【家畜飼育日記3】
その日以来、人間が小屋の中から出てこない日々が続いた。
私がどんなに呼びかけても、
どんなに許しを請おうとも、
人間は私を怯え続けた。
私が人間と触れる時は栄養剤を注射するその時だけだ。
人間はモノを食べなくなってしまったのだ。
笑わなくなってしまった人間を思うと、
毎日が悲しかった。

人間が脱走したのは昨日のことだった。
日に日に衰弱する人間を思い、
稲の穂なら食べるのではないかと、
わざわざ地球から米と呼ばれる食物を取り寄せた日のことだ。
粥と呼ばれる地球の病人食を、
私は書物を片手に拵えたのだ。
せめて食物を食べてくれれば大分状態が良くなるだろうと、
私は一縷の望みをかけた。
またあの笑顔が見たかった。
笑いかけてほしかった。
ほんの他愛のない仕草でもいい、
ほんの少しだけでもいいのだ、
私を受け入れてほしかった。
「おい、人間よ」
栄養を多く含んだミネラルウォターと共に、
自作の粥を乗せたトレイを人間の小屋の前まで持ってきたとき、
私は異変に気がついた。
人間がいなかったのだ。
いつもなら、小屋の片隅で毛布に隠れ、身体を小さくして寝ているというのに
いま小屋の中はもぬけのカラだった。
衰弱した身体に首輪は辛いだろうと外したのが仇になった。
私は焦った。
全身にはりつく冷汗を、嫌というほど感じた。
どこか別の場所に隠れているのではないかと、
最後の望みをかけ、部屋の至るところを探すが、
やはり人間はどこにも見えない。
「おい!人間よ!」
大声を上げても、無駄だった。
私に怯え、人間は隙を見て外に逃げてしまったのだろう。
私は自分の不用意さを呪った。
この星で、人間が外に出て生きていけるはずがない。
官憲に捕まればおそらくその場で射殺されてしまうだろう。
野犬にでも襲われたら、人間ではひとたまりもないだろう。
そもそも、人間にはどこにも、
行くあても、頼る場所も、知る場所すらもないのだ。
たとえ誰かに見つからず、ひっそりと隠れていたとしても、
この寒空の下、衰弱した人間が行く着く先は死しかない。
人間を強姦したあの日の、死んだように動かなくなった人間の姿が頭で重なる。
私はますます不安になった。
私は走った。
人間を失いたくなかった。
あの笑顔を失いたくなかった。
私は街中を捜索した。
人間の匂いを辿り、
私は走った。
匂いを辿り、
走った。
走っても、走っても、
人間の元へは辿りつかなかった。
匂いはまだ続いている。
人間の小さな歩みが、手に取るように分る。
繁華街の明かりが恐ろしかったのだろうか、
人間の匂いは街から離れ路地へと続く、
路地の罵声が恐ろしかったのだろうか、
人間の匂いは路地から離れ森へと続く、
森の暗さが恐ろしかったのだろうか、
人間の匂いは森から離れ道路へ続く、
そして、
人間の血の匂いが私の鼻を強烈に刺した。
だが人間はどこにもいなかった。
車に撥ねられたのではあるまいか。
私の中に絶望が生まれた。
人間の匂いはまだ続いていた。
込み上げてくる感情を抑え、
私は走った。
人間を失いたくなかった。
匂いを辿り、
私は走った。
血濡れた道路で傷ついたのだろうか、匂いは森へと戻った。
森から路地へ、
路地から繁華街へ、
人間は彷徨い続けたようだ。
そして匂いが途切れた先は、
私の部屋の前だ。
私は唖然としていた。
人間は戻っているのかもしれない。
希望が生まれた。
早く人間を発見しなければと、
私が急ぎ部屋の前まで走り、目にしたものは、
見張りの警備員に警棒で殴られている人間の姿だった。
人間は血塗れの姿になりながらも、必死に私の部屋の戸にしがみ付いていた。
戸から引き離そうと、警備員は人間を容赦なく打ちたたいている。
引き剝がされまいと、
必死でしがみ付き、人間は頑なに手を離さなかった。
「やめろ!それは私の所有物だ!」
その哀れな姿に震えながら、私は警備員を静止した。
私は人間に駆け寄り抱き寄せた。
血塗れで息も絶え絶えだったが、人間は生きていた。
私は安堵した。
抱き寄せる人間の肌は冷えきっていた。
素足で逃げ出したためか、人間の足は赤く爛れ。
車にはねられたのか腕には裂傷を負っていた。
だが人間は生きていた。
人間はみずから私の元に戻ってきたのだ。
私の姿を視認した人間は瞳いっぱいに涙をため、
私にしがみ付き、おいおい泣いた。
よほど外が恐ろしかったのだろう。
人間は、恐れていたはずの私に助けを求めている。
本来なら逃げ出した事への咎を責める筈なのに、
私は人間を優しく宥めた。
私は人間が生きていた事を感謝せずにはいられなかった。

人間が逃亡した日から一週間。
傷だらけの人間を、私は自室で看病し続けた。
血をぬぐい、傷の処置をし、私のベットに寝かせた。
人間の傷は思ったより深いものだった。
警備員に殴打された場所も酷かったが、
やはり車にはねられたのだろう。
人間の右腕は重症だった。
ベットにいる最中、人間はずっと私の腕を握っていた。
用があるからと、
私が立ち去ろうとすると、人間は目を覚まし独りにしないでほしいと泣いて訴えた。
人間は私に依存していた。
医療道具や食料を買い足し帰宅すると、
人間は必ず私に抱きついてくるようになった。
人間は、独りにされるのが怖いのだという。
おそらく誰一人味方のいないこの星で、
頼れるのが私一人だけなのだ。
人間は私と共に寝るようになった。
独りで寝るのが怖いのだという。
私は人間の温かさを感じながら毎夜人間を撫でながら寝た。
そろそろ胃も落ち着いてきた頃だろうと、
人間に粥を食べさせた。
人間は喜んでそれを食べた。
おいしいと、呟き人間は微笑んだ。
私は驚いて耳の先からまで尻尾の先まで奮い立たせた。
ほんの少しだが、たしかに人間は笑ったのだ。
私はそれがとても嬉しくて、
何度も何度も口の中に粥を運んだ。

人間は次第に元気を取り戻した。
腕の裂傷はいまだ癒えてなかったが、
立って生活ができるほどにまで回復していた。
そんなある日、
私が帰宅すると懐かしい匂いが出迎えた。
人間の手料理の香りだ。
私は早足でキッチンに向かうと、
人間は不自由な片手で必死に料理を作っていた。
捨てたはずだったあの破れたプレゼントの服を着て、
人間は私に料理を作ってくれていたのだ。
私は感激した。
感激のあまり震えてしまうほどだった。
人間との笑顔の生活が戻るのだと思うと、
胸は躍った。
私に気がついた人間は、少し気不味い顔をし、
勝手に服を着ていることを詫びた。
破れてしまっていたが、やはりこの服は人間によく似合った。
顔色を伺っている人間に、私は微笑みかけた。
人間は私が怒っていないことを知ると、嬉しそうに笑った。

社から調査員が送られてきたのは、人間との新たな生活に慣れ始めたころだ。
本来は人間を社に連れて行くはずだったのだが、
私は拒否した。
人間を怯えさせたくなかったからだ。
すると社から送られてきたのが私の知人の生物学者だ。
人間の商品化に向け、詳しい生態調査がしたいのだという。
見知らぬ知人に、人間はあからさまに怯えた。
外に逃げ出したとき、よほど虐められたのだろうか、
人間は私以外の者に顔をあわせるといつも小屋に隠れてしまっていた。
今回もやはり隠れてしまった人間に、私は声をかけた。
「おい人間よ」
人間はビクリと肩を震わせた。
「人間よこちらへ寄れ」
私の言葉には逆らえないのか、人間は怯えながら私の後ろに隠れた。
「これがそうですか。しかし、なぜ人間ごときに服をきせるのです」
「主には関係ない。調査をしたいなら早く済ますがよい」
不安げに見つめる人間に、私は大丈夫だと慰める。
「とりあえず下を脱がせて、白濁を確かめます」
嫌がる人間を私は窘めた。
人間は羞恥で顔をそめた。
そうだ、アレ以来。人間をレイプしてしまった日以来、
私は人間の白濁を飲む行為をしていなかったのだ。
人間には久々の搾乳が耐えられないのだ。
しかし社からの調査を無下にするわけにはいかない。
私が人間を押さえつけると、
人間は小さく呻いた。
知人は乱暴に人間の下肢を剥ぐと、人間の性器をわしづかみにして扱いた。
久しぶりの行為で感度が上がっているのか、
人間は息を大きく乱した。
「……ぁぅ………んぅ!」
取り押さえる私にしがみ付き、人間は二度三度大きく跳ねた。
知人が搾りとるように人間の性器を揉みしだくと、
人間は濃厚な白濁を吐き出した。
知人は白濁を手に取り丁寧に舐めとった。
「これは…たしかに美味ですね。どれもういっぱい」
「や……!ま、まって……ください!」
人間は赤くした顔を左右に振り拒否したが、
知人はかまわず乱暴に性器を扱きだす。
久々の搾乳は人間を大きく辱めたようだ。
私は黙って見ていることしかできない。
もしここで人間に味方し、搾乳を止めさせたとしたら、
重要な欠陥として社に報告がまわり、
ヘタをしたら人間の処分を言い渡される可能性もあったからだ。
人間が大事だからこそ、
私は見守ることしかできなかった。
せめて慰めてやろうと頭を撫でると、
人間は乱暴な扱きで赤く腫れた性器を震わせた。
人間は泣きながら私に救いを求めた。
何度も何度も人間は果てた。
果てるたびに私にしがみ付き、必死に耐えていた。
五度目の白濁を吐き出した後、知人は興味深げに人間のアナルを見つめた。
人間のアナルは白濁の放射にあわせ卑猥に揺れていたのだ。
「ふむ、おそらくここを直接刺激すればもっと白濁を出しますね」
そう淡々と語ると、
私が止める間ももたず、知人は人間のアナルに指を挿入しはじめた。
「やぁぁ……っ…だ!ぁぁぁぁーーー…っあ!」
知人は手加減せずに指を奥まで差し込むと、
中をまさぐりながら再度人間の性器を扱いた。
私に犯された時の恐怖が襲うのか、人間は小刻みに痙攣して怯えた。
私にしがみつく手に、よりいっそう力がこもる。
指との結合部分が淫猥な音を奏でる。
中で指をさんざんにこねくり回されているのだろう。
人間がまた小さく跳ね、六度目の白濁を吐き出した。
「なるほど、私が思ったとおり。人間は性処理の道具としてもつかえそうですね」
仏頂面の知人が関心したように言った。
「すこし狭いですが、ここに我々の性器もなんとか入るでしょう。
性器で中を刺激すればもっとたやすく白濁をだせる。
これは一石二鳥です」
言いながら人間を押さえつけ自らのベルトを外そうとする知人に、私はさすがに怒声をあげた。
「やめろ!人間が怯えているではないか!」
言葉を聞いた人間はひどく錯乱した。
またレイプされると思っているのだ。
私にさんざんに切り裂かれ、
犯された記憶はいまだ人間の恐怖として残っているのだ。
人間は必至私にしがみ付き助けを求めた。
「ふむ、困りましたね。では貴方が確かめてください。
人間に我らの性器が入るのかどうか」
人間は震えた。
私は迷った。しかし私以外の者に人間が犯されるのだと思うと我慢ができなかった。
私は知人を押しのけると、人間の上に圧し掛かった。
「人間よ、しばらく目を瞑って耐えていろ」
優しく髪を撫でると、
私は人間にそっと挿入を開始した。
前回のような失態はしない。
人間が苦しまないように神経を集中して性器を埋め込む。
人間が小さく悲鳴を上げた。
どうやっても私の性器のサイズはきついらしい。
人間は痛みに耐えるように私に抱きついた。
「よし良い子だ」
完全に性器を埋め込むと、私は人間を慰めた。
人間の中はやはりキツいが、中は滑りを帯び気持ちよかった。
乱暴に犯したい衝動が襲うが、
私はグッと我慢した。
せっかく築いた人間との信頼関係を壊したくないからだ。
あれほどに傷つき、怯えていた人間が、
やっと私に笑いかけてくれるようになったのだ。
私は人間を失いたくない。
故郷に帰れず泣きぬれる日々を送る人間。
私しか頼る者がいない人間。
私に毎日の幸せをくれる人間を、
どんなに些細なことでも傷つけたくなかった。
「お…願い……しま…すっ、ぬい…てっ…さい」
人間が泣きぬれた顔で私に訴えた。
純粋な痛み以外の恐怖を必死に堪えているのだろう。
人間の懇願は私の胸に鋭く突き刺さった。
しかしこの場で挿入をやめてしまえば、
知人は社にどんな報告をするかもわからない。
人間が処分されるのだけはどうしても嫌だった。
「人間よ、お願いだ。どうか耐えてくれまいか。
私はお前を失いたくないのだ」
「…ぁ………」
私の言葉に人間は驚いていた。
私が命令ではなく、懇願したのがよほど衝撃だったのだろう。
人間は私の胸に顔を埋めると小さく、はい、と声を漏らした。
「ではそのまま中を刺激して白濁を絞り出してください」
知人はメモを取りながら事務的な作業を続けた。
「人間よ、辛いのならば私の皮を噛め。
褒美が欲しいのなら後で何でも買ってやろう。
だから今だけでよい、今だけでよいからどうか耐えてくれ」
私は人間を気遣いながら腰を蠢かした。
私の腰の動きにあわせ、人間は浅い声を漏らす。
早く白濁を出せるよう、人間の身体のすみずみを優しく愛撫した。
人間は次第に興奮してきたようだ。
私の大きさにも慣れだしたアナルは、私の動きを柔軟に受け止め、
私を絶頂へと上り詰めさせる。
私はなんとか堪えると、人間が感じる場所を何度も突き上げた。
人間がだんだんと私の動きで快感を感じるようになった。
私が奥を擦るたび、人間の息は乱れ、私を堪えるように咬みつくのだ。
その息を乱す姿はとても愛らしく、
私は思わずキスをしてしまった。
人間は驚いたようだったが、それ以上に驚いていたのは私自身だ。
まさか人間と接吻するなど、
本来ならば考えられないことだ。
だがそんな事はもうどうでもよかった。
私はとっくに人間に夢中だったのだ。
歯列を舌でなぞり、口を大きく開かせ私の唾液を注ぎ込んだ。
人間はたどたどしい動きで私の唾液を飲み下す。
女にはない反応だった。
キスされてることに気がついた人間は、初めこそ戸惑っていたが、
次第に私の舌の動きにも答えるようになった。
人間の口腔はとても甘かった。
私は夢中で人間の快楽を煽った。
人間が気持ち良くなるように、
人間が快楽で辛さを忘れられるように。
私は何度も人間を優しく愛撫した。
やっと人間が果てた時、私は人間の中に熱い飛沫を注ぎ込んだ。
いっそ人間が私の子でも孕めばいい。
そんな風にさえ思えてしまうほど、
私は人間を愛してしまっていた。

知人は社に人間は素晴らしい生き物だと報告した。
後日、大規模な人間捕獲作戦を開始するらしい。
その先発隊として、私はその計画の指揮を取ることになったのだ。
私は複雑な思いで社からの称賛を浴びた。
そんな社での出来事に眉を顰めた私を、
人間が不思議な顔で眺めていた。
その少し間の抜けた顔に私は微笑みかけ、
人間を抱き寄せてキスをした。
人間は恥ずかしそうに笑うが嫌がらなかった。
人間をベットに押し倒すと、二人分の重さにシーツが沈んだ。
あれから私は人間とセックスをするようになった。
人間はよく笑うようになった。
私もよく笑うようになった。
私は毎日が幸せだった。
人間が喜んでくれるなら、
人間が笑ってくれるなら、
私はどんなことでもしようと誓った。

人間を愛してしまった私は、人間が一番喜ぶ事を考えるようになった。
人間はきっと故郷に帰ることを望んでいるだろう、
と。
考えた末の結果が
愛してしまった人間をこっそり故郷の地球に帰すことだった。

人間捕獲計画の実行日に、私は現地案内として人間を同行させた。
人間は複雑な顔をしていたが、
私は気付かぬフリをした。
青い地球は美しい星だった。
人間は複雑な顔で星をみつめていたが、
私は気付かぬフリをした。
船が地球に着地し、扉を開けたのを確認した私は、
元から隠していた柑橘系ガスをあたり一面に撒き散らした。
調査団はみなバタバタと気絶した。
人間も事態が飲み込めずパニックを起こしていた。
次第に私もガスの匂いに負け、意識が朦朧としてくる
倒れこむ私の視界に宇宙船を抜け出す人間の姿が映った。
人間は最後のチャンスと私から逃げ出したのだ。
そう、それでいいのだ。
人間よ、故郷の地球で幸せに暮らせばよいのだ。
私のことなど忘れて、
毎日笑顔で暮らせばよい。
ただホンの一瞬でいい、
私の事を思い出す時があるならば、
それらは悲しい思い出ではなく、笑顔の記憶であればいいと願った。
崩れゆく意識に人間の笑顔の記憶が最後に映った。
人間と過ごした日々、私は幸せだった。



















目が覚めた時、
人間はまた泣いていた。
人間はいつも泣く。
だが、なぜ人間は泣いているのだろう。
私は自室のベットで寝ていた。
そこには涙で泣きぬれた人間が私の手を強く握っていた。
いつまでも目を覚まさない私をずっと看病していたのだろうか。
私は不思議に思い尋ねた。
「人間よ、なぜ逃げなかったのだ
なぜ私を助けたのだ」
私の問いに、
人間は答えなかった。
人間はまた泣いていた。
人間はいつも泣く。
私は人間を強く抱き締めた。
もう放すまいと抱きしめた。
私の眼からは人間と同じモノが流れていた。



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