【契約】

「ほぅ、アナル初体験だという話だが、随分と大きなバイブが入るな」
「そりゃあ、俺達で優しく慣らしてあげましたらからね」
朦朧とする意識の中で聞こえたのは、
下卑た男たちの声だった。
尻の奥が熱く焦がれ、
中を蹂躙する猛った固形の硬さに悶えた。
理解ができなかった。
「………っく、ぁぁぁーー!!」
ただ無自覚に零れる自分の声を、
火照った頭が遠くで聞いている。
まるで泥酔のようだったが、
小刻みに走る、体の震えの異常さは、泥酔のソレとは明らかに違う。
全身に走る熱い痙攣は、ただでさえ目覚めたばかりの俺の思考を邪魔する。
「あ………ぁ?………ん!……ぁ……」
「はは、どうやらお目覚めのようだ」
聞き覚えのある声だった。
いつも人を見下したようなこの声は、取引先の社長のモノだ。
「どれ。もっと躍らせてみましょうか」
『ヴィヴィィィィーーーン!ヴィィィィーィンーー!!』
モーター音が頭に響いて、
俺の地面に這わされたままの身体が大きく跳ねた。
「ヒィィァァァァァーー…ッ!……っぐ、ぅふぅ…!!」
中を貫いている大きな物体が傍若無人に暴れ出したのだ。
優しさの欠片もないこの機械は、
俺の悲鳴を無視し続け、継続的な運動を止めはしない。
自然に身悶える身体は自由に動けなかった。
両の手が、黒いロープのようなもので縛られていたからだ。
「あ~あー、いきなり最強にしたら先輩が可哀想ですよ!」
専務を諌める言葉とは裏腹の笑い声。
近づいてくる男。
仄かに香る、薄めのコロン。
俺の意識はカッと覚醒した。
「でも先輩ほんとうに踊ってるみたいにみえますねー!」
俺を蔑む男は、俺の部下だった!
「……ッ…………!!」
「おっと、先輩。やっとちゃんと気付いてくれましたね」
恐怖におびえながら睨みつけた俺に、
部下のこの男は微笑んですらいた。
なんで俺がこんな目にあっているのか、理解できない。
だが、今自分が置かれている状況は理解できた。
「先輩。なんで俺がこんな目に?って思ってるでしょ。理由は簡単すよ。
社長の好みは俺じゃなくてアンタだったんだってさ」
心底面白そうに笑う部下。
それもその筈だった。
この部下を汚い取引に嵌めてやろうとしたのは、他ならぬ俺だったからだ。
悔しさと、屈辱のあまり目線を合わせていられなかった。
俺は罠に陥れようとしていた相手に、逆に陥れられたのだから。
「はっはっは、あんまりこの子を苛めないであげたまえ」
社長もおかしさを隠しきれない様子で笑っていた。
「でもマヌケですよね、先輩も。自分で用意したバイブでヒィヒィ喘がされてるんですよ?」
「っぅ……!」
ことの始まりは、
取引先のこの社長の世間では言えない趣味にあった。
この社長は自分の地位を利用し、
契約を盾に、相手先の若い社員を悪趣味なSMショーに参加させるのが趣味だったのだ。
社長の悪趣味は業界では有名だった。
『契約が欲しければ若手社員を弄ばせろ』
だがこの条件さえ飲めば、どんなに悪い契約条件でも二つ返事でOKが出ることもまた有名だった。
だから俺は、
今度の新卒入社の社員に仕事もできない無能な、顔だけが取り柄のこの部下を雇ったのだ。
この社長の悪趣味の生贄のために。
しかし、いま現実は、
その無能な部下に尻を覗かれ、取引先の社長の前で這いつくばって喘いでいるのは自分なのだ。
俺は自分が新入社員ではないことに、若手社員ではないことに油断をしていたのだ。
まさか自分が、この社長の悪趣味の対象になるとは思ってもみなかったのだ。
「社長さん!俺我慢できなくなっちゃいました!」
無能な部下が鼻息を荒くして社長に問う。
部下のスーツの前は熱く滾っていた。
俺は焦った。
焦った。
焦って、焦って、
………、
だがどんなに焦っても身体は思うように動かなかった。
惨めに這いずって、
少しでも逃げようと蠢くが、
無能だと馬鹿にしていた部下に簡単に取り押さえられた。
部下の興奮が、熱気が、嫌というほど伝わる。
空気が湿っているのだ。
このままではレイプされる!
そう思うと必死で暴れた。
見栄も尊厳もすべて捨てて、暴れた。
「ダメじゃないか君。そんなに暴れちゃ、悪い子だねー。
それとも君の社との契約はどうなってもいいのかい?」
「!」
恐怖に怯える俺とは対照的に、社長はニコニコ笑いながら説いた。
社長は分かっているのだ、
俺がこの契約にかけていた事を。
学歴も業績もキャリアも中途半端な俺が出世するには、
今回の契約がどうしても必要な事を。
惨めだった。
人生の成功者に嬲られる自分が、惨めだった。
抵抗をやめた俺に、部下がのしかかった。
「先輩!会社のためッスヨ、大人しく犯されましょうよ、ね?」
「っく、そ………!」
男の興奮で垂れる汗が、這わされた俺の背中に冷たくささる。
汗でぬれた筋張った手が、俺の腰を押さえつける。
「では存分に犯してやってくれたまえ、私はソレを撮影するのが大好きなんだ」
笑いながら撮影機材を手にする社長。
本格的なセットに苦笑いすら出ないのは、男に犯される恐怖が襲うからだ。
「ああ、そうそうバイブはそのまま中に押し込んでやってくれ。
今の体制のまま押し込めばズッポリ入るはずだよ」
「な!そんあ…の……、はいり…っこ…ない!」
震える唇では、言葉さえまともに発せなかった。
俺の無様な姿に、部下の笑い声が突き刺さる。
「せんぱーい、社長の命令ですよ?仕方ないっしょ」
少しだけ掠れさせた声。
興奮の声。
この異常な事態に、いまだ若いこの部下は興奮しているのだ。
部下の乱暴な指がバイブの柄を握るのが振動の変化で分る。
「…ーっーーぁぁぁーがぁぁ!----っく!」
一瞬だった。
ほんの一瞬であれほど巨大なバイブが、俺の中に全て入り込んだのだ。
「アァァァァ!痛っ……!ヤダ…っ!」
腸の中に完全に入り込んだバイブは、
体内に収まった後もなお俺を蝕んだ。
直腸のくぼみを強引に押しのけ、
ギザのついたバイブの柄が前立腺を熱く押し上げる。
気持ち悪かった。
「じゃあ、俺のも挿入しますね!」
バイブのコードが垂れ、ヒクついているアナルに、
部下がその熱い滾りを押しあてた。
「あ…、ちょっとキツイっすね」
「………っ!ァァ!」
男の、興奮した部下のペニスがバイブをさらに奥へと押し込み、
俺を犯し始めた。
犯されている。
そう自覚すると、ついに涙が零れた。
一度泣いてしまうと、もう後は嗚咽を堪えることなどできなかった。
巨大で、熱く、鋭い部下の怒張が、泣き喚く俺を犯し続けた。
「ん…。っしょ、……。フー、バイブが入ってるの犯すのって結構難しいっすね」
言いながら、部下は悲鳴を上げる俺を何度も突き上げる。
部下がつきあげる度に、バイブは中で暴れまわるのだ。
ソレは、腹の中を、生物がヌメった爪で搔き乱しているのにも等しい。
痛みと、苦痛と、快楽が入り混じり、
俺は喘ぐことしかできない。
「でも、腸の中が揺れて気持ちいいだろう?もっと乱暴に犯してあげなさい」
まるで談笑するかのように、社長は笑った。
「はーい、社長さん。これも契約のためですから、我慢してくださいよ。先輩」
残酷な社長の一声に、部下が喜びながら腰を動かした。
恥辱と痛みで震える俺の腰を大きくつかみ、何度も大きくスイングし腰を振る部下。
部下の尖った亀頭が、
バイブのコードを引き込み、腸内のヌメリを愉しむ部下自身のペニスと共にバイブをもピストンさせる。
この無能な部下に犯される現実。
生贄のはずだった男に、逆に生贄にされ犯されている恐怖。
たしかに快楽を感じている部下は、俺の痛みなどお構いなしだった。
「や!あ!……ぁだ!ぃ……たぃ!」
「うるさいッスねー、先輩。先輩ももっと腰振ってくださいよ!」
「腰を振りあげたまえ、君。
君が自ら腰を高くあげて、部下のペニスを貪るところが撮影したいんだよ」
「あ・・・・・」
言いながら社長が俺のペニスを軽く扱いた。
アナルの奥深くを犯されながら、性器を直接扱かれ、
俺は思わず声を上げてしまう。
痛みの中のわずかな快感が、社長の淫猥な指で引き起こされる。
「ほら、こうやって彼を喜ばせてあげなさい。そうすれば勝手に腰を振りだすからね」
「はい、わかりました!
じゃあ先輩。俺がいっぱい射精せてあげますね」
腰を押さえて付けていた指を、俺の揺れているペニスに絡める部下。
俺のペニスは痛みで萎えていたが、
直接前立腺を掘られていたせいで細い先走りを垂らしていた。
筋張った細長い指が、俺のペニスの上を吸いつくように這う。
先っぽを包み込むように、強弱をつけて全身を扱かれた。
「アッ!……アッ!アッ…ッ!」
完全に勃起した俺のペニスを、興奮で息を切らせながら部下が更に揉みしだく。
部下は俺が感じ始めた事に、一種の征服感をそそられているのだろうか。
「………」
一度感じ始めた俺を更に高みへと追い込み始める。
背中に覆いかぶさり、獣のように俺を犯した。
絡み合う、
まるで相手を服従させる交尾のような、
そんな野生的な行為だった。
「ん、ん……、ん!」
全身を巡る、異常な興奮。
男に、見下していた部下にレイプされる屈辱感が、
俺をいままでにないほど興奮させた。
次第に耐えられなくなった俺は、ついに自ら腰を突き上げ始めてしまう。
自ら求めるような俺の好意が、部下の興奮を煽った。
たしかに増えた部下の男の体積が、
荒れ狂うバイブのウネリとともに俺を凌辱し続けた。
もう部下はしゃべらなくなった。
興奮で、
俺を犯すこと以外に頭が働かないのだろう。
テクも忘れて、本能のみで俺を犯し続ける部下に、
俺は快楽を感じながらも苦笑してしまう。
必死に腰を擦り付ける部下の苦悩の顔が妙に頭に残りながら、
俺は痛みと快楽の波に飲まれ意識を失ってしまった。


「この!バカヤロー!触るな寄るな!息するな!」
帰社の途中にヘラヘラと話しかけてくるヤツに、俺はどなり声をあげた。
もちろん相手は部下だ。
俺を気絶するまでさんざん犯し続けた部下は、
俺に怒鳴られシュンとしている。
結局、数時間にわたって犯されたあとに、
俺は自分が犯されている写真とともに契約書のハンコを受け取った。
社長は笑いながらまたよろしく頼むと満足そうに言っていた。
「そんな怒鳴らないでくださいよ。契約は取れたんだからいいじゃないですか」
デカイ身体を委縮させ、
こちらの機嫌を伺っている部下の姿はなんとも奇妙だった。
「うるさい、馬鹿!離れて歩けこのレイプ魔!」
「そんなこといいますけど、初めに俺を社長に引き渡そうとしたのは先輩ですよ!」
「俺はいいんだよ!仕事できんだから!お前は顔しか能がないだろうが!」
「失礼な!俺顔だけじゃなくてこっちにも自信あるんですから!
先輩だって俺のコレに突かれて何度も感じてたはずですよ!」
あー、そうだ。俺は結局こいつに犯され続け、泣いてしがみ付き射精し続けたのだ。
何度も何度も犯されて、何度も何度も達したのだ。
それが悔しくて認めたくないから、こうして怒鳴り散らしているのである。
俺は部下から距離を離そうと、走り出そうとするが、
「!」
犯され続け弱っていた俺は足元を踏み外してしまう。
「だ、大丈夫っすか!先輩!」
倒れかけた俺を支えたのは大きな腕だった。
筋張った指だった。
逞しい、スラリとした体だった。
俺は条件反射的に顔が熱くなってしまう。
「ば、っばか!放せよ!」
思わず滾ってしまった自身に喝をいれる。
仄かに香るコロンが、いまだ涙で赤い鼻を優しく包む。
顔だけが取り柄の、この無能な部下に支えられたまま、
俺はしばらくしがみついたままだった。
互いに目が合って、
苦笑した。
一瞬の間の後、
部下は俺にキスをした。
俺は拒まなかった。
「今日先輩の家に泊まりますから、ゴム買っていきましょう」
悔しさに目線を逸らし、小さく頷く俺に、
部下は微笑んだ。
悔しかったけど、拒めなかった。
広い胸の中に抱きしめられ、
俺は小さく息をした。

だって仕方ないじゃないか、
気付いてしまったのだから。



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