しっかり可愛がって貰うのだな」
「――ッ――ゥゥゥン!――……ッ!」
これで四匹目だろうか、
人間は兄の呼び出す異型の怪物に犯され続けている。
初めは狼、次に雄鶏。
更にはトカゲ、そして今度は蟲。
身動き一つ許されないほどに拘束されている人間は、
異型の怪物に犯される度に嗚咽を漏らしていた。
怪物の輪姦に、
人間は怯え、震え続ける。
異種族の雄の子種が腹に植え付けられる度に、
人間は号泣していた。
脚を閉じることも許されず、
悲鳴を上げることも許されず。
ただ怪物の性を満たす器に成り果てた人間。
蟲が大嫌いなこの人間が、
その嫌悪している蟲に犯され続ける様は、
悔しいが素晴らしいほど欲を煽るショーだった。
百足の様に幾重にも胴から飛び出ている節の付いた脚を、人間の身体に絡ませ、
陰茎を孔に滑り込ませている蟲。
その陰茎は人の腕ほどに、
太い。
だがその陰茎は太さに反し柔らかいのか、
人間の秘所からたまに抜け出し垂れる。
雌を求める蟲が再び穴に怒張を押し付け、
今度こそと奥まで穿つ。
「ぅぅ……ッ! ……――ぅぅぐ!!!!」
私だけの穴をよりにもよって異型の魔物に犯され、
少々腹も立つ。
だが、たしかに躾も必要だ。
私は兄の行う躾を見守る。
何度も蟲が交尾の出し入れを繰り返す度に、
人間の濡れた屹立からも蜜が零れてくる。
柔らかいが巨大な蟲の陰茎、
その独特な形状を咥え込まされている人間の穴は、
限界まで広がっている。
大きさだけならば、
この蟲のソレは先ほどまでのトカゲの陰茎よりも上か。
人間はこの異様な交尾に猛らせていた。
兄が、
人間に媚薬を練りこんだのだ。
快楽を与えられていることが幸か不幸か、
それは私には分からなかった。
その猛った先端には拳ほど大きな蜂が集り、
その蜜を零す穴を、筋の足で穿っている。
蜜を集めるのがその蜂の仕事、
穿れば穿るほどに止め処なく溢れ出す粘膜を嬉しそうに集めていた。
兄が何かを思いついたように人間に近づいた。
そして蜂に向かい命令する。
「お前もこの穴に交尾しろ、
本来蜜蜂のお前に交尾する資格はないが特別だ、
お前の陰茎でもっと蜜を穿ってやるのだ」
礼を言いたいのだろうか、
蜂は嬉しそうに兄の周りを飛び回り、
そして再び人間の屹立に集った。
「―――ぅぅ!!!!! ……―――ッ、ゥゥ――ック!!!!」
蜂が、
雄蜂が人間の尿道に向かい怒張を突き刺す。
小指ほどの大きさがある蜂の陰茎が、
人間の尿道を容赦なく犯す。
雄蜂の性器は尿道の中で暴れる。
蜂の性器の表面に無数に生える突起が、
人間の零す蜜に反射し淫らに光っていた。
先端に集る蜂の足の節。
その感触も人間を刺激しているのだろう。
しっかりと押さえ込んだ蜂の脚節は、
人間の性器に強く食い込んでいた。
その間も腰に張り付いている蟲は人間の後ろを陵辱し続けている。
哀れなほどに痙攣し、
嗚咽を漏らし、薬によって感じ続けている人間。
助けてやりたいという感情よりも、
もっと観察し、味わっていたいのが本音だ。
兄の手腕は絶妙だ。
人間は陵辱に憔悴しながらも、
その理性はいまだ生きている。
前後の穴を蟲に弄ばれ、
人間は痙攣し続ける。
だが、
雄蜂の犯し続けている先端からは濃厚な白濁が溢れ出していた。
終わることのない絶頂と快楽。
人間は再び絶頂を向え、達したのだ。
抜き差しを繰り返す雄蜂の陰茎、
穴の奥に押し込む度に圧迫されたミルクが零れ出る。
蜜を集めることさえも忘れ、
雄蜂は人間の穴で欲を貪っていた。
人間の腹が次第に膨れていく。
後ろを犯す蟲が種付けし始めたのだろう。
柔らかな蟲の陰茎が小刻みに震え、
音を立て腹を子種で満たしていく。
その音は人間にも聞こえているのだろう、
拘束具で塞がれた口から強い息が漏れていた。
結合部から染み出てくる白。
蟲の精子だ。
その量は膨大で、零れ出ているだけの量でも地面に小さな泉を作っていた。
人間の腹がまるで孕んだように膨らんでいる。
だがここは夢の中ではない、
人間が蟲の子を孕むことなどない。
それでも、
この眺めは壮観だ。
「どうだ蟲の子種は、なかなか豪快だろう。
下等な種族同士、相性も良いだろう。
そうだ、私の力でこの蟲の子を宿らせてやろうか?」
兄が人間の口の拘束具を外し、
哂う。
人間は拘束具を外されても言葉を発する気力がないのか、
首を横に振り続けていた。
堪えきれない涎が、
口の端から零れ出ている。
そして小さく、
声を漏らした。
私の名だった。
あの夢の中の様に私に救いを求めていた。
兄は哂って私を見つめた。
兄を退け、
私は蟲に挟まれ犯され続ける人間に近寄る。
私の気配が分かったのか、
人間は声にならない声を上げ、私を呼び続けた。
拘束具を解いてやると、
人間が私にしがみ付いてきた。
その身体は恐怖に震え、怯えと快楽に痙攣している。
それでも二匹による蟲の蹂躙は終わらない。
「やぁ……だっ――、もぉ、むり……ぃ……ッ」
人間が私の腕の中で震え、
身体を蠢かせ、小さく跳ねた。
また絶頂を迎えたようだ。
私の腕を強く摑み、
顔をますます私に埋める。
蟲に奥まで貫かれるたびに、
人間は小さく息を吐き、私に縋る。
私を求めるその様は、
とても愛らしい。
陵辱は終わらない、
背後を犯す蟲が種付けをしながらもなお、
その内壁の味を味わっているようだ。
蟲は人間の様子など構うことなく、
膨れ上がる腹を無慈悲に揺らしている。
中に種付けされた体液が、
人間が揺れるたびに音を立てていた。
腹の中でタプンタプン……と、
子種の泉は揺れている。
その音は人間の耳にまで届き、
心までも犯し、陵辱している。
もう、限界だろう。
「もう良いのではないですか、兄上」
「お前は本当に甘いな」
種付けをし終えた蟲、
蟲が人間から離れていき霧となって消えていく。
兄が元の次元に戻したのだろう。
だが雄蜂はいまだその欲を貪っていた。
良く見ると蜂自身も何度も子種を押し付けていたようで、
人間の陰茎は不自然に膨れていた。
蜂の精子で満たされているからだろう。
いまだ屹立に張り付いている蜂を、
兄が引き剥がした。
小指ほどの雄蜂の陰茎が人間の尿道からズボリと抜け出ようとしている。
蜂の陰茎は交尾の最中に更に成長していたのか、
かなりの長さを誇っていた。
その表面にはやはり蟲特有の無数の突起が目立つ。
この長く、グロテスクな陰茎に尿道が穿られていただと思うと、
喉がなった。
やっと雄蜂の陰茎が完全に抜け、
「ぁ――ッ、ァァ! ……――ッァァァァ!!!!!」
人間の甘さを帯びた悲鳴と共に、
その屹立の切っ先から大量の精子が噴出した。
人間自身が射精した精子と、
雄蜂の埋め込んだ子種が、栓が抜けたことにより勢いよく飛び出したのだろう。
それはさながら失禁の様に長く、
白濁とした放出を絶え間なく繰り返している。
膨らんだ下腹が放出運動にあわせ律動し、
足先はその失禁に近い感覚に震え、切っ先を丸める。
蟲の怒張が抜けた秘所から、
薄い白濁も滲み始めていた。
蠢く菊門から音を立て、
孕んだように膨らんでいた腹は次第に萎む。
コポコポコポ――、
と単調な音を立て抜け出ていく蟲の子種。
その単調な音ですら人間の心を嬲るのか、
人間は震え痙攣し、現実から目を逸らす。
全ての白濁を噴出し、
人間が私に縋りつき泣きじゃくっていた。
よほど怖かったのだろう。
普段の様に虚勢を張ることなく、
私にその身を任せ、泣き付き続ける。
こういう時ばかり人を頼り縋って来る人間の心根に、
ため息をついてしまう。
だが、そのため息は重いものではなかった。



【8】契約



「人間を辱めるというのも、
なかなか面白いモノだな」
しばし考え、
一ヶ月ぐらい貸さないかと提案する兄に、
私は怒声を上げ断った。
『絶対にイヤだから……なッ!』
人間が青褪めた顔で私にしがみ付きながら枯れた声で訴えた。
その瞳は泣き腫らしたせいでプクリと赤く腫れ、
鼻は垂らした鼻水で崩れている。
息を飲み込むたびに鼻が垂れ、私の上着を容赦なく汚す。
それでも構わず、私にしがみつく人間は兄が本当に恐ろしいのだろう。
私から一時も離れまいと必死だった。
まあ蟲や獣に初めて犯され、
しかも輪姦されていたのだから恐怖を抱いても当然か。
理性が戻ってもなお、
私にしがみ付き、頼り、心の安定を保とうとする様はとても愛らしい。
強く抱き寄せてやると安心するのか、
人間も私に強く抱きついてきた。
「たまには私の屋敷にも訪ねて来い、
その人間も歓迎しよう。
そうだ、今度は本当に怪物の子でも孕ませてやろうか?
涙ながらに怪物の子を産卵する姿はさぞ見応えがありそうだからな」
怯える人間を瞳に捕らえ、
兄が哂う。
人間が恐怖を思い出したのだろう、
私の腕の中で痙攣に近いほど身体を揺らしていた。
その顔は蒼白とし、
唇は乾ききっていた。
「兄上、あまりコレを苛めないで下さい。
コレを苛めてよいのは私だけなのですから」
いつまでも人間を狙い続ける兄に、
私は警告の意味を込めて凝視した。
「冗談だ」
そう笑った兄だったが、
その冗談の中にかなり本気が混じっている事に私は苛立った。
苛めると良い声で鳴き、嗜虐心を大いに刺激するこの人間を、
あわよくば自分のコレクションに加えたいのだろう。
この人間は私のモノなのだ。
例え兄といえども、譲ることなどできない。
私の苛立ちが伝わったのか、
兄は苦笑していた。
また来ると言って霧に消えていった兄に、
やっと私は安堵する。
兄が去っても、
人間は私から離れようとしない。
私はその温かい体温を楽しみ、
抱きしめ続ける。
「あの様子だと、兄はまた訪ねて来そうだな」
兄に人間を奪われるなど絶対に許さない。
「守れよ! 絶対に俺を守れよなッ!」
兄が去り、
しばらくした事で人間の気も少し落ち着いたのだろう。
人間は普段の強気を取り戻し始めていた。
しかし同じ悪魔である私にも、
少しは恐怖をして貰いたい所ではある。
「分かっている。
兄にお前を奪われてたまるものか」
兄に人間を奪われないようにする方法はある。
取り急ぎそれを済ませる必要があった。
私は人間を抱きしめながら、
伝える。
「選ばせてやろう人間よ。
私はお前に三つの提案を持っている。
どれもお前を兄から守るための手段だ」
「なんでもするから早くしろ、って!」
私は欲を持っていた。
兄に人間を奪わると思ったその時、
その欲を深く実感していた。
「一つはお前を喰らうこと、
お前を狂うほどに犯しながら、そのハラワタを貪ってやる。
さすれば、
愛しいお前の血肉は私の糧となり永遠に共にいられる。
兄は二度とお前に手を出すことが出来ないだろう」
私は夢想した。
この愛しい人間の味を、感触を。
愛しき者が永遠に私の血肉として在り続ける事、
それは悪魔としての本懐だ。
何か抗議をしようとしている人間を制し、
私は続ける、
「二つはお前を装飾品に変えてしまうこと。
お前の皮をなめし、髪を束ね、歯を磨き、骨を研ぎ。
私の身に纏ってしまいたい。
さすれば愛しいお前の存在は私を飾り、永遠に共にいられる。
兄は二度とお前を穢す事ができないだろう」
私は夢想した。
愛しき人間を着込み、
その愛らしい存在を永遠に大事にするのだ。
魂を加工しネックレスにしてしまおうか。
この人間の魂はきっと美しい宝玉になるだろう。
「――最後は……」
自身の指に牙を立て、
血を取り出す。
有無を言わさず人間の顔を押さえ、
口にその血を流し込み、
飲み込ませた。
「人間よ、私と契約するのだ。
婚儀を行い、私の伴侶となれ。
お前の心を私に分けよ、私と永遠の命を生きつづけるのだ。
正式に婚儀を行ってしまえば兄はお前に手を出すことが出来なくなる。
どんなワガママも許そう、好きなものも与えよう、
さあお前はどれを望む」
血を飲まされた人間がむせ、
私に抗議した。
「なんでそんなとんでもない選択肢しかないんだよ!」
「私が悪魔だからだ、良く知っているだろう?
どうせお前の事だ、
選べないだろうから私が選んでやったぞ」
「はぁ! どういうことだよ!?」
次第に人間の肌に広がっていく契約の証。
私の血が馴染み、
人間に印を押したのだ。
これで私以外の悪魔はこの人間に手を出すことは出来なくなる。
喉元まで紋様を刻んだ人間の肌。
この紋様は私の血が肌の下から透けて見えているせいだ。
「婚儀は完了した――」
その喉を撫で、
私は哂った。
「永遠にお前を愛してやろう、
お前は私の伴侶だ。
神の支配から解き放たれたお前には死も許されない。
お前が滅ぶときは、私が滅した時、
それまで深く愛し合おうではないか」
「何勝手にこんな事してくれちゃったんだよ!
おれ、悪魔の嫁になんかなりたくねえよ!」
「私に愛されるのは不服か?
だがもう諦めるのだな。
兄にお前を奪われそうになり自覚した、
私は所有物を捨てたりはしない。
私は二度とお前を離したりはしない、
もし逃げたりしたら――殺すからな」
全身を震わせ抗議する人間。
私の本気を感じたのか、
人間が小さく狼狽の息を吐いた。
「アンタもしかして、
悪魔のクセに、本当に俺のこと愛しちゃったり、
なんかしちゃったり……、
――してるわけ?」
答える代わりに唇を深く奪った。
これほどまでも他者に心を奪われたことは、
長い命の中で一度もなかった。
人間は微かに抵抗しながらも、
私のキスを受け入れていた。
その震えも抗議も、
次第に甘えになっていく。
「あれ……なんだよこんな時に、
もしかして! また呪いが再発したのかよ…ぉ」
「そのようだな――、
さあ、いつものように呪いを中和してやろう」
人間は勘違いをしていた、
人間が己が心を欲に濡れし猛らせてしまう時、
それを呪いのせいにしてしまうのだ。
本当はただ、
人間が私に欲情しているだけなのだと、
認めたくないのだろう。
だから私も、
その欲情を呪いのせいにしてやる。
呪いのせいにしていれば人間の心も落ち着くのか、
人間は安堵する。
簡単に騙されてしまう人間の浅はかさは、
やはり愛しく、愛らしかった。





焦げた匂いと共に目を覚ますと、
私の腕の中で大人しく寝ていたはずの人間の姿は無い。
覚醒しきれていない意識の中、
身体を伸ばし、焦げた匂いの先を辿る。
廊下と抜け、食卓を抜け。
匂いは続く。
そこには調理場で必死に格闘している人間がいた。
目が合うと、
今日は俺がメシを作ってやると、人間は嬉しそうに私に微笑んだ。
私のために、
料理を作っているのだろうか。
原型を留めていない潰れたトマト、
皿に盛られた目玉が崩れた目玉焼き。
焦げすぎたパンもまったく美味しくなかったが、
胸が苦しく焦がれ、
締め付けられるほどに、
――嬉しかった。









【終】
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